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27.Cカップ土下座事件

 次の日。


「和泉さんちょっといいかな?」

「なによ?」


 かなり態度が刺々しい。

 これは江川だったら喧嘩になってたかもな。


「ちょっとお願いしたいことがあって」

「嫌よ、魔法で胸のサイズ調べようとしたくせに」

「それは……」


 まずい、バレてたとは思ってなかった。

 なんて言い訳すればいいんだ。


「いや、それは違う」

「え?」


 俺が言い淀んでいると江川が割り込んできた。

「みんなで相談して、魔法ではなくちゃんと本人に聞こうと決めたんだ」

「は?」


 江川が目配せしてくる。

 俺がタイミングを指定する予定だったけど江川に任せよう。


「「「「「俺(僕)たちにCカップの水着姿を見せてください」」」」」

「はい!?」


 全員で必殺の土下座。

 困ったら土下座すればなんとかなると某漫画でも言ってた。


「実際に見てないから疑うんだ」

「実物でCカップだと言われれば納得できる」

「貧乳はA以下」

「大きくても小さくても良いものは良いと思うよ」


 魔法なんて使おうとするから悪いんだ。

 正攻法で直接見せてもらうのが一番いい。

 それで断られたとしても魔法で見るよりずっといいはず。


「あんたら……」


 意外と怒っている感じではない声色。

 これはワンチャンあるのでは。

 そう思ってみんなが頭をあげたその時だった。


「人の胸のサイズを大声で言うなぁ!!」

「ぶほっ!?」


 顔を真っ赤にした和泉さんが教室から走り去っていった。

 ただ走り去る時に机にぶつかってそれが江川の顔面に直撃したのがかなり痛そうだ。


「大丈夫か、江川?」

「傷は浅いぞ」

「ご褒美と思え」

「本人から直接ならともかく間接的だと嬉しくねぇよ!?」

「ほほう」

「江川の性癖がMだった件について」

「同類じゃったか」

「風評被害やめろ!?」


「ほほう、江川君は受けで確定ですか、予想通りですねぇ」

「鳥海と絡ませたいわね」


 うん、名雪さんと橘さんは自重しようね。


「見ろよ、変な想像されただろうが!?」

「いやぁ、俺も変態呼ばわりされたし」

「僕も変態って言われた」

「なんだ、まともなのは俺だけか」

「桐谷は尻フェチだろ」

「突然の暴露やめろ!?」

「和泉は安産型だなとか言ってた」


 当然これだけ騒いでいれば周りも注目する。

 男子だけでなく女子もだ。


「うわ……ドン引き」

「最低」

「ちょっと良いって思ってたのに」

「なるほど、それなら阿久津君より春日井君の方がよさそうですねぇ」

「攻めに回らず受けなら鳥海くんでも問題なくない?」


 まじかよ、桐谷の奴こそワンチャンあったっぽいぞ。

 まあ"あった"だけで今完全に消えたけど。

 あと名雪さんと橘さんは本気で黙ろうね。


「好感度がだだ下がりになったじゃないか!?」

「自分だけ助かろうとするから」

「旅は道連れ世は情け」

「地獄へは一人で行けよ!?」

「名雪さんと橘さんの好感度は爆上がりだぞ」

「やめろよ、怖いだろ!?」

「今度は鳥海✕桐谷がブームになるな」

「僕より桐谷✕春日井で」

「なら間をとって桐谷✕江川でいいだろ」

「よしっ」

「どこが間なんだよ!?」


 和泉さんは時間間際に戻ってきた。

 顔を赤らめながら睨んでいるのがすごくかわいくてちょっと興奮する。


 授業が終わると一番に席を立って江川を睨んでから帰っていった。


「怒らせたな」

「友達を売るような奴は嫌われて当然」

「お前らも売っただろうが!?」


 相変わらず楽しそうな3人組だな。

 ああいうのが気の置けない友人と言うのだろうか。

 そう思いながら眺めていると肩を叩かれた。


「能見君」


 振り向くと真剣な眼差しで俺を見つめる藤田さん。

 昨日あんな失礼なことを言ってしまったから今日は全然声をかけられなかったのに藤田さんの方から声をかけてくれるなんて。


「何かな?」


 怒ってるんじゃないかと思っていたけど、今見た感じでは大丈夫そうだ。

 ただ普段と違って無表情なので真剣な眼差しと相まって何か重要な話でもあるのかな?


「能見君はM?」

「違うよ!?」

「S?」

「それも違うよ!?」


 そう思っていたのに藤田さんの口から出てきたのはSかMかという質問だった。

 そんなどっちかだろうと言う感じで聞かれても困る。

 別に俺はSでもMでもないし……。


「真琴はリアクション芸が得意だからMだぞ」

「あんまりSっぽくないように感じる」

「白い目で見られて喜ぶのはMだけな」

「変態だからM、間違いない」

「藤田さんの前でそんなこと言うなよ!?」


 せっかくカッコいい所を見せてるのに台無しだ。


「カッコいいとは初耳だろ」

「冗談はよせよ」

「気持ち悪い所の間違いか?」

「変態はカッコいい、理解した」

「ひどい言われようだな!?」

「……和泉さんと仲いいの?」

「え?」


 珍しく俺の顔をしっかり見ながら聞いてきた。

 といっても和泉さんには怒られるばかりで仲良くしてる感じはないんだけど……。


「和泉とはクラスメイトぐらいの付き合いに見えるな」

「そうそう、江川だけご褒美もらってるし」

「和泉からのご褒美で喜ぶ変態」

「お前らが俺のせいにしてるだけだろうが!?」

「……本当に?」


 これはもしかして嫉妬してくれているとか?

 なら全力で否定しないとまずい。


「そ、そうだよ、仲がいいのは江川であって俺じゃないよ」

「そう」

「この反応はもしかするともしかするか?」

「能見は死ね」

「貧乳彼女はうらやましい」

「まてまて茶化そうとするんじゃない、あと鳥海は心の声が丸聞こえな」


 鳥海のやつめ、藤田さんは貧乳じゃないぞ。

 個人的な見立てではC以上あるし形も綺麗なお椀型。

 小さめの身長と合わせるとベストと言っていい。


「……」

「真琴、口から声出てるぞ」

「お前、本人の前で……」

「服の上からそこまで見抜くのはプロだな」

「プロに敬意を評して藤田は譲る」

「え、え、え!?」


 みんなが口を開くと同時に藤田さんがそっと離れていった。

 弁解しようと思って近づこうとしても足早に教室から出ていってしまった。


「あ、あ、ああああーーーー」


 せっかく好印象持ってもらったと思うのにどうしてこんな時に!?


「雨降って地固まる、だろ」

「どう見ても固まってないぞ」

「おっぱいが柔らかすぎたんだ」

「やはり柔らかいより硬いぐらいが良い」


 嘆いていると阿久津が帰ってきた。

 そういえば授業の時からいなかったな。


「なんだ、何かあったのか?」

「エンターティナー真琴が芸を披露してたぞ」

「そりゃあ是非見たかった」

「最高だったぞ」

「本人的には最低だったよ!?」


 残念そうにしてたのはどうやら人の不幸を嘲笑いたかったらしい。

 覚えてろよ。  


 次の日。


「ん!!」

「え、なんだ?」

「ん!!!!」

「あ、ああ」

「これで貸し借りなしだから」


 江川が和泉さんから何かもらったようだ。

 どうやら封筒らしく中を確認している。


「何もらったんだ?」

「和泉の水着写真」

「は!?」

「机が当たったお詫びだそうだ」


 その言葉を聞きつけて男子が集まってくる。

 普段あまり会話しない人まで来ているのはすごいな。


「写真にはC65と書いてある」

「み、見せてくれよ」

「お前らには見せてやらん」

「はぁ!?」

「僕ら友達だろ?」

「なら机を当ててもらうんだな」

「鬼、悪魔、江川!!」

「C65はギリ貧乳なのに」


 桐谷と鳥海は必死に抗議してるけど江川の意思は硬そうだ。

 というか、江川って和泉さんのこと好きっぽいし見せてくれるわけないか。

 俺だって藤田さんの水着写真あったら見せないし。


「まあまあ、無理して見せてもらう必要はないだろ」

「春日井!?」

「証拠が欲しかっただけと聞いたんだが嘘だったのか?」


 返事に窮する桐谷と鳥海。

 たしかに自分の目で証拠を確認したいとは言ってない。

 それなら江川が確認しただけで十分のはずだ。


「なんで俺達だけこんな目に!!」

「同意」

「ざまぁ」


 人の不幸を笑っていたつけが来たんだ。


「能見は藤田さんのおっぱい批評して大好評だったな」

「好きな子にあそこまで言える能見に感動した」

「やめろ、思い出させるなよ!?」


 結局お互いの恥ずかしい過去を暴露しあって双方大ダメージを受ける結果となった。


 ちなみに大騒ぎしすぎたせいでこの件は周りに知れ渡り、Cカップ土下座事件として広まってしまった。

 もちろん和泉さんがさらに激怒したのは言うまでもない。


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