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9話 職人街


 いよいよ試験当日。


 だが、試験開始まではまだ時間がある。


 エンジェリア達は、限られた時間で、職人街を楽しむ。


「そういえば、オジュフォーレは? 」


「用があるだって。準備終わったらすぐに帰った」


「用があるのに、エレ達のためにお手伝いに来てくれたなんて。エレ感動」


 オジュフォーレは、忙しい中、エンジェリア達のために時間を割いてくれていたのだろう。連絡先を知らないのと、この場にいないため、今すぐ直接伝える事はエンジェリアにはできない。


 ――ありがとなの。オジュフォーレ。


 エンジェリアは、心の中でそう言った。


「おお、エレ嬢さん達、着心地はどうで? おお、礼はエレ嬢だけでええで。他さん方は、心の中ででも言うとけや」


 エンジェリア達が、服の礼を言いに行こうとしていると、偶然、服を作ってくれた職人に会った。


「とっても良かったの。ありがと。エレ、とっても気に入ったの。あのお洋服のおかげで、エレは今日をがんばれるの。それに、昨日は良く寝れたの」


「それは良かった。あの服は、エレ嬢が寝るために作ったんで」


「ふみゅ。寝るのにぴったりだった。エレ、あのお洋服だいすき。もっといっぱい、だいすき伝えたいけど、試験までに魔法具技師協会と調合協会に顔を出しておきたいから」


「無理せんといてよ」


「うん。ありがと」


 試験開始まで、あまり時間がない。時間があるのであれば、もっと話をして、他の服を見せてもらうとかもしたかったが、今回はそれはお預けだ。


 エンジェリア達は、調合協会へ向かう。


      **********


「ぷにゅぅ。調合の素材とか何か良いの売ってないかな。売ってたら買いたい」


 この職人街にある調合協会本部では、調合の素材を安くで買うことができる。協会所属の免許を持っている者限定だが、エンジェリア達は、その免許を持っているため、そこを気にする必要はない。


 ただ、調合協会本部で売られる素材は、日によって違う。


 エンジェリアが欲しい素材があるかどうかは運次第だ。


「エレは何が欲しいの? 」


「どっかの伝説のレシピとか言われている調合レシピを書いた人にプレゼントして喜ばれそうなものを作りたいの……ちらっ」


「……遠回しに言うの頑張ったね。でも、残念ながら、その調合師は、特に君相手なら、そんな事気にしなくても、なんでも喜ぶという事を気づいているかな? 普通の回復薬でも喜ぶよ。君がくれるなら」


 エンジェリアは、サプライズプレゼントを考えていたため、遠回しに言って誤魔化そうとしていたが、失敗した。


 フォルがすぐに気づいている。しかも、わざわざエンジェリアに合わせて、誰とは言っていない。


「……びっくりさせようと思ってたのに。しかも、エレのがんばりで遊ぶ」


 エンジェリアは、そう言ってぷぅっと頬を膨らませた。


「遊んではないよ。君がそうして欲しいのかなって思っただけで」


「違うもん。気づいてほしくなかっただけだもん」


「……あっ、エレ、調合協会着いたよ」


「話逸らすのだ……本当なの」


      **********


 エンジェリアは、調合協会本部に、余っている素材を寄付した後、欲しい素材がないか、見に行った。


「ふにゅふにゅ。良い素材が売っているの……これを使えば……フォル、これ欲しい」


「うん。買ってあげる」


「ありがと……ていうか、エレ、フォル以外に相手にされてない気がする」


「そんな事はない。こっちで話が盛り上がっていたのは気にしなくて良い。エレは、フォルと話していたから何も言わなかっただけだ」


「ごめん。俺が調合詳しくないからって、みんなに教わってたから」


 ノーヴェイズは、魔法具に関しては詳しいが、調合は初心者なのだろう。


「もしかして、調合師免許持ってない? 」


「うん。今度取ろうとは思ってるけど。エレは、何かアドバイスとかある? エレって、調合師免許満点合格って聞いたから、是非、学ばせてもらえたらと思うんだけど」


「ならエレに任せるべきなの。エレは、調合の使う素材に関しては詳しいから。調合技術のお勉強なら、イヴィとゼロが適任なの。でも、いろんな方法があるから、みんなのを見るのが一番だと思う」


 エンジェリアは、そう言って、素材と一緒に植物図鑑をフォルに買ってもらった。


「この図鑑、エレのおすすめ。毒があるものも載っているから、危険な植物を知る事ができるの。調合を学ぶなら、まずは植物を学ぶ。これが、調合の基礎って教わった」


「みんなもそう言ってた。ありがとう。帰ったら一緒に読もう。俺一人だと、分からない部分もあるだろうから、解説役をしてくれる? 」


「……お供はゼロにしようかな? ゼロと一緒に、解説役がんばる」


「それだと毒系以外教えてくれなさそう。他にもう一人くらい解説役つけた方が良いと思う」


「……ならフィル……みんなで一緒にお勉強会なの。参加自由のお勉強会をエクリシェでやるって、予定に書いておくの。それで集まった、詳しい側が、教えるはどう? 」


 エンジェリアとゼーシェリオンだけでは不安な様子のフィルの言葉で、エンジェリアはそれを思いついた。


「良いかも」


「では、私は説明に参加して、アディに学ばせましょう」


「そういえば、アディは、調合苦手だったね。危険な植物くらいなら、覚えておいて損はないから、良いかもしれない」


「ふにゅふにゅ……ふにゃ⁉︎ ゆっくりしてる暇ないの。魔法具技師協会にも行かないとだから」


 エンジェリアは、そう言って、一人で走って魔法具技師協会本部へ向かおうとした。


      **********


 フォルに止められ、みんなで一緒に魔法具技師協会本部へ着くと、いつも以上に人がいた。


「これは……なんだろう。何かやってるのかな」


「君がここにくるからじゃない? 」


「エレが? そうなの? ……ふみゃ⁉︎ フォル、フォル、あれ買って。あれ欲しい」


 質の良い魔法石が、大特価で売られている。エンジェリアは、その魔法石を、フォルにねだる。


「うん。良いよ」


「……前から思ってたけど、エレもかなり稼いでるんじゃ? 」


「ノヴェは知らないのか。エレに管理させると、全額寄付とかに使われる」


「普段から持たないようにしてるだけなの。エレのお金は、ゼロとフォルへのプレゼントに使うって決めてるから」


「エレ、買ってきたよ。これで良い? 他にも欲しいのある? 」


 エンジェリアが、収入の使い道をノーヴェイズに説明していると、フォルが、魔法石を買ってきていた。


 エンジェリアは、フォルから魔法石を受け取った。


「ぷにゅぷにゅ。ありがとなの。エレは今とっても喜んでいるから、フォルのお願いならなんでも叶えちゃうかも」


「……二人で今度一緒に出かけるとかは? エレは、僕が決めた服を着て」


「着るの。喜んでお出かけするの。今すぐにでもぎゅぅしたいくらいだいすきなの」


 エンジェリアは、魔法石を買ってもらえ、上機嫌でそう言った。


 この魔法石を、発表の魔法具に使う事はできないが、別の魔法具に使うことはできる。どんな魔法具に使おうか。

 想像するだけで楽しくなる。


「ぷにゅぷにゅ。どんな魔法具でもきっと、とっても良い魔法具になるの。この魔法石で作る魔法具は、フォルにプレゼントするの……フォルにプレゼントなら、結果魔法具とか良いのかな。それとも、記録系の魔法具? 何が良いんだろう」


 フォルに喜ばれるのは大前提だが、できれば実用性のある魔法具を渡したい。


「記録系の魔法具はいくらあっても足りないからそっちが良いかな」


「ふにゅ。記録系の魔法具にするの」


「……そろそろ行かないと試験遅れる」


「ふみゃ⁉︎ ありがと、フィル。早く行かないと。急ぐ急ぐ」


 受付の時間に走っていかなければ間に合わない。エンジェリアは、魔法具技師協会本部を出て走ったが、すぐに転んだ。


「……エレ、少しおとなしくして」


「ぷにゅぅ」


 フォルが抱っこしてくれる。


「ぎゅぅ」


「こっちが試験管用の入り口だと近道かな。見学者は別の入り口だから、また後で」


「ああ」


 試験管は別の入り口がある。エンジェリア達は、試験管組と見学者組で別れ、急いで試験会場へ向かった。

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