布団に潜りながら、天井を見つめる。宮脇はベッドの上でイビキをかきながら眠っている。オレの方は床に布団を敷いてそこに寝ている状態だ。
宮脇に言われた言葉を、ずっと考えている。
(良いのかな……)
宮脇は「問題ない」というが、本当だろうか。晃と距離が縮まったことは、居心地が良いと思えて、嫌なことなど一つもなかった。もともと、生まれたときから一緒に過ごしていたかのような仲の良さだった。それが密になったとして、不快さがなければプラスにしか働かない。
晃と一緒に居るのは、楽だ。何を考えているのか解らない女の子と違って、晃とは気が合う。機嫌を損ねたら面倒な女子と違って、晃なら「機嫌直せよ」と飯でも食えばそれで良い。
晃はいつだって、オレのことを第一に考えてくれるし、馬鹿なことにも付き合ってくれる。
およそ、否定する理由が見つからないのだ。
その上、男同士だとか、そう言ったものを宮脇が吹き飛ばしてしまうと――。
このままでも、良いような気がしてしまう。
(でもな)
でも、何か引っかかる。
オレは馬鹿だから、難しいことが解らない。
オレは本当は、どうしたいんだろうか。
(……イビキうるせえな)
真剣な悩みのはずが、宮脇のせいでちっとも深刻にならなかった。
◆ ◆ ◆
布団の端っこに抱きついて寝転がっていたオレを、誰かが揺り動かす。
「おはよう、陽介」
「んー、ん、う」
ユサユサと揺すられ、不機嫌に眉を寄せる。
「寝起き悪いなあ。毎朝やってんの?」
「まあ、ほとんど?」
ふぁ、とあくびをする声が聞こえる。そこでオレは、ハッとして眼を覚ました。
「は? え? 晃? 宮脇?」
なんで宮脇が居るんだっけ? あ、違う。宮脇の部屋で寝たんだ。ん? なんで晃が居るんだ?
「あ、起きた」
「おはよう」
「えっと、おはよう……? なんで晃がここに?」
「迎えに来ただけだけど」
「あ、そうなんだ? 熱は下がった?」
手を伸ばし、晃の額に触れる。もうすっかり、熱は下がったようだ。
「ふぁあ、飯食い行こうぜー」
「あ、うん」
「社員証持ってきたよ」
晃がオレの社員証を差し出す。食堂の支払いは社員証に紐付けられた電子決済だ。これがないと飯が食えない。
宮脇はと言えば、あんな話を聞いた昨日の今日だと言うのに、興味などないようでいつもと変わらない。からかわれたりしないのはありがたいが。
「もしかして、二人で飲んだの?」
「ああ、うん」
「ズルいなあ。俺も誘ってよ」
「お前は風邪ひいてただろ。でもまあ、宮脇とも言ってたんだ。最近同期で飲んでないなって」
「確かに。航平も付き合い悪いしな」
航平は付き合いが悪いと、晃も思っていたようだ。夕暮れ寮に暮らす同期は四人しか居ないのだから、もっと仲良くしたいものだが――。
(まあ、航平は寮を出たいみたいだしな)
「そういやお前ら、今度は何かやるのか?」
宮脇が思い出したようにそう切り出す。
「まあ、そのうちな」
「ヒントは?」
「内緒」
こういう馬鹿な遊びも、寮に居てこそだ。オレの場合、いつまで寮に居るんだろうか。
その時、晃はどうするのだろうか。
考えても答えは出なかったけれど、なんとなく、オレが寮を出る時は、晃も一緒のような予感がした。