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十三話 迷いと予感



 布団に潜りながら、天井を見つめる。宮脇はベッドの上でイビキをかきながら眠っている。オレの方は床に布団を敷いてそこに寝ている状態だ。


 宮脇に言われた言葉を、ずっと考えている。


(良いのかな……)


 宮脇は「問題ない」というが、本当だろうか。晃と距離が縮まったことは、居心地が良いと思えて、嫌なことなど一つもなかった。もともと、生まれたときから一緒に過ごしていたかのような仲の良さだった。それが密になったとして、不快さがなければプラスにしか働かない。


 晃と一緒に居るのは、楽だ。何を考えているのか解らない女の子と違って、晃とは気が合う。機嫌を損ねたら面倒な女子と違って、晃なら「機嫌直せよ」と飯でも食えばそれで良い。


 晃はいつだって、オレのことを第一に考えてくれるし、馬鹿なことにも付き合ってくれる。


 およそ、否定する理由が見つからないのだ。


 その上、男同士だとか、そう言ったものを宮脇が吹き飛ばしてしまうと――。


 このままでも、良いような気がしてしまう。


(でもな)


 でも、何か引っかかる。


 オレは馬鹿だから、難しいことが解らない。


 オレは本当は、どうしたいんだろうか。


(……イビキうるせえな)


 真剣な悩みのはずが、宮脇のせいでちっとも深刻にならなかった。




   ◆   ◆   ◆




 布団の端っこに抱きついて寝転がっていたオレを、誰かが揺り動かす。


「おはよう、陽介」


「んー、ん、う」


 ユサユサと揺すられ、不機嫌に眉を寄せる。


「寝起き悪いなあ。毎朝やってんの?」


「まあ、ほとんど?」


 ふぁ、とあくびをする声が聞こえる。そこでオレは、ハッとして眼を覚ました。


「は? え? 晃? 宮脇?」


 なんで宮脇が居るんだっけ? あ、違う。宮脇の部屋で寝たんだ。ん? なんで晃が居るんだ?


「あ、起きた」


「おはよう」


「えっと、おはよう……? なんで晃がここに?」


「迎えに来ただけだけど」


「あ、そうなんだ? 熱は下がった?」


 手を伸ばし、晃の額に触れる。もうすっかり、熱は下がったようだ。


「ふぁあ、飯食い行こうぜー」


「あ、うん」


「社員証持ってきたよ」


 晃がオレの社員証を差し出す。食堂の支払いは社員証に紐付けられた電子決済だ。これがないと飯が食えない。


 宮脇はと言えば、あんな話を聞いた昨日の今日だと言うのに、興味などないようでいつもと変わらない。からかわれたりしないのはありがたいが。


「もしかして、二人で飲んだの?」


「ああ、うん」


「ズルいなあ。俺も誘ってよ」


「お前は風邪ひいてただろ。でもまあ、宮脇とも言ってたんだ。最近同期で飲んでないなって」


「確かに。航平も付き合い悪いしな」


 航平は付き合いが悪いと、晃も思っていたようだ。夕暮れ寮に暮らす同期は四人しか居ないのだから、もっと仲良くしたいものだが――。


(まあ、航平は寮を出たいみたいだしな)


「そういやお前ら、今度は何かやるのか?」


 宮脇が思い出したようにそう切り出す。


「まあ、そのうちな」


「ヒントは?」


「内緒」


 こういう馬鹿な遊びも、寮に居てこそだ。オレの場合、いつまで寮に居るんだろうか。


 その時、晃はどうするのだろうか。


 考えても答えは出なかったけれど、なんとなく、オレが寮を出る時は、晃も一緒のような予感がした。






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