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第33話

 用意してもらった部屋に備え付けられたソファに凛子と並んで座ると、お姉さんは全員分のコーヒーをテーブルの上に置いてくれる。

 そのままテーブルを挟んで正面に座ったお姉さんが微笑みとともに口を開いた。

「改めて、ふたりともお疲れさま。ふたりのおかげで、イレギュラーを早期解決することができました。管理局として感謝します」

 そう言いながら頭を下げるお姉さんに、私たちはただ微笑みを返す。

「お礼なんていいのよ。イレギュラーの対応は、探索者の義務みたいなものだから」

「そうです。それに、私にとってもいい修行になりましたから!」

「そう言ってもらえると助かるわ。最近、探索者たちの中でも管理局に対して非協力的な人たちが増えてるから、穂花ちゃんたちみたいに強くて協力的な人がいてくれると私としても心強いの」

 そう言って、どこか遠い目をしながら虚空を見つめるお姉さん。

 その表情は、それだけでお姉さんの苦労を物語っているような気がした。

「……まぁ、そんな話はどうでもいいわね。それより凛子ちゃんとは、はじめましてよね」

「は、はい。Dランク探索者の園崎凛子です。一応、配信もやってます」

「ダンジョン管理局職員の乙倉おとくら小春こはるです。さっきも言ったけど、リンリンちゃんの配信はいつも楽しませてもらってるわ」

「えへへ、ありがとうございます!」

 和やかな雰囲気で自己紹介をしあうふたりの様子を眺めながら、私はテーブルの上のコーヒーを楽しむ。

 それにしても、お姉さんの名前って久しぶりに聞いたかもしれない。

 普段からお姉さんとしか呼んでなかったから、すっかり忘れてしまっていた。

「……ねぇ、穂花ちゃん。なんだか失礼なことを考えてない?」

「あはは、気のせいですよ」

 どうやら、顔に出てしまっていたらしい。

 ごまかすように笑いながら答えると、お姉さん改め小春さんは納得いってなさそうに頷く。

「……まぁ、いいわ。穂花ちゃんが失礼なのは、今に始まったことじゃないしね」

「ええ、それは酷いですって。せっかく、小春さんにとっても良い話を持ってきたのに」

 抗議するようにそう声を上げると、小春さんは分かりやすく首を傾げる。

「良い話? いったい、今度はどんな面倒ごとを持ってきたの?」

「だから、今日は本当に良い話なんですって。そのために、凛子も一緒に連れてきたんですから」

「えっ? 私!?」

 いきなり話を振られた凛子が驚きの声を上げるけど、ここはいったんスルーしておく。

「小春さん、この間言ってましたよね? 管理局の上司から、公式配信者を探せって指示されてるって」

「うん、言ったけど……。まさか……」

「はい、そのまさかです」

 なにかを察して呟く小春さんに向かって、私は満面の笑みを浮かべながら大きく頷く。

「私と凛子。ふたり一緒で良いなら、公式配信者になってもいいですよ」


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