それは本来、壊れた物を修理するためのスキルだ。
基本的には探索者向けの武具を作る鍛冶師やアクセサリを作る彫金師なんかの、いわゆる生産職と呼ばれる者たちが稀に持っているスキルである。
そんな生産スキルの中でも修復術は実は結構なレアスキルであり、生産職であれば誰もが欲しがるほどの有用スキルでもあった。
それはそうだろう。
極めればスキルを発動するだけで壊れた武具を新品同然にまで元に戻すことのできるスキルは、生産職なら誰だって欲しがるはずだ。
私もスキルが判明した時には、探索者ではなく生産職を勧められたくらいだ。
結果としては、もうひとつのスキルのおかげで探索者として高みを目指せたわけだけど。
もちろん、凛子はそんなことなど知る由もない。
だからこそ、彼女はポカンとした表情を浮かべながら聞き返してきた。
「修復術って、あの修復術だよね……。私はてっきり、武器とかしか直せないんだと思ってたんだけど……」
「確かに、修復術を使ってる人はほとんどその用途でしか使わないわね。でも、
それは、修復術を使っていく上で私が抱いた疑問だった。
粉々に砕けた武器すら新品同様に直せるようなスキルなら、ケガをした身体だって直せないはずがないのだ。
「だから、試してみることにしたの。幸いなことに、探索者になりたての私は弱くって毎日ケガが絶えなかったからね。実験するにはもってこいだったわ」
毎日毎日、ケガをしては自分の身体に修復術を使う日々。
それを続けているうちに、最初はなにも起こらなかったスキルも徐々に効果が表れるようになった。
そうして熟練度が上がっていくにつれ、いつしか私はその極地と言っても過言ではないまでにスキルを使いこなすことができるようになっていた。
「今じゃ、死ななければ大抵のケガは一瞬で直せるわ。そしてそれは、私のもうひとつのスキルととっても相性が良かったの」
「もうひとつの、スキル……?」
不思議そうに首を傾げる凛子に微笑みかけながら、私は頷きながら口を開く。
「さすがの私でも、修復術だけじゃここまで人間離れした強さにはなれないわ。むしろこのスキルがなければ、きっと私は探索者を諦めていたか、どこかで野垂れ死んでたわね」
「そんなすごいスキルが……。もしかして、ユニークスキルとか?」
「ユニークスキルではあるけど、でもそんなに期待するようなものじゃないわよ。世間的に見れば、かなりの外れユニークだから」
実際、過去に同じスキルを所持していた人たちはそれを使いこなすこともできずにこの世を去ってしまっている。
「だけど、私にとっては最高のスキルよ」
言わばそのスキルこそが、私をSランクという高みに連れて行ってくれたというべきだろう。
だから私は、まるで宝物を見せる時のように慈しみを持ってそのスキルの名前を呟くのだった。