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第100話

 もはやお馴染みとなってしまった応接室につくなり、ズカズカと部屋の中に入っていったバカ男はそのままソファにドカッと腰掛ける。

 そのあまりにも不遜な態度にもはや呆れて物も言えない私たちも続けて部屋に入ると、最後に入ってきた初老の男に促されるように向かいのソファへと座る。

 テーブルを挟んで向かい合う男は相変わらず不機嫌を隠そうともせず、そんな彼の態度に初老の男は気まずそうに額に浮かぶ汗を拭っていた。

「それでは改めまして、本日は突然の呼び出しにも関わらずお越しいただいてありがとうございます。私、今回の件で代理人を務めさせていただく朝倉と申します。そしてこちらが……」

「『ソウルトレック』の盛岡だ。お前たちでも、聞いたことくらいはあるだろう?」

「えぇ、まぁ名前くらいは。確か、この辺りのダンジョンを中心に活動しているクランよね」

 AランクからCランクまでの探索者が数多く所属する、全国的にも名の知れた大規模クランだったはずだ。

 その活動は多岐にわたり、新種のモンスターの発見や小規模ダンジョンの踏破など、様々な功績も残している。

 だけどそれとは反対に、所属者が多いせいかトラブルや悪いウワサも絶えないクランとしても有名である。

「で、そんなクランの人が私になんの用かしら? スカウトだったら、残念だけどお断りよ」

「ふん! 誰がお前のような奴をスカウトなんてするか。ダンジョン配信なんて低俗なことをしている探索者、俺たちのクランには不要だ」

 どうやらこいつも、ダンジョン配信に対して偏見を持っている探索者のひとりのようだ。

 それからもブツブツと文句を言い続ける盛岡は、いつまで経っても本題を話そうとしない。

 いい加減うんざりしてきて朝倉の方へと視線を向けると、申し訳なさそうな表情を浮かべた彼は遠慮がちに口を開いた。

「そろそろ本題の方へ移りましょう。森岡さんも、よろしいですね?」

「……いいだろう。ここで愚痴を言い続けても埒が明かないからな」

「では、私の方から本題についてお話いたします。今回不知火さんをお呼びしたのは、ズバリ先日の配信についてです」

「配信? なにか問題でもあったかしら? そっちのクランから文句を言われるようなことは一切なかったと思うけど」

 そもそも、今までの配信でソウルトレックのソの字も話題に挙げたことはない。

 全く心当たりがなかった私が首を傾げると、盛岡はイラついたように表情を歪ませて口を開く。

「一切ないだと? よくも臆面もなくそんなことが言えるな。お前たちの配信のせいで、俺たちのクランはえらく迷惑を被ったんだぞ」

「そんなこと言われても、心当たりがないんだからしょうがないでしょ。いったい私たちが、どんな迷惑を掛けたって言うのよ?」

 本気で盛岡の言っている意味が分からず、私はただ困惑気味に声を上げる。

 それがまた盛岡の怒りに触れたのか、彼はさらに声を荒らげようする。

 そんな彼の言葉を遮るように、その怒りを手で制した朝倉が私の質問に答えるように口を開いた。


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