さて、ところ変わって再びダンジョンである。
結局のところ、戦闘の訓練をするのにダンジョン以上にお手軽で最適な場所は存在しないだろう。
「そんなこんなで、今日も今日とて修行編よ。代り映えしなくてごめんなさいね」
そしてダンジョンということで、今回もカメラを回して配信を行っている。
”こんほの~”
”こんほのー。今回も穂花ちゃんひとりなのか?”
”無事なのは知ってるけど、リンリンはいつになったら退院できるんだ?”
”なんかもう、このまま穂花ちゃんの個人チャンネルになっちゃいそうな勢いだよな”
「まぁ、そう思っちゃうのも当然よね。このチャンネルは『リンホノちゃんねる』って名前なんだし、リンが居ないとみんなも寂しいでしょ? と、いうわけで……」
そう言って私が話を振ると、カメラの外から彼女が勢いよく飛び込んできた。
「私、復活っ!! みんなー! こんりんりーんっ!!」
”うおおおぉぉー!! リンリンちゃんキター!!”
”退院おめでとう! 戻ってきてくれてうれしいっ!”
”あんな大ケガしてたのに、見たところ後遺症も全然ないじゃん。現代医学ってすげー!”
「いやぁ、後遺症とかが全くないのはどっちかっていうと穂花ちゃんのおかげかな。お医者さんが言うには、普通だったらもう探索者に復帰は難しいくらいの大ケガだったみたいだし」
「そうらしいわね。まぁ、そんなこと私が絶対に許さないけど。私の大事な大事なリンの身体に痛々しい傷跡が残るなんて、そんなの耐えられないもの」
もちろん、たとえ凛子の身体に傷跡が残ろうが彼女が可愛いことに変わりはない。
だけど、残らないのであればそれがベストなのも当然の事実である。
”久しぶりのリンホノてぇてぇ……。俺はこれが見たかったんだよ”
”あぁ……、心が浄化されるぅ……”
”というか、入院前よりも距離感が縮まってる気がするのは俺だけ? もしかして、入院中になんか進展でもあったのか!?”
”馬鹿野郎! そういうのは気づいても触れないのがマナーってやつだろ!”
なにやらコメントが騒がしいけど、きっとそれだけ凛子の復帰が嬉しいのだろう。
その気持ちが良く分かる私が腕を組んでウンウンと頷いていると、少し恥ずかしそうに頬を染めた凛子はそんなコメントたちに向かって事情を説明し始める。
「本当は、いつでも退院できたんだけどね。穂花ちゃんが修復スキルを使って、一瞬で直しちゃったから。だけどそんなの、もちろん前例がないから。どんな副作用があるか分からないからって、昨日まで退院の許可が下りなかったの」
それでも今日無事に退院できたのは、ひとえに凛子がお医者さんに向かってゴネにゴネたからである。
本来であれば今日の修行も私ひとりで行うつもりだったけど、そんな私の話を聞いて凛子が退屈を我慢できなくなってしまったのだ。
そのまますぐに担当の医師を呼んで、そこからはずっと説得という名のごり押しだ。
最終的に医師の方が根負けし、絶対に無理をしないという条件で退院を勝ち取ったというわけだ。
その翌日にダンジョンへやって来ているのだから、どうやらその条件は守られることはなかったみたいだけど。