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第102話

「なっ!? お前、自分がなにをしたのか分かっているのか!?」

「あなたこそ、いったい自分がどれだけ無茶な要求をしているか理解してる? 深層の情報を公開するななんて、そんなことをあなたに命令される筋合いはないの。それとも、空ヶ崎ダンジョンの深層って言うのは、あなたたちクランの私有地なのかしら?」

 見る影もなくビリビリに引き裂かれた書類を机の上に降らせながら、私はさらに言葉を続ける。

「そもそもさっきも言ったけど、ダンジョンでの配信は管理局から認められているれっきとした探索者の権利よ。その権利を制限するつもりなら、もっとしっかりとした根拠を示してもらわないと」

「だ、だから……。俺たちにとって深層の情報は貴重な収入源のひとつで……」

「そんなの、私の知ったこっちゃないわ。そもそも誰だって頑張れば行けるような場所の情報で、いつまでも金儲けできると思ってる方がどうかしてるのよ」

「いや、誰でもは行けないと思うけどね……」

 吐き捨てるように答えた私の言葉に、凛子が水を差すように小さく呟く。

「……ともかく、私にはそんな言いがかりみたいな理由であなたたちに従う理由なんてないの。と言うわけで、話し合いはこれで終わりでいいかしら?」

 そのまま立ち上がろうとする私と、最初から無理筋だと分かっていたのか諦めたような表情を浮かべている朝倉。

 そんななか、いまだに状況を理解できていない諦めの悪い男が居た。

「待て! 勝手に決めるな! この契約にサインしないのならば、俺たちにだって考えがあるぞ」

「あら、それは脅しかしら?」

「ふんっ、この言葉をどう取るかはお前の勝手だ。だが、この場で契約しなかったことを後悔することになるだろうな」

 とぼけた風に言っているけど、ここまで分かりやすく脅しをかけてくるとは思わなかった。

 そしてこのやり取りに、さっきまで中立の立場で静観の構えを取っていた小春さんの目がキラリと光る。

「一応聞いておくけど、管理局職員の目の前で脅しをかけるその意味が分かっての行為なの?」

「さぁ、どうだろうなぁ? だが、所詮は管理局の下っ端風情になにができる? たとえ告発されたとしても、有望クランの俺たちとお前らのような小娘、管理局はどちらに味方するかな?」

 どうやら、この男はどこまでも私のことを馬鹿にして見下しているようだ。

 であれば私としてもこれ以上、手心を加えてやる理由などない。

「なら、最終確認よ。それがソウルトレックとしての総意ということで問題ないのね?」

「いえ、それは!」

「あなたは黙っていて。私は、ソウルトレックの交渉役としてここに居る盛岡に聞いているの」

 大量の汗をかきながら慌てて声を上げようとする朝倉の言葉を遮り、私はまっすぐに盛岡を睨みつける。

「もしそうなのだとしたら、Sランク探索者としてしかるべき対応をさせてもらうわ。管理局にも動いてもらうつもりだからよろしくね、ダンジョン管理局空ヶ崎支部長補佐さん」

「ええ、もちろんです。クランによる探索者個人への不当な圧力は、重大な法律違反ですから。支部長補佐として、厳正に対処させていただきます」

 私の呼びかけに、小春さんはいつにも増して厳しい表情を浮かべながら答える。

 そんなやり取りを聞いてやっと自分がやらかしてしまったことに気づいたのか、ここにきて初めて盛岡の顔色はみるみるうちに青く染まっていった。


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