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第101話

「先日の配信で、不知火さんは全世界に向けて空ヶ崎ダンジョンの深層の様子を公開されましたよね」

「ええ、したけど。それがなにか問題でもあったかしら?」

「いけしゃしゃあと。まるで悪びれる様子がないとは、本当に最低の人間だな」

「はぁっ!?」

 またしても口を挟んだかと思えば、あまりの罵倒に思わず私は冷たく声を上げる。

 その瞬間、私の身体から漏れ出した殺気によって部屋の温度が下がったような気がした。

 そして正面から直にその殺気を受けたせいか、目の前に座る男たちの動きは凍り付いたようにピタッと止まる。

「穂花ちゃん。ちょっと抑えて……」

 隣に座る凛子に袖を引っ張られて我に返った私が殺気をひっこめると、固まっていたふたりの動きも緩やかに動き出す。

「な、なんだいきなり……。野蛮な女だな」

 額に冷や汗をかきながらそれでも強がる盛岡だが、私が一睨みすればグッと喉を詰まらせながら身体をソファの背もたれへと引く。

「で? 最低で野蛮な私にはあなたたちがなにを問題視してるかまったく分からないから、詳しく説明してもらえるかしら?」

「いえ、それはですねぇ……。こちらとしましては、そもそも深層の様子を配信すること自体が問題と言いますか……」

「へぇ……。いったいどのあたりが問題だって言うのかしら? ダンジョン内での配信は、管理局から全面的に認められている合法的行為だけど。そうでしたよね、小春さん?」

「ええ、その通りよ。ダンジョン内ではごく一部を除いてどこでも誰でも、自由に配信することを認めているわ。それはもちろん、深層でも同様です」

「だ、だが! 深層の情報は俺たちクランにとって重要な機密であり、他のクランとの交渉材料でもある! それをむやみやたらに公開するのは、我々に対しての営業妨害と捉えられてもおかしくない行為だぞ!」

 そこまで聞いて、やっとこの人たちがなにを言いたいのかを理解することができた。

「つまり、今後は深層での配信をするなと。あなたたちはそう言いたいのね?」

「ええ、まぁ……。ありていに言えばその通りです」

「それだけじゃない。前回の配信で公開された深層の情報。本来であればその情報を使って我々が得るはずだった利益を賠償してもらおうじゃないか」

 渋い表情を浮かべたまま額の汗を拭う朝倉の隣で、盛岡は勝ち誇った表情でそう宣言しながら懐から一枚の書類を取り出す。

 机に叩きつけるようにして広げられたその書類にさっと目を通せば、そこには細かい字で先程の相手の要求を了承する旨と具体的な賠償額の内訳が記されていた。

「さぁ、分かったのならさっさとサインをしたまえ。最初から言っているように、長々と小娘の相手をしてやるほど俺は暇じゃないんだ」

 急かすような盛岡の言葉を受けて書類を手に取った私は、心配そうに見つめる凛子は小春さんの視線を感じながら……。

「お断りします」

 手に持った書類をビリビリと破り捨てた。


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