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第123話

 衣装を全て綺麗に修復して身だしなみを整えた後、私たちは地面に転がっている二体の黒影を眺めながら管理局の回収班が到着するのを待っていた。

「……これ、本当にわたしがやっちゃったんだよね」

「そうね。このレベルの敵に完勝するなんて、すごい成長よ。誇っていいと思うわ」

 見たところ、ほとんど怪我なく勝利している凛子。

 その実力は、もはやDランクで収まるようなレベルではないだろう。

 あくまで私の見立てだけど、Bランクの上位かAランクの一歩手前くらいの実力はあると思う。

 そう考えて素直に賞賛してみても、凛子の表情はなぜか暗く沈んでいた。

「こんなの、誇れないよ……。だって、この人は探索者を何人も襲った犯罪者だけど、それでも人間だよ。私、人を殺しちゃったんだよ……」

 心の奥の不安や恐れを吐き出すように、うつむいたまま小さく呟く凛子。

 そんな彼女を見て、私は思わず呆れたような声を上げてしまう。

「はぁ? あなた、なにを言ってるの?」

「逆に聞くけど、穂花ちゃんは後悔してないの? 自分の手で人の命を奪って、どんな理由があってもそんなの許されることじゃないって、そう考えたりしないの?」

「そりゃあ、人を殺すのは私だって少しくらいためらうわよ。それでも、大事な人を守るためならたぶん殺るけどね」

 殺さなければ凛子や小春さんが殺されるというのなら、私はきっと普通にこの手を汚すだろう。

 もちろんそれは私の勝手な覚悟だし、それを凛子に強要しようなんて思ってはいない。

「それでも、その質問の答えとしてはそんなところよ。殺されるくらいなら、私は相手を殺すわ」

「穂花ちゃんは、強いね……」

「そうかしら? ただ人間性が欠けてるだけだと思うわよ」

 私としては、凛子のようにどんな相手であってもその死を悼む心を持っている方がよっぽど凄いと思う。

 そしてもうひとつ、彼女はとんでもない勘違いをしているようだ。

「一応言っておくけど、こいつらまだ死んでないからね」

「……えっ!?」

 沈んだ表情で唇を噛んでいた凛子は、私の発言に驚いた表情を浮かべながらこちらへ視線を向ける。

「死んで、ない? でも、だって……。頭潰れてるし、上半身なくなってるよ?」

「そうね。ゴキブリ並みの生命力だわ。ここまでしぶといと、本当に元が人間だったのか疑いたくなるわね」

 言いながら黒影に手を伸ばすと、私はその身体に修復をかける。

 そうすればなくなったはずの頭や上半身が元通りに生え、そしてその胸は呼吸によって微かに上下している。

「ほら、生きてるでしょ。凛子は人殺しなんてしてないの」

「そっか、生きてるのか……。良かったぁ……!」

 安心したからかその場に崩れ落ちるように座り込む凛子に優しく微笑みながら、私は相変わらず気絶したまま地面に転がる黒影を見張り続ける。

 そんな私たちのもとに管理局の回収班が到着したのは、それからさらに数十分経った後だった。

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