「それでは、俺たちはこれで失礼させてもらうよ。これから、彼らと話し合いをしなくてはいけないからね」
そう言いながら向けられた権藤の視線に、盛岡と朝倉はビクッと身体を震わせて固まる。
「まぁ、そっちの処理はあなたの方で適切に対処してくれればそれでいいわ。私から要求することは特にないし、好きにしてちょうだい」
正直言って、これ以上は関わり合いになりたくない。
そんな私の気持ちを察してか、権藤は小さくうなずきながら答える。
「ああ、そうさせてもらうよ。君たちにはこれ以上の迷惑をかけないようにするから、そこは安心してくれていい」
「ええ、お願いね。次はこんなに冷静に話し合ってあげる自信はないから」
仏の顔も三度まで。
仏であっても三度までしか許さないのだから、私が二度目を許さなくてもなんの問題もないだろう。
そのまま解散の流れとなりかけた時、不意にそれは訪れた。
「ッ!?」
この場にいる人間の中で私と凛子、それから権藤の三人だけが気づいた異変。
三人同時に部屋の入口の方を振り返ったことに、小春さんたちは不思議そうな表情を浮かべながら私たちを見つめる。
だけど、そんなことを気にしているほどの余裕など私たちにはなかった。
「穂花ちゃん、これって……」
「ええ……。どうやら、さっそく貸しを返してもらう時が来たみたいね」
不安そうな声の凛子に短く答えると、権藤へと視線を向けた私は口角だけを持ち上げて笑みを浮かべる。
「いや、これは探索者としての責務だよ。これで借りを返したつもりになるほど、俺はそんなにみみっちい男じゃないさ」
「あら、そう? 私はどっちでも構わないんだけど、あなたがそう言うなら遠慮なく貸しはそのまま似させてもらうわ」
そう言葉を交わしていると、状況を理解できていない盛岡がおずおずとした態度で口を開く。
「ご、権藤さん……。いったいこれはどういう……」
その言葉を言い終わる前に、部屋の扉が勢いよく開いて管理局の職員が飛び込んできた。
「大変です、乙倉さん! ダンジョンで最悪のイレギュラーが発生しました! スタンピードです!!」
「なんですって!? すぐにダンジョンの入口を閉鎖して! それから、付近にいる探索者に連絡して協力を募ってください! それと穂花ちゃん、悪いんだけど……」
「もちろん、任せておいて。応援が到着するまで、モンスターは一匹も外に逃がさないから。行くわよ、凛子!」
「うん!」
小春さんが言い終わる前に、そう答えた私は凛子とともに部屋を飛び出していく。
「すまない、不知火さん。ソウルトレックの探索者で動ける者全員に招集をかけたら、俺もすぐに手助けに行く!」
「急がなくていいわよ。私の見せ場がなくなっちゃうから」
背中にかけられた権藤の声に軽口を返しながら、私はダンジョンへ向かって管理局の廊下を全力で走っていった。