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1話 卵


 エクリシェへ帰ってきた夜。


「ミディちゃん……ううん、エレちゃん。魔物になってる間、ずっと夢を見ていたんだ。まるで本当にあったような、リアルな夢。ありがとう、エレちゃん、ゼロくん」


「ありがとう。今のわたし達があるのは、エレとゼロとフォルのおかげだよ。わたし達じゃ、力になれる事は少ないと思うけど、手伝って欲しい事があったらなんでも言って。絶対協力する」


「助けてくれてありがとう。あの時夢で見ていた。俺達も、フォルの大事な友達を探すのを手伝わせてほしい。今回の礼とかじゃなくて、ここへ来た時、家族だって言ってくれたから。弟のようなフォルの力になってあげたい」


「本当にありがとう。ピュオの事も、今回の事も、昔の事も。俺も、手伝いたい。できる事は限られているけど、もっと、頼って欲しいよ」


 エクリシェへ帰ってきたリーミュナ達は、奇跡の魔法で起きた事を知って、その分の感謝までされた。


 その事は、嬉しいや、あり得ない事で多少の驚きというだけだ。だが、それ以外の事で、不服申立てていた。


「なんで僕弟になってんの? 」


「アゼグ組、ノヴェ組、エレ組だ。組で分けてる以上、異議は認められない」


「見た目的にも、それが一番しっくりきてる」


「……今度それ兄弟表にして見せてよ。ていうか、全員で今のエクリシェ家族表作って、納得するまで話し合おうか? 」


 フォルは、納得できず、笑顔でそう言った。


「良いだろう」


「……」


「フォル、エレがぼーっとしてる」


「ほっとい……はだめか。じゃあ、僕は可愛いお姫様の面倒を見ないといけないから。アディ、イヴィ、仲良くやってよ? ついでに、君らも一緒に話して、誰がどこにふさわしいか書いておいてよ? 」


 フォルは、ぼーっとしているエンジェリアを連れて部屋へ戻った。


      ***********


 翌朝、フィルと一緒に、魔の森ギチンブへ向かった。


 気配を消し、木の枝に座り、クルカムの様子を見る。


 クルカムは、魔法を使えずとも、襲ってくる魔物を倒し、木の実などを食べている。火は、つけられなかったのだろう。枝が置いてあるが、ついていない。


「へぇ、あそこより魔物が弱いとはいえ、流石だね。やればできるじゃん」


「そうだな。これなら、完全に孵化するのも近そう」


「うん。やっぱ、楽しいね。こうして卵が孵化するのを見ているのは。ちゃんと、成長するまで、育ててあげる」


 昔から、こうして成長を見るのが好きだった。特に、自分が育てると決めた相手の。


 フォルは、楽しげに、クルカムの様子を見ている。


「そろそろ出る? 」


「そうだね」


 フォルとフィルは、地面に降りた。


「フォル様、フィル様」


「お疲れ様。終わったから迎えにきたよ……それとも、あともう二十日間くらいいる? 」


「え、遠慮しておきます」


「そう。それと、管理者見習いとして雇うって話なんだけど、ちょっと今、拠点が色々あって、片付いてないんだ。だから、勉強とかもさせてあげたいんだけど、少しだけあってもらえるかな? 」


 流石に、あの状態で来させるわけにはいかない。そう思い、言ったのだが


「でしたら、その片付けを手伝わせてください。それもきっと、何かを得る事ができると思います。無理にとは言いませんが」


 クルカムから、そう言われた。


 現在、管理者達は休暇中。オルベアは、リミェラに話を聞いている。管理者の拠点にいるのは、現在の本家の次男セイリションと、三男ギュレーヴォ。それと、自主的に手伝っているルノとレインと、ロストの王族で良く手伝いにくる月夜だけだ。


 管理者の拠点の広さからすれば、管理者達がいたとしても人手は足りない。


 クルカムのその頼みは、かなりありがたい。


「ありがと。なら、手伝ってくれるかな? ちょっと待ってて」


 フォルは、連絡魔法具を取り出した。


 セイリションに連絡する。


「セイにぃ様、管理者見習いが一人そっち手伝ってくれるって」


『見習い? 』


「うん。神獣の卵。孵化させたいから、色々と教えてあげようと思って。それで、時間がある時で良いから、エクランダの皇帝に相応しくなるようにして欲しいんだ」


『了承した。いつくる? 』


「んっと、今から。でも、今日は休ませてあげて。箱庭の案内だけはするけど。魔の森で過ごして疲れてるだろうから」


 魔の森の中だ。休む事などできていないだろう。


 フォルは、通話を切り、連絡魔法具をしまった。


「話通しておいたから行こうか」


「はい」


 フォルは、転移魔法を使い、管理者の拠点へ転移した。


      ***********


 まだほとんど片付いていない。


 フォルは、セイリションがいるであろう、記憶の書庫へ向かった。


「そういえば、君は神獣の事ってどのくらい知ってる? 」


「師匠から、非情で冷酷な種族で、目的のためならどんな犠牲も気にしないと聞いております」


「確かに、そういう神獣も少なくはないよ。それに、僕らは、王の命に逆らうなって教育されてるから。どうせざる得ない神獣達もいるだろうね。裏切り者と言われれば、問答無用で処罰対象だ。誰も、そんな事喜んで望まないだろ? 」


 フォルがローシェジェラと初めて会った時、ローシェジェラは、神獣達に追われていた。


 命令違反で逃げてきたくらいにしか思っていなかったが、いくら現在の神獣でも、そんな事くらいで処罰を、しかもかなり重い処罰を言い渡すのか。そこに疑問がある。


 いくらなんでも、たかが命令違反だけで、そんなにめんどくさい処罰をするなど、割に合わない。まるで、口封じでもするかのような処罰だ。


「……口封じ」


「どうされたのですか? 」


「なんでもない。神獣も、他の種族とそう変わらない。厄介な決まり事が多すぎる以外は」


 国が法を定めるのは良くある事だが、通常、種族に対しての決まり事などない。それは、他の種族と違うだろう。


「今から会う相手は、少し気難しく感じるかもしれないけど、悪い人じゃないよ。って、僕が義兄弟だから言える事かもしれないけど」


「そんな事はないと思う。セイリションの教育とか好評だったから。エレは、毎回いやがっていたけど」


「あの子は、勉強するのがいやなんだから仕方ないよ。でも、確かにそうかもしれないね。丁寧で、教え方が上手くて、出来ないからって見捨てないから」


 セイリションが他の神獣達の前に出るのが、神獣の教育の時。それ以外で出る事は稀だ。そのため、教育に対する評判しか、神獣達から聞く事ができなかったのだろう。


「待っていた。彼が、卵か? 」


 記憶の書庫へ行く途中で、セイリションに会えた。


「うん。エクランダの新皇帝クルカム」


「よ、よろしく、お願いします」


 かなり緊張しているようだ。声が裏返っている。


「セイリションだ。よろしく頼もう」


「セイにぃ様は、忙しいだろうから、僕が案内するよ。ついでに、神獣の事を何も知らないみたいだから、その辺も少しだけ教えておく。だから、そのあとの事はお願い。記憶の書庫にここの地図があるから行こっか」


「えっ⁉︎ 案内って地図なんですか? 」


「うん。みんなそれで覚えてもらったよ? 一応、ここにいる時だけ見える地図も配布してるから、ここですぐに覚える必要はないよ」


 管理者の拠点はかなり特殊な場所。それに、かなり広く、歩いて案内するとかなり時間がかかる。


 仕事の合間で案内できるようにと考えたのが、記憶の書庫に地図を貼り、説明するのと、現在地の分かる地図を配布する事だ。


「エレを待たせてるから、早く行くよ」


「……あの、一度、エレ様に会って話たいです。その、師匠のお気に入りで嫉妬しているとかではなく、ぼくは、師匠の弟子で、師匠はきっと弟子にしか見せない面も、弟子には見せない面もあったと思うんです。なので、エレ様の知る師匠を聞いてみたいんです」


「良いよ。あの子も喜んで会うって言うんじゃないかな? 今すぐにはできないけど。あの子、今朝もずっとぼーっとしていたから、しばらく続くと思う。疲れが取れて、暇ができた頃に言ってみるよ」


 エンジェリアは、朝、起きたところを見ていたが、何も言わず、ただぼーっとして、ゼーシェリオンに世話されていた。


 フォルも、会わせてあげたいとは思うが、あのまま会わせてまともに会話ができるとは思えない。


「いつでも良いので、ゆっくり休む事を優先させてください。それと、これ。エレ様は、身体が強くないと聞いたので」


 栄養の高い果物。エンジェリアの事を気にかけて、魔の森で採取していたのだろう。


「ありがと。今日のあの子の夕食に入れておくよ。っと、話してたら着いたね」


 見た目は普通の壁。だが、この先が、記憶の書庫だ。


 初見のクルカムの反応を見ると、壁をじっくり見つめている。

 疑う様子も、不思議がる様子もない。

 じっくり観察して、仕掛けを探しているのだろう。


「……魔力に反応があります。ここは、魔力に反応する扉ですか? 」


 壁に右手を触れて、クルカムがそう言った。


 まだ何も言っていない中、それを当てた事に、無意識に口角が上がっていた。


「正解。ここの全て扉はこうなってる。それじゃあ、中に入って、説明をしよう」


「はい。よろしくお願いします」


 フォル達は、記憶の書庫へ入った。


 約二時間かけて、管理者の拠点の説明をしてから、エクリシェへ帰った。

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