配信を切った後、ジュエルリザードたちのドロップアイテムを拾い集めた私たちはダンジョンから地上へと帰ってきていた。
「いやぁ、穂花ちゃんがマジックバッグを持ってて助かったね。あんな量のアイテム、ふたりだけじゃ絶対に持ち切れなかったもん」
「むしろ、なんで凛子はマジックバック持ってないのよ。中層まで行くレベルの探索者なら、あれって割と必須アイテムだと思うんだけど」
「あはは……。配信してるとあんまりドロップアイテムを拾う暇ないし、それにカメラとかの機材を優先しちゃうとどうしてもお金が足らなくて……」
「それで金欠になってたら本末転倒でしょ。仕方ないから、今度一緒に買いに行くわよ」
そんな風に軽口を叩き合いながら受付まで戻ると、そこには心配そうな表情を浮かべたお姉さんが待っていた。
「ふたりとも、おかえりなさい!」
私たちの姿を見つけたお姉さんは笑顔を浮かべて駆け寄ってくると、いきなり私たちを両手で包み込むように抱きしめる。
「わっ!? わわっ!?」
「ちょっと、お姉さん。こんなところで、恥ずかしいわ」
いきなりの事態に混乱する凛子と、恥ずかしさに頬を染めながら抗議する私。
そんな私たちの様子などお構いなしに、お姉さんがなおも力強く私たちを抱きしめ続ける。
「だって、心配したのよ! 楽しく配信を見てたらいきなりイレギュラーが起こるし、そのままふたりで向かったと思ったらあんなに大量のモンスターが居るんだもの! 穂花ちゃんだって、いっぱいケガしてたし」
「大丈夫よ。私がケガなんてすぐ直せることは、お姉さんだって知ってるでしょ?」
「知ってるけど、それはそれよ! ケガしたら誰だって痛いし、大事なお友達がケガしたら誰だって心配するでしょ!」
面と向かってそんなことを言われて、私はなんだか面映ゆい気持ちになる。
思わずお姉さんから顔を背けてしまうと、そんな私を見て凛子は優しい微笑みを浮かべた。
「照れちゃってる穂花ちゃん、なんだか可愛い……」
「てっ、照れてなんかいないわっ! ただ、ちょっと恥ずかしいだけ……」
慌てて反論しても、ニヤニヤと笑みを浮かべるふたりにはまるで効果がなかった。
「まったく……。どうしてあなたたちはそんなに息ぴったりなのよ。初対面のはずでしょ?」
もしかして、私の知らないところで実は仲が良かったりするのだろうか?
そんな一抹の不安を吹き飛ばすように、凛子とお姉さんは顔を見合わせて口を開いた。
「そう言えばそうね。ごめんなさい。いつも配信で見てるから、顔見知りみたいな感覚になっちゃってたわ」
「えっ? 見てくれてるんですか!? ありがとうございます!」
どうやら、お姉さんは凛子の配信のリスナーだったらしい。
「だからさっきの配信も見ていて、すぐに私へ電話を掛けたのね。って言うか、仕事中に配信なんて見てていいの?」
「それはほら、ちょうど休憩時間だったし……。それにそのおかげで迅速に対応できたんだから、
ごまかすようにわざとらしく笑いながらそう言ったお姉さんは、さらに早口で言葉を続ける。
「そんなことより、いつまでもここでお喋りしてたら通行の邪魔になっちゃうわ。部屋を用意してあるから、続きはそっちで話しましょう」
「誰のせいだと思ってるんですか? ……まぁ、確かに邪魔っぽいですし、いいですけど」
さっきから周りの視線も気になるし、ここはお姉さんの提案に乗っておくことにしよう。
そうして私たち3人は、連れだって受付の奥にある個室へと向かって歩いて行った。