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十四話 「良い」



 宮脇や他の寮生の期待もあるので、恒例の寮内出店をやろうと思う。


 会社帰りに立ち寄ったのは、住宅街からやや離れた場所にあるスーパーマーケットである。正直、歩いていくには少し遠いのだが、寮に一番近いのはこの店だ。


「えーと、肉、肉~」


 今回は100パーセント牛肉のハンバーガーを作る予定である。購入するのはひき肉ではなく、ある程度の固まり肉だ。晃と相談した結果、多少コストはかかるが、やっぱり良い肉でハンバーガーを作る欲望に勝てなかった。肉をひき肉にする道具は、通販で二千円程度で購入出来たし、100パーセント牛肉のハンバーガーのレシピも調べた。多分美味しいものが出来るはず!


 その後もナツメグにオールスパイス、パプリカパウダーなどなど。スパイス類もカゴに入れ、レタスとトマト、ベーコンも買う。ベーコンはちょっと厚めの良いヤツ。バンズは手作りも考えたけど、今回は買うことにした。


 会計を済ませ、重い荷物を抱えて寮へと帰る。


(晃はまだ仕事かなあ)


 一緒に買い物に行っても良かったが、今日は少し残業のようだ。作るのは明日なので、買ったものは冷蔵庫に突っ込んでおくことにする。名前を書いておかないと消えても文句が言えないので、袋に一纏めにして、ビニール袋の表面に、デカデカと『蓮田の。見るな』と書いておく。察しの良い寮生なら、またオレたちが何かしようとしていると、すぐに解るだろう。




   ◆   ◆   ◆





「買い物悪いな。一人で行かせて」


「うんや。遅かったな」


「ああ。お陰で、夕飯カップラになった」


 どうやら夕飯は職場で済ませて来たらしい。カップラーメンではちょっと味気ないだろう。同情する。


「抜け出してなんか食いに行く?」


 寮は門限があり、時間になると施錠されてしまうが、一階の部屋からと非常階段に繋がる部屋の窓からは、抜け出すことが出来る。先輩の部屋が多いが、大抵は笑って許してくれる。


「いや、良いよ」


「そ?」


 晃は食うときは牛丼十杯も余裕でいける健啖家だが、食わないときは食わなくても平気な男だ。痩せの大食いというヤツである。


 戯れていたヤドカリを水槽に戻し、あくびをする。


「明日は何時に起きる? 仕込みやらねえと」


 明日は休日なので、ちょっと寝坊したい気持ちもあるが、ハンバーガーを作る予定だ。仕込みにはそれなりの時間がかかる。


「んー、まあ、八時くらいで良いだろ」


「りょーかい」


 目覚ましをセットし、スマートフォンを枕元に置いた。




 ベッドに潜り込んで、電気を消す。「おやすみ」と言いかけた時だった。


「陽介」


 隣から伸びてきた腕が、ぎゅっと抱き寄せてくる。


「っ、ちょ」


 ごそごそと布団の中で、晃が抱きついてくる。脚を絡めとられ、強引に胸の中に引き込まれた。


「おい……」


 抗議のために上げた顔に、唇が近づく。確認するように軽く触れ、オレの抵抗がないと知ると、無遠慮に舌が入ってきた。


「っ、ん……」


 舌先を擽られ、ピクンと肩が揺れる。啄むようにして、何度も唇をつけたり離したりする。たまに深く舌を絡ませ、また離れる。そんなことを、だいぶ長いこと繰り返した。


 その間に、晃の手はオレの肩や指、背中を擦るので、敏感になった皮膚がゾクゾクと粟立つ。性的な意思をもって動く手に、僅かに緊張する。


(晃は、オレと、したいんだろうか……)


 宮脇の言葉が頭を過る。


 問題ない。大丈夫だ。そんな声が背中を押す。


 ちゅ、と音を立てて、唇が離れた。互いにハァハァと息を荒らげ、闇になれた瞳に、暗闇でも解るくらい、赤い顔をした晃が見えた。多分、オレも真っ赤だと思う。


「陽介……、良い……?」


「っ……」


 掠れた声に、ゾクリとする。互いに興奮して、熱くなっている。何を「良い」と確認されたのか、解らなかったけれど――解っていた。


 オレは返事をしなかったが、晃は構わずスエットに手を伸ばした。手を中に突っ込まれ、中心を握られる。


「っ……、は……」


 思わず息を飲む。お前も触ってくれと、視線が訴える。


 おずおずと手を伸ばし、晃に触れる。ドクドクと、脈打つのが手のひらに感じた気がする。晃は既に熱く、硬い。


(ああ、オレ、何やってんだろう……)


 晃は親友なのに。本当は晃が責任を取るものなど、何もないのに。


 指先が敏感な部分を刺激する。額をくっつけ合わせながら、互いの熱を欲する。


「っ、は……、晃……っ」


「……陽介…」


 自然と、唇が重なる。互いの熱を貪りながら、オレたちは何度もキスをした。






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