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14.落とし物(後編)

「解決策はこれだ【君に決めた!!】」


 これは狙ったものを手の中に引き寄せる魔法。

 けっこう消費MPは多いけど確実に手の中に入るのが優秀な魔法だ。

 元ネタ的にはむしろ狙ったものを取り出す魔法な気はするけどそれはいいか。

 これなら指輪だけを引き寄せられるに違いない。


「動いてなさそうだぞ」

「あれ?」


 手の中に指輪が入らない。

 排水溝を覗いてみると若干指輪の位置が変わっているもののパイプの中だ。

 おかしいな、前に試した時はちゃんと手の中に入ったんだけど。


「あ、もしかして水の中だから?」


 空気中でしか使えない魔法だったのかもしれない。

 気になるけど検証は後にしよう。


「なら次はこれだ【くっつき虫】」


 触れたものをくっつける魔法。

 磁石と違って磁性とか関係ないので問題ないはずだ。


「あれ……? くっつかない」


 なんでだよ、これも前に試した時は……あっ、また水のせいか!?

 鉄パイプを水につける・つけないで比較してみると、水につけた場合はくっつかなかった。

 水の有無で変わるとかどういう原理なんだよ!?

 というか水の影響が大きすぎるだろ、そんなに水中って特殊なのかよ!?


「本当に大丈夫なんだろうな?」


 阿久津が不信そうな目で見てくる。

 やばい、ここまで失敗するのは想定外だった。

 普通に何か作業するなら水の中に沈んでいるのは大した影響じゃないけど、魔法においてはここまで影響するとは……。


「あ、そうか、なら水を消せばいいんだ【ウォータージェット】」


 手に水だけを弾き飛ばすバリアみたいなものを張る魔法。

 これなら安全に水だけをパイプから押し出せると思う。

 ただしこれのどこがウォータージェットなのか作成者を問いただしたいけど。


「なあ、遊んでるのか?」

「ち、違うって」


 そうだった、指輪のある場所は大分下だからバリアが届かないんだ。

 焦りすぎて普段気づくことすら気づけなくなってるぞ。


「無理か」

「あと一回、あと一回で出来るから」


 えっと、[ウォータージェット]と同じ効果を物体に付与する魔法を検索して……。

 あ、作られてないのか、それならとりあえずで作って……。


「【とりあえず作った】と【君に決めた!!】」


 細長い糸を垂らしてその周りにある水を吹き飛ばした後、指輪を引き寄せる。


「やったぞ!!」

「素晴らしい」


 よし、今度こそ上手くいった。

 阿久津の表情を見るに、これで失敗してたら本気で見放されてた気がする。


「ところでとりあえず作ったって何を?」

「そういう名前の魔法を作った」


 いちいち名前を考えるのはめんどいから仕方ない。

 それにすぐ消すから問題ないし。

 ……あれ、魔法が消せない?

 おかしいな、以前に魔法を検証していた時はすぐに消せたと思うんだけど。


「どうした?」

「いや、なんでもない」


 まあ大した消費量じゃないしいいか。


「はい、これ」

「助かった、お礼はする」

「よし、なら体で払ってもらおうか」

「バリツでいいか?」

「なんで俺が殴られないといけないんだよ!?」

「藤田に睨まれて喜んでるからてっきりMかと」

「藤田さんは睨んでなくて優しく見てくれるよ!?」


 不機嫌そうな顔をしてるだけで実際に不機嫌な訳ではない。

 というか、いつも目は優しいんだよな。

 あの目を見てると全てを受け入れてもらえそうな気になってくる。


「なるほど、バブみか」

「陽キャが陰キャの用語に詳しいと腹立つな」

「図星を指されて怒るのは器が小さい証拠だぞ」

「覚えてろよ、魔法でお前の恥ずかしい過去暴いてやる」

「そんな過去自体ないんだが……」


 そんなことを話していると扉をノックする音が聞こえた。


「あの、阿久津君、来ましたけど……?」

「ああ、先生ちょうどよかったこれを」

「あああ、ありがとうございます!!」


 先生が指輪を抱きしめている。

 普段の態度だと婚約は嬉しくないって感じだったけど一時的なものだったのかな。


「先生は俺たちを連れて指導室に向かってください」

「えっと、それはどうして?」

「ここから出ていく時に誰かに見られても『昼休みに部室を使っていた俺たちを指導するため』と言えますから」

「……わかりました」


 なるほど、たしかに今見られたらやっかいだな。

 そこまで考えているなんてさすがだ。

 そのまま指導室まで一緒に行き、しばらく待機した後に出ていった。


「ふう、なんとか解決できたな」


 肩を回しながらそう話す阿久津。

 そんな動作一つ取ってみてもカッコいいのが腹立たしい。

 イケメン死すべし、慈悲はない。


「嫉妬しすぎだろう」

「しっと団はいつもお前を見ているぞ」

「ネタに走るのをどうにかすればモテるだろうに」


 そんなことでモテるなら苦労しないんだよ。

 だからこそ魔法ですごい所を見せたらきっとモテるように……ん?


「そういえばさっき俺が断った時の話は聞いたけど、頑張っても取れない場合はどうする気だったんだ?」


 よく考えたら俺がいくら頑張っても解決しない可能性はある。

 その時、阿久津はどうするつもりだったんだ?


「初歩的なことだよ、ワトソン君」


 えらくその言葉を使うけどシャーロキアンか何かなのかな?

 俺がもう少し詳しければ付き合えるんだけどほとんど読んだことないしなぁ。


「現状を見ようか、まず俺と能見がシャワー室にいたな?」

「いたね」

「能見は何度か口調を荒げていたな?」

「そっちが煽っただけだと思うけど」

「あれは外まで聞こえていただろうな」

「え、いや扉閉まってるんだからそこまで聞こえないのでは?」

「部室の扉は少し開いていたからよく声は通るぞ」

「は?」

「シャワー室の扉は防音性皆無だからな」

「いやいやいや、じゃあなんのために鍵を閉めたんだよ!?」


 人が入ってくるのを警戒して鍵を閉めたんじゃないのかよ!?

 昼休みに部室の扉が空いてたら不審に思って誰か来るぞ。


「そうだな、たまたま通りがかった先生が不審に思って中を調べる」

「は?」

「するとシャワー室内で誰かが言い争う声がするわけだ」

「は? は?」

「慌てた先生がシャワー室内に入って喧嘩を止めようとする」

「いやいやいや、何の話だよ!?」

「なんと能見君は喧嘩を止められた腹いせに先生の手から指輪を抜き取って投げ捨てる暴挙に出た」

「何言ってるんだよ、そんなこと起きてないだろ!?」

「お前が失敗したらそういう筋書きになる予定だったんだ」

「最低すぎるだろ!?」

「だが先生を守るためと言われればお前は受け入れる、違うか?」


 たしかに先生を守るためと言われればある程度は受け入れるかもしれない。

 疑惑だけで処分されるのは不憫だし、……それに美人だし。


「けどわざわざ指輪を抜き取るみたいな悪意のある行動は受け入れたくないぞ」

「まあそこは上手い筋書きが浮かばなかったんだ、許せ」

「ゆ゛る゛ざん゛!!」

「今は令和だぞ」


 こいつ、ネタ元理解していやがる。

 これだけオタク趣味に詳しいとか光と闇が両方そなわり最強に見える。


「それほどでもない」

「ブロントさんまで網羅してんのかよ!?」

「反応できるお前も大概だな」

「俺は陰キャだからいいんだよ」

「年齢の問題と思うんだがな」


 まあいいか、阿久津がこれだけ話せる相手だとは思わなかった。

 見た目だけで合わないと決めつけるのは駄目だな。


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