おしゃれなワックスペーパーでくるんだハンバーガーは、思っていたよりずっと本格的に出来上がった。添えたのは揚げたてのポテトとコーラ。オレたちが食べに行ったハンバーガーにはレモネードだったけれど、やっぱりハンバーガーといえばコーラだと思う。
「美味っ……。オレたち天才じゃね?」
「これ、また食堂からクレーム来るわ」
晃と一緒に試食のハンバーガーを齧り、うんうんと頷く。パンはやはり市販品なので少し物足りないが、シャキシャキのレタスに厚切りトマト。程よく熟したアボガドに、辛みの少ないタマネギ。ソースはごくシンプルに。シンプルなソースのお陰で素材の味が美味い牛肉100パーセントのパティ。実に完璧である。
「いやあ、蕎麦屋も良いけど、バーガー屋も良いよな。この辺バーガー屋って本格的な店ってないしさ」
「脱サラする?」
マジで考えちゃうぜ。仕事に不満はないけどさ。一度きりの人生、なにかこう、思いきってやってみたいとも思うよな。
一人じゃ勇気も出ないけど、晃と一緒だったら、たとえ借金してもなんとかなる気がするんだ。この二人なら、きっとどんな逆境でも、笑っていられるんじゃないかって、そんな確信めいた感じ。
(まあ、晃が本当のところ、どう思ってるのかは解らないんだけどさ)
オレに合わせて『店やる?』なんて言ってくれてるけど、多分それって、本気で言ってるわけじゃなくて、その場のノリ。
実際に会社を止めて店をやるなんて、多分想定してない。オレだって、本気で言ってるわけじゃない。
例えば、オレが急に会社を辞めたとしても、やっぱり「晃も来てくれ」なんてこと言えないし、本当に店をやるなんて、想像も出来ない。
オレたちのやってることは趣味で、遊びだから楽しいんだ。
(寂しい、けどな)
思わず気持ちがシュンとしてしまう。晃がそれを目ざとく見つけ、顔を覗き込んできた。
「どうした?」
「っ、なんでも……」
オレの返答に、「そう?」と小首を傾げ、晃が手を伸ばした。唇に指が触れ、ドキリと脈が跳ねる。
「ソース、着いてた」
フワリ。笑って。
晃の赤い舌がソースの着いた指を舐める。
「――」
不意打ちだったからだろうか。
油断していたからだろうか。
オレは全然、こんなこと、思っても見なくて。
窓から差し込む柔らかな光が、晃の頬に陰を落とす。何気なく伏せられた瞼の美しさとか、長く器用そうな指が動く仕草だとか。晃の髪から香る、優しい香りだとか。
何でもないことが、一気に情報としてオレの中に取り込まれて行く。
その瞬間。
――カチリと、何かが嵌まったような気がした。
頭のなかで鐘が鳴り響くような衝撃が弾ける。心臓がバクバクと鳴り響き、沸騰するように一気に顔が熱くなった。
「―――」
衝撃に、唇をぎゅっと結ぶ。
叫びそうになって、すんでで堪えて、床にしゃがみこんだ。
「!? おい、陽介っ!? どうした」
晃が驚いて手を伸ばすが、オレは反応できずに膝を抱える。
胸が痛い。
死にそうだ。
こんなに苦しいこと、あるか?
(ああ、オレ――)
なんで、今気がついた?
なんで、気づいてしまった?
(オレ、晃が)
好きだ。