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第9話 魔原書リプセグ 星の音 嘘


 【星の音 最終章 最終話 嘘


 全てが終わり、世界はようやくその役目を終えました。


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様も、これでこの世界とはお別れです。


「やなの。お別れしたら、また離れ離れ。エレは、ゼロに会えないの。それに……」


「必ずまた会えるんだ。そんな悲しむ必要ねぇだろ」


「……」


 突然、エンジェリア姫の連絡魔法具から音が鳴ります。メッセージが届いたようです。


 エンジェリア姫は、そのメッセージを開きました。


『ごめん』


 たった一言。それだけ書かれたメッセージ。相手はフォル様からです。


「……ゼロ、まだ時間あるかな?」


「ああ。今なら間に合う」


「ふみゅ。フォルを見つけ出すの。それで、どんな事があっても一緒にいるんだって言ってやるの」


 エンジェリア姫とゼーシェリオン様は、フォル様の計画に気づいたのでしょう。急いでフォル様を探しました。


      **********


 フォル様を探して、思い出の場所を巡りました。ですが、どこにもいません。エンジェリア姫とゼーシェリオン様がここへ来る前にいた場所にも。


 フォル様はもうこの世界にはいない。そんな事は考えなかったのでしょうか。諦めずに探します。


      **********


 綺麗な星空。光る動植物。

 幻想的な景色の中で、フォル様は一人、佇んでおりました。


「良くここが分かったね」


「隠れるなら、自分で十巻くらい創り出す。フォルはどのくらい簡単なの。だから、エレが、魔法をいっぱい使って、ゼロにどこにいるか探してもらったの」


 それは、本来であれば、人手も時間も足りない事です。たった一人で、何十もの魔法を使う事などできませんから。

 エンジェリア姫とゼーシェリオン様の、フォル様に会いたいという執念が、それを短時間で成し得たのでしょう。


「やなの。エレ、フォルと一緒にいたいの!エレがどんな運命の中にあろうと、フォルと一緒を諦めたくなんてないの!だから、こんなもの残して、いなくなろうとしないでよ」


 エンジェリア姫の瞳から、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちます。

 身体の前で握った拳が震えています。


「……分かってるでしょ?君らが僕と一緒になる事なんてできないんだ。二人一緒なんて不可能なんだ」


「それで諦めろって?俺はそうじゃないが、エレは、あの時フォルが道を示してくれた日からずっと、そのためだけに生きてきたんだ。世界の声を聞く事ができながら、世界に嫌われる罪人。またエレをそんなものにさせる気なのか」


「そうならないように対策はしてある。君らは、何も知らずに、幸せに暮らしていけるようにしてある」


「……分かったの。それがフォルの望みなんでしょ?エレ達の幸せが、フォルの一番の望みなんでしょ?」


「そうだよ。もう、それ以外望まない。それ以外求めない。今までありがと。記憶のある状態でこうして一緒にいれるのは、これで最後だから言わせて。愛してる。どれだけ時が経とうと変わらずに」


 寂しそうに笑うフォル様。愛しているからこそ、その選択しかできなかったのでしょう。


 奇跡の魔法で、ノーヴェイズ様とピュオ様が再び出会うきっかけを与えました。リーミュナ様とアゼグ様が、外の世界へ出る事のできるきっかけを与えました。イールグ様が、ノーヴェイズ様とピュオ様に再会できるきっかけを与えました。ルーツエング様が、リーミュナ様とアゼグ様と外の世界を見る事もできるきっかけを与えました。


 そんな奇跡を与えてきた奇跡の魔法ですが、フォル様の後悔には何の効果もありません。


 ギュリエンはもう戻ってきません。ギュシェルはもう戻ってきません。ギュゼルはもう戻ってきません。


 この魔法で、あの時失くしたものは戻ってくる事はありません。


 フォル様の計画では、もう二度と神獣達とは関わる事ができません。ずっと、隠れて暮らす事になるでしょう。


 ルーツエング様や他ご兄弟、イールグ様とも会う事はできません。


「……ねぇ、もう少しだけ時間あるよね。なら、エレに付き合って」


 エンジェリア姫は、それに気づいていたのでしょう。それでも、ここでは止めなかったのでしょう。


「愛のー星でー響いたー音ーはーやがてーどこーかへー消えーてー

 いつかーどこーかでーまたひびーく


 沈んだ、かけらをー溢さなーいーでーたったー一つのー愛とー枷ー


 流れゆく星の音と、かけらもつきにー光ーをあたーえるー龍の蝶に永遠のー誓いと暗い大地でー祈るー静寂の灯火をー宿して

 奇跡の瞬間とー海のー愛を


 消滅の星でー消えるー音ーはーやがてーどこーかでーひびーくー

 いつかのー深愛のーメロディーでー


 全ての、世界とー愛のー姫ーそれが変わらぬ星の運命さだめ


 崩れゆく永遠の音と、壊れた星にー歌をあたーえるー最後の王と愛しの時間と枯れた大地でー願うー静寂の時の音をー歌って

 終焉の瞬間と星の光を


 一粒の水滴とー一筋の光がー

 見せるー輝きにー呑まれる小さな暗闇ー


 生まれてくる願いという欲を奏でてー


 流れゆく星の音と、かけらもつきにー光をあたーえるー龍の蝶に永遠の誓いと暗い大地でー祈るー静寂の灯火をー宿して

 奇跡の瞬間と海の愛を与えるのー」


 止める代わりに紡ぐ音。エンジェリア姫は、その音に全てを込めたのでしょう。


「ずっと昔のエレの歌。思い出せないけど、その時の想いは覚えているの。これが、今エレがフォルに届けられるもの。今は大丈夫って示せない。でも、必ず示すから」


「そんな事はできないよ。大事だからこそ、どれだけ大丈夫だって見せてくれても、安心させてくれても、心配なんだ」


 寂しそうに笑うフォル様。


 そろそろ、時間のようです。世界が崩れていきます。


「もう……まだ、一緒にいたいのに……」


 ――これはフォルがくれた奇跡の時間なの。むだになんてしたくない。今のままじゃ、このまま夢が終われば、何をやっても結果は変わらない。ここで可能性を作らないと。


 エンジェリア姫の思考を読み取りましたが、未来視を使ったのでしょう。このままこの世界が終わってしまえば、エンジェリア姫とゼーシェリオン様は、後悔すら知らないまま生きていく事になったのでしょう。


 エンジェリア姫は、フォル様に接吻をしました。


 重なった唇が、どんな可能性を生むのかは、私には分かりません。それはきっと、今のエンジェリア姫にしか分からない事でしょう。

 もしかしたら、今を生きるエンジェリア姫ですら分からないかもしれません。


「もう一つ言い忘れてたの。これはエレとゼロのなんだって見せるの。いつかルーにぃやエルグにぃ、御巫候補のみんなに、フュリねぇ達にお祝いしてもらうの」


 それは御巫を諦めないという宣言でしょう。


 御巫にならなければ叶わない事ですから。


「エレの魔力たっぷり。これで逃げる事なんてできないの」


 エンジェリア姫の魔力は特殊です。その魔力の中には、強力な縁繋ぎがあります。エンジェリア姫が望んでやらなければその効果はありませんが、今回はそれを望んだのでしょう。


 それは、フォル様でも逃れる事はできないでしょう。


「せいぜいエレ達と出会うのを寂しがっていれば良いの……みゅ?あれ?なんか違う気がする」


「フォル、フォルが俺らのためを思うくらい、俺らもフォルのためを思っているんだ。それを忘れないでくれ」


「ふみゅ。そうなの。多分それが言いたかったの」


「絶対違うだろ。そんな事思ってなかっただろ」


「むみゅぅ。とにかく、エレ達が想っているって事を覚えておくの。だいすきだって、愛してるんだって覚えておくの。エレはフォルに愛って感情の事を教えてもらったんだから」


 これは可能性。エンジェリア姫は、あの接吻とこれに賭けているのでしょう。


 愛魔法。それの発動条件をここだけで全て満たしました。愛を感じる事。そして、自分が愛する事。


 ですが、エンジェリア姫はまだ幼い。好きと愛の違いすら理解してはいません。理解しようとしてはいません。


 それを無理矢理理解しようとして。そうだと思い込んで使えるのは一回だけです。


 それをいつどうやって使うのかはエンジェリア姫次第です。


 エンジェリア姫のその言葉を最後に、世界は崩壊しました。夢から覚める時が来ました。


「もう諦めさせてよ」


 申し訳ありません。全て聞き取る事はできませんでしたが、それだけは聞き取れました。


 なぜ、フォル様がそんな事を言ったのか。想像はできますが、それは言いません。今のエンジェリア姫とゼーシェリオン様でお考えください。


 それと、最後にエンジェリア姫へ、エレクジーレス様からの伝言をお伝えします。


『たとえ離れていても、ずっと見守っている。その成長を見ている。我が愛しい子』


 エレクジーレス様は、エンジェリア姫を我が子のように想っているそうです。


 私も、エリクルフィアの地で、ずっと見守っております。


 魔原書リプセグ追記 星月へと捧げる夢の物語

 星の音 完】

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