部屋に戻って考える。
パンツがなくなるというのが魔法の効果であるなら盗まれていると考えるのが妥当だろう。
何かを盗む魔法と言われてまず最初に連想するのは物体引き寄せだ。
そして物体を引き寄せる魔法は存在する。
実際、以前指輪を引き寄せる時とかに使った。
ただ引き寄せるというのはあくまで動いていくだけなので眼の前から突然消失することはない。
「間違いなく消えてたよなぁ」
あれはまさに消失したと言っていい消え方だった。
イメージとしては瞬間移動。
よほど高速で引き寄せればいけるのかもしれないけど、消費MPが膨大になる。
普通の人どころか俺でも作成はできない。
なら他に考えられる可能性はなんだろうか。
物体が消失するという点に着目すれば、透明にする魔法が考えられる。
具体的には自身が透明になった状態でパンツを触って透明化させればいい。
「ただそういう魔法は消費MP以前に作れないんだよなぁ」
魔法は現代の技術で実現できないことも出来る。
手の感覚を遠くに飛ばすとか物に触れないで動かすのがそうだ。
ただ中には作成自体が不可となるものが存在する。
洗脳や他者への強制や瞬間移動がその例だ。
条件を変えようが制約をつけようが何をしても作成不可と出て終わる。
「何が違うんだろうな」
時間移動の魔法は消費MPが桁外れとは言え作ることが出来るのを考えると、少なくても何らかの意図はある。
じっくり調べてみたいものだけど今はパンツ泥棒の対処が優先だな。
・・・
結局一晩考えてもいまいちピンとくるものがなかった。
授業中も必死で考えていたけど魔法の候補が思いつかない。
やっぱり突然物体が消失するっていうのが難しいな。
「真琴ー、どうした、元気ないぞ?」
「考え事してるんだよ」
「嘘だな、独り言言ってなかったぞ」
「独り言言うのがデフォにすんなよ!?」
不審そうな目で俺を見てるけど、そうそう独り言を言ってたまるか。
「じゃあ何考えてたんだよ」
「どうやったら一瞬で手元に物を持ってこれるか考えてたんだよ」
「なかなか面白いこと考えてるじゃないか」
阿久津も来た。
男が笑顔で来るとなんか裏があるように思ってしまう。
「最近やけに絡んでくるけど暇なのか?」
「友だちとの交流を大事にしてるのにひどい言われようだ」
「陽キャは陽キャでパーティ組めよ」
「あいにく陽寄りのニュートラルでな」
「あ、うち陰キャ限定なんで」
「春日井は陽キャじゃないのか?」
「翔は根っこが暗いから陰キャだよ」
「ほほう、そういうこと言うなら次からは困っても助けてやらんぞ」
「なんでだよ!?」
「いやぁ、僕陰キャなんで人助けとかは……」
「そんなマッチョな陰キャがいてたまるか」
「能見が言ったんじゃないのか」
「都合の悪いことは忘れよ」
「意外と自分勝手なのな」
阿久津が笑いながら肩を叩いてきた。
この距離の詰め方が陽キャっぽい。
「真琴は内弁慶だからな」
「たしかにそんな気がするな」
「そんなことないよ!?」
品行方正を心がけて大人しくしているはずなのにおかしい。
「で、一瞬で手元に物を持ってくる魔法だっけ?」
「そうそう」
「それは前の吸い寄せる魔法とは違うのか?」
「吸い寄せる魔法は直線的な動きしか出来ないのがね」
「どういうことだ?」
「障害物を無視して手元に持ってきたいんだ」
「なるほどな……」
阿久津が頭に手を当てて考えている。
一休さんっぽい行動は一発ネタじゃなかったのか。
「難易度が高いのは理解した」
「スマホとかリモコンとかを手元に持ってきたいのか?」
「だいたいそんな感じ」
「なら見つけるだけでいいだろ」
「それも大変だよ、金属で感知しても該当するもの多いし」
「なんでそんな遠回りな……スマホ感知とかでいいんじゃないか?」
「スマホ感知なんて魔法があるのか!?」
「ああ、知らなかったか?」
「全然知らない、で、情報を詳しくよこせ、ほらほらほら」
「人格変わってないか?」
「いつものことだろ」
興味深い内容を聞いたら誰だってそんな感じだろう。
どうやればスマホだけを感知することが出来るのか。
魔法使用者がスマホと認識するものを感知してる?
それとも大きさや形状が当てはまるものを感知してる?
「どうも携帯回線の信号を検知しているみたいだな」
「ほう」
機器を使えば検知できるとはいえかなり専門的な機械がいる。
そういうのがなしで手軽に出来るのは大きい。
それに携帯回線の信号検知ができるのであればWi-FiやBluetoothの信号も検知できるんじゃないか?
なんかちょっと応用すればやばい魔法が作れそうな気がする。
「あ、つまりタブレットとかも引っかかる?」
「使って試したらどうだ?」
「たしかにな、で魔法名は?」
「ちょっと待ってくれ、えっと[俺のスマホどこいった]だな」
「ICタグつけとけよ!?」
「そこは作成者に言って欲しい」
何の目的かと思ったらなくしたスマホの捜索目的かよ。
いまどきICタグが安く売ってるんだからつけておけばいいだろうに。
「【俺のスマホどこいった】」
おお、手元のスマホの輪郭が強調されるように光ってるし、ついでに俺の私物のタブレットも光ってる。
これなら軽く見渡すだけでも見つけられるな。
「ってあれ? 翔や阿久津はスマホ持ってないのか?」
「持ってるに決まってるだろ」
「あるぞ」
そう言って二人ともポケットからスマホを取り出した。
そのスマホの輪郭も光っている、けど……。
「ポケットの中だと見えない?」
「光を通す生地じゃないだろ」
「光っていても見えないだけだろう」
「使いづらっ」
強い光を出すわけではないので何かの影にあると目立たない。
夜とか暗いところなら漏れ出す光で気づけるだろうけど、昼間だと全然だ。
「ふむ、課題はあれど発想は良かったな」
「好評だったなら幸いだ」
いろいろ使えそうな感はある。
帰ったらさっそく検証してみよう。
「ところで元々考えていたことはいいのか?」
「……何考えてたっけ?」
「本末転倒過ぎるだろ」
ちなみに完全に忘れていたので阿久津から教えてもらった。
・・・
放課後は灯里ちゃんの家に呼ばれている。
「兄貴はまだ?」
「トレーニングしてから帰るって言ってた」
「また汗臭い状態で帰ってくるの? 勘弁してよ」
翔の嫌われっぷりがすごい。
なんでここまで嫌われてるか気になるけど下手に聞くと逆鱗に触れそうだ。
昔から灯里ちゃんが怒ると怖いんだよな。
「どうしました?」
「いや……」
すぐに敬語に戻る辺り、ほんと翔だけ特別なんだろう。
「私が、来た!!」
「ヒーローみたいな登場するなよ」
「ヒロイン的な登場と言われると……きゃあ、まこ太さんのエッチ」
「男が覗いてるじゃねぇか!?」
「ヒロイン見参!!」
「心の中で三回唱えろよ」
テンション高く入ってきたのは陽菜だった。
ほとんど勢いだけで喋ってるから何言ってるか全然分からないけど。
「分からないといいつつ反応してるのがお兄ちゃんなんだよ」
「まあ兄妹だからネタ元が一緒だしな」
「愛し合う二人はいつも一緒!!」
「そのネタをやるなら翔が似合いそうだな」
マッチョキャラのネタだから翔と灯里ちゃんならばっちりだろう。
まあ灯里ちゃんがものすごく嫌がるだろうけど。
「陽菜さんは相変わらずテンション高いですね」
「勢いで生きてます」
「じゃあ二人とも揃ったので説明始めますね」
「わかった」
「おう」
そのまま部屋を通り抜けてベランダに出た。
けっこう広めのベランダで数人いても狭く感じない。
「ここにスマホ置いてたんです」
壁に立てかけるようにして置いてある。
角度的にはバッチリ撮影できそうだな。
ただどう見ても丸見えなんだけど……。
「もう少し隠したほうが良いのでは?」
「犯人が映ればよかったので」
「気づかれたら持っていかれるかもよ」
「スマホが家から離れると警報が鳴るから分かるんです」
「なるほど……」
大事なスマホをオトリに使っていいのだろうか?
下手すると壊されるだけな気が……。
「このスマホはそうそう壊せないので」
「え、そうなの?」
「なんとこの高さから落としても壊れないことが保証済みなのだ!!」
「なんで陽菜がそれを答えるのか」
「やったからだよ」
「そんなことして怪我はなかったのか!?」
「落としただけだから私は大丈夫」
「よかった」
「心配するのがそこですか?」
灯里ちゃんに突っ込まれたけどそれ以外の何を心配するんだ?
そう思っていると灯里ちゃんが笑い始めた。
見た目は大人しい美少女なのに声を上げて笑うから、付き合いの浅い人は驚くんだよな。
「真琴さんは相変わらず変わってますね」
「自分では変わってると思ってないんだけど……」
「真の狂人は決して自分を狂人とは認めないものファ」
「陽菜はかわいいなぁ」
「いひゃい」
狂人呼ばわりは失礼なのでほっぺたをつねっていく。
今日は肌の質感が良いな、よく睡眠が取れたのかな?
「見え方というのは人によって違いますからね」
「……ん? 見え方……?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
見え方……カメラ……撮影……、もしかして。
「閃いたかもしれない」
「じっちゃんの名にかけて!!」
「なんで陽菜が決め台詞言ってるんだよ!?」
「アシスタントです」
「いや、アシスタントでも言わないだろ」
「何を閃いたんですか?」
陽菜をガン無視で質問してくる。
このぐらいじゃないと陽菜と長く付き合えないのかもしれない。
「ちょっと試したいことはあるんだけどいいかな?」