「では、こちらは回収させていただきます」
「ええ、お願いね。一応まだ生きているから、監視は厳重にしておいた方がいいわよ」
「もちろん、心得ています」
やっと到着した管理局の回収班に黒影を引き渡して、私はここでやっと一息吐くことができた。
探索者用に作られた特別製の拘束具によって固定されて運ばれていく黒影たちを眺めていると、そんな回収班と入れ替わるように遠峰が通路の先から私たちの元へと現れた。
「ご苦労だったな。探索者襲撃の犯人逮捕への協力、ならびにスタンピードの対応への協力感謝する。おかげで、二つの事案を同時に解決することができた」
「あら、あんたがお礼を言ってくるなんて珍しいわね。そもそも、こんな所までやって来て大丈夫なの? いくらスタンピード終わりでモンスターが激減していると言っても、戦えない人間にとっては十分危険な場所よ」
「心配せずとも、これでも多少は戦いの心得はある。いざとなれば自分の身を守って逃げることくらいはできるさ」
「そう。……まぁ、腐っても元探索者だものね」
納得したようにそう呟いた私の言葉に、遠峰の眉がピクッと震える。
「……その話、どこから手に入れた?」
「どこからって、あんたの部下が丁寧に教えてくれたわよ。他にもいろいろと捜査の状況なんかも教えてくれて、助かったわ。まぁ、あんまり役には立たなかったけど」
「くっ、あの馬鹿が……。一般人相手になにをベラベラと情報を漏らしてるんだ……」
苦虫をかみつぶしたような表情で怒りを露わにした遠峰は、しかしすぐに諦めたようにため息を吐く。
「はぁ……、まぁいい。俺が探索者をやっていたことは、別に隠していたわけじゃないからな」
消し去りたい過去ではあるが。
そう吐き捨てるように呟いた遠峰は、そのまま懐から取り出したタバコに火を点ける。
その表情にこれ以上この話を深掘りするのは躊躇われて、私は話題を変えるように周囲を見渡す。
「それで、その口の軽い部下さんはどこにいるのかしら? また別行動?」
「あいつは俺と違って戦えないからな。地上で待機だ」
「えっ? そうなんですか?」
私たちの会話を黙って聞いていた凛子は、遠峰のその言葉に不思議そうな表情を浮かべて声を上げる。
「凛子? いったいなにを驚いてるの?」
「いや、だって……。長谷川さんってもの凄く魔力を持ってるから、てっきり戦える人なんだと思ってて」
「魔力? 長谷川は、魔法も使えない一般人のはずだぞ。それに、一緒に居ても奴から魔力なんて感じたことはないが」
「まぁ、かなり上手く隠してるみたいでしたから。私も良く分からないですけど、たぶん魔力だけだったら私と同じくらいはあると思います」
サラッとそんなことを言う凛子だけど、その内容はとても聞き流せるようなものではない。
「凛子と同じくらいって、つまり化け物級ってことじゃない……」
「もしそれが本当だとしたら、なぜアイツはそれを俺にすら隠しているんだ……?」
突然降ってわいた疑問に、私と遠峰は同時に首を傾げた。