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第12話 前回の記憶


 エクリシェのゼノンの部屋。


 ミディリシェルは、魔法具の設計図を持って、勢い良く扉を開けた。


「ふっふっふ、見るが良いの。このとっても素晴らしい、ミディの魔法具設計図を」


 ミディリシェルは、得意げにそう言って、設計図をゼノンに見せびらかす。だが、ゼノンは、本を読んで、話を聞いていない。


 ミディリシェルは、めげずに、設計図を自慢する。


「この設計図を見ると良いの。ミディ特性の魔法具の設計図なの。とってもすごいの。ミディを讃えろなの」


「……」


 ゼノンが話を聞いてくれない。


 ミディリシェルは、瞳に涙を溜めて、設計図を見せびらかす。


「見るの……見て……見なきゃやなの……ふぇ」


「分かった。見るから泣くな」


 ミディリシェルが泣きそうになっているのを察したのだろう。ゼノンがやっと話を聞いてくれた。


「いつも通り説明するんだろ?聞いてやるから泣くな」


「みゅ。この魔法具は、フォルに頼まれて設計したの。とってもがんばったの」


「ならフォルに見せびらかすにいけば良かっただろ。俺じゃなくて」


「いなかったの。だから、探し行くの誘おうと思って。ついでに、自慢してやろうと思って」


 フォルがいなくなるのは珍しくない。だが、ミディリシェル達に連絡せず、何日もいないというのは珍しい事だ。


「探し行くってどこ行くんだよ」


「管理者の拠点。そこ行けば何か分かる気がするの」


 エクリシェへいない時は、管理者の拠点にフォルがいる事が多い。もしそこにいなかったとしても、どこにいるか手がかりを掴める。


「転移魔法で行くか」


「みゅ」


 ゼノンが転移魔法を使った。


      **********


 扉がなく、廊下が続いている。管理者の拠点では、部屋の扉が隠されている。


 ミディリシェルとゼノンが、フォルの執務室の方に向かい歩いていると、少女とすれ違った。


「ふぇ⁉︎ネージェなの」


「あっ、双子姫様。お久しぶりです。どうされたんですか?」


「フォル探してるの。知ってる?」


 管理者の少女、ネージェが、ふるふると首を横に振った。


「最近は見ていません」


「ふみゅぅ。そうなの。ありがと。監視部屋に行ってみる」


「階段が多いのでお気をつけて」


 ミディリシェルは、ゼノンと一緒に、地下へ向かった。


      **********


 地下の階段を降り、監視部屋へ着いた。


「ジュリン、ジュリア、久しぶり」


「久しぶりです」


 管理者の双子の男女。兄ジュリンと妹ジュリア。二人が、この監視部屋で世界を見守っている。


「これ借りて良い?フォルを探したいの」


「ええ。姫様でしたら」


「ありがと」


 世界を監視するための魔法機械。扱うのが難しいが、ミディリシェルは、慣れた手つきで、フォルを探す。


      **********


「……みゅみゃ⁉︎」


 一時間程探していると、怪しい結界を見つけた。


「ゼノン、これが怪しいの」


「そうだな。行ってみるか?」


「ふみゅ。行ってみるの」


 魔の森オーポッデュッデュ。その中央に謎の結界を見つけた。


 その結界の中は、この魔法機械を持ってしても見れない。実際に行かなければどうなっているか分からないだろう。


「ありがと、ジュリン、ジュリア。ミディ達は、ここへ行ってみるね」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンに転移魔法を使ってもらった。


      **********


「ふみゅ。尊敬するの。行った事ない場所まで転移魔法で行けるなんて。一度で成功しちゃうなんて」


 いかにも魔物が出てきそうな雰囲気を漂わせる森。


 ミディリシェルとゼノンは、森の入り口に転移した。


「ここから、中央まで歩くの……やなの」


「歩け」


 ミディリシェルとゼノンは、森の中央へ向かって歩く。


 だが、二時間経っても着かない。


      **********


 日が沈み、暗くなる。それでも中央には着かない。


「ふみゅ。着かないの。おかしいの……ゼノンが迷子なの!」


「なんで嬉しそうなんだよ」


「ふみゃ⁉︎なんでバレてるの⁉︎」


 ミディリシェルの表情は、にこにこと嬉しそうなのが伝わる表情。嬉しいのを隠していたつもりだが、隠しきれていない。


 ミディリシェルを方向音痴と散々言ってきたゼノンが迷子になっている。これでもう人の事を言えないだろうという嬉しさを見せないように、ミディリシェルは、両手で顔を隠した。


「もう遅いんだよ。つぅか、迷子じゃねぇし」


「言い訳は見苦しいの」


「本当に迷子なんかじゃねぇよ」


「言い訳は以下略なの」


 そんな言い合いをしていると、ミディリシェルの目に、木が光って見えた。その光る木は一本道のようになっている。


「……こっちなの」


「おい、待て、迷子になる」


「もうすでに迷子なの。今更どこ行こうと迷子は迷子のままか、迷子じゃなくなるかのどっちかなの」


 ミディリシェルは、光を信じて、走った。


     **********


 森だというのに開けた場所。ポツンと建つ古そうな洋館。


「ふみゅ。やっと見つけたの」


「……」


 洋館の前に立っているフォル。いつもミディリシェルに見せてくれる笑顔はそこにはない。


「探したの。帰るの」


「……ごめん。今の君らと一緒にいる事はできない」


「ふぇ?」


「君らの処分が決まった。僕が君らといる事も、これも、全部仕事なんだ。それ以外の感情なんて持ってない」


 その言葉は、ミディリシェルとゼノンに向けて言っているというより、自分に言い聞かせているようだった。悲しそうな表情を浮かべるフォルを見て、ミディリシェルの瞳から涙が溢れた。


「全部仕事って、俺らに好きとか、一緒にいて楽しいとか言っていたのも、全部嘘なのかよ」


「……そうだよ。君らを監視しやすくするための演技だ」


「……その処分ってどうやるの?ミディ、痛いのも苦しいのもやだよ」


「君らのような特異な存在の場合、魔力と記憶、種の特徴を奪い転生させる。転生後は、監視下に置かれる。そのための準備はまだできていないから、次の転生でになるけど」


 ミディリシェルは、本で読んだ事がある程度の知識だが、その処分法は、膨大な時間を必要とする。早急に進めたとしても、十年以上はかかるだろう。


 次の転生がすぐであれば、次は、十年は最低でも生きられる。


「……逃げないから。ここに自分の意思で来るから。だから、その十年かは分からないけど、少しでも良いから一緒にいて。そのくらいのお願い、聞いてくれるでしょ?」


「……次回の転生でこの記憶を取り戻すまで。その条件で良いなら」


「うん。良いよ。それと、さっきの」


「ああ。その事なら安心して良い。君は眠るだけだ」


「うん」


 今はまだどうする事もできない。今回は、このまま終わるしかない。


 ミディリシェルは、次回に賭ける事にした。


 そのために、今できる事は全てする。


 未来視を使い、愛魔法を発動するための準備をするべきだという事に気付いた。


「……フォル、嘘で良いの。でも、愛してるって言って欲しい」


「良いよ」


 フォルがそう言って、ミディリシェルに近づいた。


「ふみゃ⁉︎」


 突然、ミディリシェルの目の前に氷の壁ができる。ゼノンが魔法で創ったようだ。


「……悪い。どうしても、見たくねぇんだ」


「分かった」


 巨大な花が、ゼノンを包む。

 しばらくすると、氷の壁が消えた。


「ミディもあれなの?」


「ううん。君には僕が調合した薬を飲んでもらう」


 フォルがそう言って、薬を口に含む。


 ミディリシェルとフォルの唇が重なる。甘い液体が、ミディリシェルの口の中に入る。


 それを飲み込んでも、重なった唇が離れない。


 次第に、ミディリシェルの意識が薄れていくと、唇が離れた。


「忘れるとこだった。愛してる。君は嘘で良いと言ったけど、嘘なんかじゃない。これは、これだけは、ほんとなんだ」


「うん。あり、がと」


 最後にミディリシェルが見たのは、フォルの泣き顔。


 最後まで、フォルはミディリシェルを離そうとしなかった。


 ミディリシェルの意識が消えるまで、ずっと抱きしめていた。恐らく、消えた後も。


 最後にミディリシェルとゼノンが抱いた想いは同じ。フォルを救いたい。一緒にいたい。笑って欲しい。


 奇跡の魔法は、強い想いがなければ、限りなく現実に近く、現実に干渉する夢の世界。夢とはいえ、世界を創り出す。そんな大規模になる事はない。


 この想いは、それだけ強かった。

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