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第13話 手紙


 ミディリシェルが目を覚ますと、ベンチで座っていた。


 ――フィルがいた気が……みゅみゃ⁉︎


 ミディリシェルは、眠っている時にかけてくれたのであろうケープに気づいた。


 それは、間違いなくフォルのもの。街中で匂いを嗅ぐのは流石のミディリシェルでもできないが、色とサイズがフォルの着ていたものにそっくりだ。


「ミディ!」


「ゼノンなの。お迎えありがと」


「お前迷子になったら連絡し……そうだった。連絡用魔法具持ってねぇんだった」


「ふみゅ。そうなの。でも、ミディが昔使っていたのならどこにあるか知ってるの。きっと、中層にあるの」


 エクリシェは、五層に分かれている。最下層、下層、中層、上層、最上層。どの層にも住居スペースに各自部屋があり、上の層へ行くほど、部屋が広くなる。


「中層から上改装中」


「ふみゃ⁉︎」


 ミディリシェルは、盛大に驚きのポーズをとった。そして、自分の頬をつねった。


「……いひゃい」


「何やってんだ?」


「夢かなって思ったの。でも夢違う」


「安心しろ。ものはそのままだ。廊下とか、自室以外の改装だ」


「ふみゅぅ」


 ミディリシェルは、安心して、無意識にケープを顔に近づけた。


「ミディ」


「違うの。安心しただけなの」


「……みんなには後で連絡して、とりあえず帰るか」


「……みゅ」


 これ以上街中でケープを顔に近づけるという失態を犯さぬよう、ゼノンが転移魔法を使ってくれた。


      **********


 エクリシェ最下層のゼノンの部屋。ミディリシェルは、お構いなくベッドに飛び込んだ。


「なぁ、男の部屋に男と二人っきり。少しは警戒心持てよ」


「ゼノン相手だから持たないだけなの。ゼノンも気にしないで良いの」


「はぁ……それで、何があったんだ?」


「ふみゅ」


 ミディリシェルは、自分が見たものを全部ゼノンに話した。夢で見た前回の記憶を含めて。


      **********


「って事なの」


「……ミディの話聞いていたら、俺も思い出してきた」


「ミディ、フォルに会いに行く。でも、場所分かんない。転移魔法使えない。だから、ゼノンに使ってもらうの」


「俺が分かるとでも?あの時は偶然だ。今回も行けるとは限らねぇよ」


 ミディリシェルは、転移魔法を使う事はできるが、場所が曖昧すぎて、役に立たない。ゼノンはそんな事がないため、ゼノンに転移魔法を頼みたかったが、頼めず、他に頼れる相手が思い浮かばない。


 ミディリシェルが、うんうんと悩んでいると、ゼノンが、部屋から出て行こうとしているのを発見した。


「待つのー」


「ここで待っていても何も進まねぇだろ。エルグにぃやルーにぃあたりなら何か知ってるかもしれない。話聞いてみる」


「それならミディに言うの。ミディも一緒に行くの」


「なら一緒に行くか。多分きっと帰ってきてたら良いんだが」


 ミディリシェルとゼノンは、話を聞くべく、ルーツエングの部屋へ向かった。帰ってきているかどうか、確認せずに。


      **********


 ルーツエングの部屋を訪れると、無駄足にはならかった。ルーツエングは、帰ってきていた。

 部屋には、イールグも一緒にいる。


「ふみゅ。お願いがあるの」


「なんだ?」


「フォルに会いに行きたいの。魔の森オーポッデュッデュ?に行きたい」


「あそこは、転移魔法を使えない場所だ。入口までなら行ける。それで良いか?」


「ふみゅ。それで良いの。準備したいから、明日お願い」


「分かった」


 ミディリシェルは、ゼノンを連れて部屋を出た。


      **********


 翌朝、ミディリシェルとゼノンは、再びルーツエングの部屋を訪れた。


「主様、俺も行きます。フォルには言いたい事もあるので。ミディ、良いか?」


「ふみゅ。良いの。でも、その前にフォルのお部屋に何かないか見てくるの」


 ミディリシェルは、そう言って、フォルの部屋に向かった。


      **********


 フォルの部屋を訪れると、ミディリシェル宛の手紙が机の上に置いてあった。


【僕の愛しのお姫様へ


 睡眠薬以外に、悪いものはなかったけど、身体に異常はない?発作起きてない?


 僕が選んだ服、着てくれてありがと。似合ってたよ。

 そのケープは、君に預けていくよ。


 それと、棚のミディとゼノンのぬいぐるみの間にある髪飾りを君にあげる】


 ミディリシェルは、手紙を読んで、棚を見た。


 ミディリシェルとゼノンの完成度の高い縫いぐるみが置かれている。

 その間に、羽の髪飾りが二個置かれている。


 ミディリシェルは、それを手に取り、髪につけた。


「似合う?」


「ああ。可愛い」


「ふみゅ。エルグにぃ、ルーにぃ。お手紙」


 ミディリシェルは、ルーツエングとイールグ宛に書かれている手紙を見せた。


【主様、弟って言ってくれて嬉しかった。ほんとの兄弟のようにしてくれてありがと。それと、ごめん。僕は、主様の弟でいられない。


 イールグ、いつもありがと。あの子らの世話をしてくれて。友人だって言ってくれて。僕も、ずっとそうなりたいって思っていたんだ。ずっと、そうのままでありたいって思っていた。でも、それは叶わないんだ。ごめん。今までありがと


 最後に、二人に頼もがあるんだ。ナティージェって覚えてるかな?彼女の従弟を保護して欲しい】


「ナティーの従弟なら既に保護してある。ミディ、何も気にせず、やりたいようにやれ」


「みゅ。ミディのやりたいように、フォルをぎゅぅしてくるの。ミディが止めるの」


「ゼノン、俺達はやらないといけない事がある。フォルのところまでは、二人だけで行く事になるだろう。ミディを支えてやれ」


「ああ。当然だろ」


「そうだな。今から、転移魔法を使う」


「ふみゅ」


 ルーツエングが、転移魔法を使い、魔の森オーポッデュッデュへ転移した。


      **********


 前回の記憶と変わりない景色。ミディリシェルとゼノンは、記憶を頼りに歩くが、フォルのいる場所には辿り着けない。


「ゼノン、前回迷子になっているのになんで記憶頼りに行けるって思ったの?」


「知らない」


「ここは迷いやすいんだ。道を知っているのはフォルくらいだろう」


「そうなの?」


「ああ。フォルだけは何故かいつも迷わずに行けるんだ」


 ――もしかして、あれも関係あるのかな?不思議なの。気にしないの。


 ミディリシェルは、前見た光があるか確認してみる。


「いっぱいなの。こっちなの」


「分かるのか?」


「みゅ。木さんが光って教えてくれているの」


「そうか。なら、先に行け」


「みゅ。ゼノン、行こ」


「ああ」


 前回同様、一本道に光る木。だが、前回よりも歩いている時間は短い。何故、木が光るのか。ミディリシェルにだけは見えるのか。


 何も分からないが、今はフォルの元へ急ぐ。


「ふみゃ⁉︎忘れてたの。エレの連絡魔法具」


「は?今は良いだろ」


「良くないの。自慢しようと思ったのに。前回、三年半費やして頑張って作ったエレの連絡魔法具。処理能力は、あの世界管理システム越え」


「なぁ、小型の魔法具にどうやってそんな処理能力できたんだ?」


 世界管理システムは、ノーヴェイズ設計の巨大魔法機械。処理能力を高める事で、一般庶民の家よりも巨大な魔法機械となっている。


 ミディリシェルは、それ以上の処理能力を、手で持つ事のできる大きさの連絡魔法具に搭載させた。

 それは、不可能とされている領域に足を踏み入れたという事になる。


「三年半も費やしてるんだから当然なの。ミディだよ?おにぃちゃんと一緒なんだよ?」


「お前らならできそうだな。だが、それ世に出すなよ」


「出さないよ。エレのとフォルにプレゼント用しかないの。ちなみにフォルにあげるのは七年費やした」


「あー、ミディ、もうそろそろ着くんじゃねぇか?」


「ふみゅ。ゼノンが話逸らしたのは良いとして、着きそうなの」


 木々の終わりが見えてくる。もう直ぐ、前回の最後の記憶の場所。フォルが待つ場所へ着きそうだ。

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