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十五話 嫉妬



 ハンバーグを作るときのコツは、タネに熱を加えないこと――らしい。100パーセント牛肉で作る場合、パサつき易くなるそうだが、これを守るとパサつきを押さえられるそうだ。要するに、手で捏ねずヘラなんかで捏ねる。


(そう言えば、実家のシュウマイも菜箸で混ぜろって言ってたっけ)


 母親直伝のシュウマイも、手捏ねせずに菜箸で混ぜる。なんの意味があるのか解らなかったが、肉に熱を少しでも加えないようにするためだったようだ。


 粗挽きした牛肉に牛脂を加え、ヘラでよく捏ねる。さらにスパイスを加え、よく混ぜる。しっかり捏ねるのが重要なようだ。


「こんな感じかなぁ?」


「うん。良いんじゃない?」


 晃がオレが混ぜていたボウルを覗き込む。サラサラした髪が頬に触れ、ドキリとした。


(……やべえ……、いい匂いするし……)


 晃から漂うシャンプーの匂いに、どぎまぎしてしまう。仕方がない。シャンプーの香りにやられるのは、古今東西、男の子の宿命だ。まあ、相手も男なんだが。


(しっかし、普通だ……)


 晃の態度は、昨晩とはまるで違う。昨日のことなど夢だったのではないかと思えるほどに、『親友』の顔をしている。


 あんなにチュッチュしたとは思えん態度である。


「大きさこんなもんか?」


「バンズの大きさ的にそのくらいかな。でももう少し大きくても良いよな」


「確かに。思いきってでかくするか」


 パティを成形し、フライパンで焼いていく。焼くのは晃だ。


「俺、学生の頃ムクドでバイトしてたよ」


「マジで? パティ焼いてた?」


「ポテト揚げてたw」


「ああw」


 晃のムクド姿なんて想像出来ないわ。どうせモテてたんだろ。


「陽介はバイトしてた?」


「オレは駅前のソラシド。カラオケ屋」


「え。マジ? もしかしてすれ違ってたかな」


「かもな~」


 晃と学生時代の話題をすることはあまりない。時折、こんな高校生や大学生だったとポツポツ話したりはするが、大抵は長く続かなかった。あまり共通の話題にならないからだろうか。


(オレは結構、昔話も好きなんだけど)


 晃がどんなヤツだったのか、どんな風に過ごしたのか、興味がある。話を聞いていると、同じく時を過ごしたかったと思うし、より深く相手を理解できる気がするのだ。


「晃は結構、カラオケ行った?」


「まあな。学生時代に星田多一の『流れボシ』流行ったじゃん。あれとかめっちゃ練習したわ」


「あー、解るw あの当時履歴見るとだいたいアレだったわ」


 懐かしいな。あの時代に、お互い知らずに生きてきて、どこかですれ違っていたかもしれないなんて、すごく不思議な感じがする。


 今じゃ当たり前のように隣にいるし、一緒じゃない方がおかしいとさえ思えるのに、もしかしたらちょっとの違いで出会っていなかったかもしれない。


 それってすごく、すごいことのように思えてくる。


「結構バイト入れてた?」


「うん。あの当時、付き合ってた彼女がバイト先一緒でさ。二人で時間合わせてシフト決めたりして――」


 晃の手が、やんわりとオレの言葉を遮った。唇に指先を押し当てられ、驚いて目を見開く。


(え――っと?)


「この話題、止めようか」


「う――、うん」


 ジワリ、耳が熱くなる。晃の瞳に、ドキリとした。


 多分。


 気のせいでなければ。


(嫉妬――、した……?)


 ドクドクと、心臓が鳴る。顔が熱い。


 晃の顔が、見られなかった。







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