エレが彼女を助けたみたい。想定外の事もあったみたいだけど、それでもみんな無事なようだ。
もうすぐ、復讐を始める。そんな時に限って、あの忌まわしい記憶が鮮明に思い出す。
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僕は、本家の黄金鳥。オルベア達とは面識がないけど。当時は、の話。
黄金鳥であるからという理由で、本家の当主に選ばれた。次期王候補。
その頃の僕は、神獣達の事を第一に考えていた。それが当然だと思っていた。
どうすればもっと神獣達が暮らしやすい場所になるか。毎日それに頭を悩ませていた。
その頃は、疑いなんてなかった。いずれは、神獣の王になるんだと思っていた。
それが変わった忌まわしい出来事。それは、いつもと変わらない日に起きた。
「裏切り者の始末をしろ! 」
僕達神獣は、裏切り行為を許さない。その行為が確認できると、処罰の対象となる。しかも、程度問わず、前にフォルがエレとゼロにしようとしていたのに似ているんだけど、種としてのものを全て奪い転生させる。
それは、僕が今まで築きあげてきたものを奪うという事。
そんな事は良いんだ。本当に裏切っていれば、仕方がないと思う。その頃はそうだった。
でも、僕はただ、神獣達のために毎日当主としての役割を果たしていただけ。裏切ってなんかいない。
なのに神獣達は、僕を裏切り者として始末しようとした。
僕は、必死になって逃げた。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか。僕がいつ裏切ったのか。何もかも分からない。僕は、真実を見つけようと思った。それまでは、絶対に逃げ切ってやる。
そんな想いで、長い間、逃げ隠れる生活を続けた。
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神獣達から逃げ続けて三年。僕は、顔を隠して、本家のあるジュンブに戻った。
ジュンブにいる神獣だけじゃなく、他のところでも、顔を隠している神獣が多い。だから、顔を隠していても違和感はない。
僕は、ジュンブに働きに来た通りわり、情報を集めた。
働きながら、神獣達の言葉を一語一句逃さないよう聞き耳を立てる。すると、ある神獣達の会話を聞けた。
「にしても、本当に愚かだよなぁ。あの先代当主は」
「指示だけを聞く道具のような当主が欲しいのがあの方達なのに、色々と変な事ばかりやっていたからな。目をつけられるのも当然」
僕は、神獣達のためを思ってしていた。その行動が、気に入らなかった。そんな理由で、裏切り者として処理するなんてふざけている。
そう思ったけど、僕には、何もできなかった。それを変えるだけの力なんてない。僕は、何も持っていない。
黄金鳥として、魔法は得意だけど、それだけで何か変えられるとは思えない。変えるなら、もっと、人を動かすような何かがなければ。そんな事を考えた。
けど、結局行き着いた先は、復讐。変えるんじゃない。ただ、僕や僕以外の身に覚えのない理由で裏切り者とされた神獣達の怨みを晴らす事。
「裏切り者だ! 裏切り者が戻ってきたぞ! 」
顔を隠していたけど、隠しきれないものはある。それでバレたんだろう。
僕は、復讐のためにも、絶対に捕まらない。そう決心して逃げた。
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以前逃げられたからか、追う人数が多い。しかも弓を持っている。
必死に逃げる僕の足に、矢が刺さった。
「いっ⁉︎ 」
矢に毒が塗られていた。足が動かない。復讐を決めたのに、何もできずに、全部失うんだ。
それが悔しく、涙が溢れた。
けど、僕は、失わなかった。
「ほんと、いつからこんなになったんだろうね」
青緑色の髪の少年。裏切り者と言われて、誰も助けてなんてくれなかった僕を、初めて助けてくれた。
それが、フォルとの出会い。
「ここは引いてくれないかな? 僕、人に害を与えるような魔法は好きじゃないんだ。口封じしたいだろうけど、諦めて欲しい」
「フン、先代当主、貴様が逃げるせいで、この愚かな男がどうなるか見ていくと良い」
神獣達が引くはずなんてない。当然、フォルを始末しようとする。邪魔をする者は誰であろうと始末するのが神獣だ。
僕は目を疑った。神獣達が、全員膝をついたんだ。フォルは動いていないというのに。
「もう大丈夫だよ」
手を差し伸べてくれるフォルは、本当に優しい、僕を安心させるような笑顔を浮かべている。
「あ、ありがとう」
「怪我してる。少し待って」
フォルは、僕の足に刺さった矢を抜く。不思議と痛みがない。感覚を遮断しているんだろう。そんな魔法は、神獣の中でも使える者は限られる高等魔法だ。
それだけじゃない。伝説クラスの魔法まで使ったんだ。癒し魔法。回復魔法よりも遥かに効果が高い魔法。
回復魔法自体が珍しいのに、癒し魔法なんて、僕も初めて見た。
「立てる? 」
「うん」
痛みなんてない。足に力が入る。
「またいつあの連中が襲ってくるか分からないから、安全な場所に行くよ」
「そんな場所、あるわけない」
僕は、神獣達の脅威を知っている。だから、そう言った。
「あるよ。ああ、そうそう。そこで見てる君らに伝えておく。彼女は僕が眷属にする。僕の眷属は、君らに何もしていないというのに手を出せば、この世界ごと、滅ぼしてあげる」
冗談には聞こえなかった。冗談じゃなかったんだと思う。
「じゃあ、行こうか」
恐怖で青ざめる神獣達なんて初めて見た。けど、なんでフォルがそんな脅しを言っただけでとは思った。何か、僕は知らない事があるんだろう。
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フォルが転移魔法を使い、僕を連れてきた場所は、そこまで広くはない家。
「みゅ⁉︎ お客さんなの! ゼロ、フォルがお客さん連れてきたの」
「エレ、大人しくしてろ」
小さな女の子と男の子。これが、エレとゼロ。
フォルは、エレを抱っこして、ゼロの頭を撫でる。世話慣れしている。
「ゼロ、妹の面倒はちゃんと見てた? また危ない事させてない? 」
「ない。ちゃんと監視してた。エレが何かしないように。それと、掃除もしといた」
「掃除まで。ありがと。君が手伝ってくれるから、僕はかなり楽できてるよ」
「その分、俺らと一緒の時間増やすんだ」
「うん。良いよ。いくらでも増やしてあげる」
エレは、寝ていた。ゼロは、嬉しそうにしていた。
可愛い女の子としっかりしてる男の子。初めて会ったエレとゼロの印象はそんな感じ。
「しばらく、安全のためにもここで過ごして欲しい。だめかな? 」
「ううん。君達が良いなら」
「ありがと。僕はフォル。寝てる子がエレで、こっちがゼロ。今はいないけど、僕の双子の兄のフィルも一緒に暮らしてる」
「ゼーシェリオンジェロー・ミュド・ロジェンドです」
挨拶までできる。見た目五歳児。
「ローシェジェラ……その、よろしく」
「ああ。よろしく」
そんな、その場の流れみたいな感じで、僕は、ここで暮らすようになった。
そして、僕がここでの暮らしに慣れてきた頃、フォルにある事を持ちかけられた。
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エレとゼロが寝ている中、フォルに話があると言われた。
内容は僕の今度について。あの時神獣達についた嘘を本当にしないかという話だった。
「ずっととは言わない。時間が経って君が望めば、契約は破棄する」
フォルは、僕の安全だけを考えていた。そうする事で、自分が損をするという事なんて考えていないようだった。
僕は、フォルを信じたいと思った。だから、契約の件を了承した。
「契約する」
眷属になるのはデメリットの方が大きい。けど、フォルとの契約は違った。
基本的には自由。頼まれごとはあるけど、僕を尊重してくれる。
「ふみゅ! いたの! ロジェ、お野菜実ってた」
ここで育ててる果物だ。エレは緑色は野菜と思っているみたいで、得意げに見せびらかす。
それが、可愛らしく、笑うと、エレも笑ってくれた。
あそこにいた頃は想像もできなかった生活。僕は、神獣から解放されつつあった。
けど、この復讐心だけは、消えていない。消してはならない。
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長い時が経った。ようやく復讐の時が来た。
僕は、フォルに契約を破棄するように頼んだ。フォルは、ちょうど頼み事があったみたいだけど、契約を破棄すると言った。頼み事はしなくて良いと。
けど、僕はフォルに今まで返しきれない恩がある。だから、僕は
「その頼みは聞くよ。その代わり、ゲームをしようよ。追いかけっこだ。僕を、見つけて追いかけてよ。その頼みの終了が開始の合図」
復讐だけは絶対にしないと。他の同じ境遇にあった神獣達のためにそう思い続けた。けど、僕自身は、そんな事を望んでいないとなれば嘘だけど、迷ってる。
だから、こんな事を言ったんだと思う。
エレとゼロの事を見ていたい。フィルの珍味話や魔法具話をもっと聞きたい。フォルの悪戯を見て笑いたい。
一度も見た事ない、フォルの本当の笑顔を見たい。
心んな想いが、僕に迷いを膨らませる。その想いを生んだ原因であるフォルにだからこそ、こんな事を言っているんだと思う。
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とうとう、準備が完了した。本格的に動き出す。
神獣達の拠点のある世界へ、警戒されずに行く方法は、他の世界を経由する事。そこで、あるものを手に入れる。
ここからだと、最短で十個の世界を経由する。全て、神獣は少ない、僕にとって比較安全な世界だ。
僕は、転移魔法を使い、はじめの世界へ転移する。そこは水の多い世界。そこで、海の宝石とも呼ばれている、希少な石を探す。