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31.カードゲーム カオスフィールド

『延期されていたカオスフィールドの新パックが来月発売決定!!』


「おお、ようやく新パック出るのか」


 ネットで魔法の記事を調べていたら、たまたま俺のやっているカードゲームの新情報が公開されていた。


 カオスフィールド。

 国産のカードゲームで国内では大体三番目に人気があると言われている。

 カードゲームでは珍しい陣取り型で相手本陣を攻め落としたほうが勝利となる。

 プレイヤーは自軍本陣から道を繋いで相手本陣を目指すんだけど、ここに戦略がある。

 狭い道を設置して小型モンスターしか通れなくしたり待ち構えている敵を避けるように迂回路を作ったりと多種多様な方法が取れる。

 モンスターの召喚は本陣以外だと条件が厳しいのでそこも戦略となる。


 また珍しいもう一つの特徴として頻繁にサイコロを振ることがあげられる。

 攻撃の先行・後攻を決めるのも呪文の成功判定もダメージの値を決めるのもすべてサイコロだ。

 だから狙ったカードが引けたとしてもサイコロ運が悪いと負けてしまうし逆に運よく勝つこともある。


 これが非常に面白い。

 同じ人と何度戦っても同じ結果にならないので対戦相手に乏しい俺にはもってこいだ。


「世界書のおかげで延期になったからなぁ」


 魔法の存在、これはカードゲーム業界に影響を与えた。

 確率が関係するカードゲームにおいて確率を操作出来たらいわずもがなだろう。


 ただ普通の確率操作に関してはある程度の対策でなんとかなる範囲だった。

 初手に任意のカードを引く魔法はあれど消費MPがかなり高くレベル10程度では使えない。

 それなりの高レベルでないと何度も使用できないのでそこまで考慮しなくても良かった。

 また仮に魔法を使ったとしても必ず初手に引くのでハンデスで狙い撃ちされやすい。


 必要な時に必要なカードを引くいわゆるディスティニードローの魔法なら、ハンデスで狙い撃ちされる問題は解決する。

 しかしその魔法はさらに消費MPが高いのでよほどの高レベルでも二回は使用できない。

 それを使って何勝もするのは難しいだろう。


 外部から干渉すればその辺りの問題は解決するように見えるけど、きちんとその対策も取られているのが素晴らしい。

 具体的には観戦者が直接対戦を見ることは出来ず中継映像になっている。

 中継は少し遅延しており観戦者が魔法で干渉しづらくなっている上に世界書を出すと問答無用で強制退場となる。

 だから普通のカードゲームは問題なかった。


 問題はカオスフィールドのダイスロールだ。

 魔法においてサイコロの出目の操作は非常に低コストで出来てしまう。

 レベル1でも10回使用可能だ。

 とはいえ、ダイスロールを操作しても局所的な場面で勝てるだけなのでそこまで大きな影響はなかった。

 とある例外を除いては。


「ゼピュロスデッキ好きだったのにもう使えないよな……」


 俺の使っていたデッキはその例外だった。

 カオスフィールドは試合開始前に召喚士のカードを選ぶ。

 召喚士が本陣にいてモンスターを召喚しているという設定のためだ。

 召喚士はそれぞれ特殊な能力を持っているのでそれに合わせてデッキを組む。

 道を一度に二カ所作る能力とか第二本陣を作る能力とかあるので非常に面白い。


 そしてその中に〘ゼピュロス〙という召喚士がいる。

 〘ゼピュロス〙の能力はさらに特殊で「ピンゾロとスリーシックス(666)を出すことが出来ると特殊勝利となる」ものだ。


 これはありとあらゆる場面においてのダイスロールで有効な能力であり、戦闘時の先攻後攻のダイスロールですら判定の対象となる。


 状況に関係なく無条件勝利となるので決まれば非常に強いが特定のゾロ目なんてそうそう出ない。

 特に666は確率が低い上にそもそも三個サイコロを振れるカードが少ないので難しい。


 そのために敵味方問わずダイスロール時のサイコロを一つ増やす〘リリーアン〙というカードを使って無理やり三個振るのが定番だ。 


 とはいえ三個振れてようやく勝てる可能性が出る程度。 

 ゼピュロスリリーアンと呼ばれるこのデッキは1/36と1/216の確率をいかに引き当てるかのただのファンデッキだった。

 しかしそれも世界書が現れるまでの話だ。


「まさか魔法であそこまで影響が出るとは……」


 このデッキは魔法と相性が良すぎた。

 魔法で一度666を出してしまえば後は1/36の確率で勝利だ。

 元々このデッキはダイスロールに特化しているのでそのぐらいの確率なら十分成功させられる。


 そして他のデッキと違うのは対処方法が存在しないこと。

 666を出して何かをする目的ならそれを妨害するという戦略が取れる。

 けどゼピュロスデッキは666を出すこと自体が目的なので、出された後に何かしようがない。

 せいぜいダイスロールの機会を減らすぐらいだろう。


「1/36で勝利するのが強いのは確かだけど、無力化系の魔法をことごとく叩き潰すのも強すぎたんだろうなぁ」


 さらにまずいのはもう一つのピンゾロの方だ。

 元々ピンゾロというのはカードの効果でよく使われる。

 ピンゾロは最低出目なので成功判定やダメージ計算において非常に不利になるからだ。

 そのため実質的な無力化として対戦相手のダイスをピンゾロに固定するカードがよく使われる。

 そしてカードの効果によるピンゾロはダイスを振った扱いとなる。


 魔法がないころはみんな気にせず使ってきた。

 ピンゾロを出たところで666が出せないなら一緒だからだ。

 しかし666が確定で出せるなら話が変わる。

 ゼピュロスデッキにとっては勝利をプレゼントしてくれるカードとなってしまう。


「ただなぁ、流行ってるデッキはもうゼピュロスデッキと言えないよな」


 流行っているデッキは〘ゼピュロス〙を召喚士にして〘リリーアン〙が入っているものの基本は強いデッキのコピーだ。

 カードゲームをやっているなら打ち消しや無力化といったカードを一方的に無効化出来る能力がどれほど強いか理解できるだろう。

 (M:tGユーザーの魂の声:3ハゲ死すべし、慈悲はない)

 おまけにピンゾロが出せれば勝利出来るので追い込まれても一発逆転できる。

 召喚士を〘ゼピュロス〙にして〘リリーアン〙を入れるだけでそれだけの恩恵が受けられるので、こぞって皆がデッキに入れ始めた。


「禁止カード候補って言われても正直納得いかない……」


 これらのデッキは〘ゼピュロス〙をお飾りにしているだけだ。

 本来は召喚士の特性を活かしてデッキ構築するものなのに、カード封印兼一発逆転要員となってしまっている。

 もしダイス目を操作出来る魔法が存在しなければ〘ゼピュロス〙は真っ先に抜かれるだろう。


「ゲームブックは面白くないとか言われてもなぁ」


 状況が悪くなると一人でダイスロールに徹する姿から〘ゼピュロス〙を使ったデッキは「ゲームブック」と揶揄されるようになった。

 有名なデッキに悪名がつくことはあるけどこれは風評被害な気がするぞ。


「大会であそこまで使用者がいるとは……」


 〘ゼピュロス〙を召喚士にしたデッキは大会で猛威を振るった。 

 会場で魔法は使えないけど試合前やトイレ休憩の時に魔法を使っておくことは出来る。

 666が偶然一発目に出たんだと言われてしまえば運営は何も言えない。

 消費MPが低いせいで再使用も容易なのでスリーマッチ制でも問題ない。

 その結果、上位入賞者の半数が〘ゼピュロス〙を召喚士に選んでいた。


 もちろん大会後は大荒れだった。

 トイレ休憩後の666の発生確率をまとめて表にしたり〘ゼピュロス〙使用者を不正者と決めつけて晒し上げたりと大きく騒がれた。


「でも禁止にした所で根本的な解決にはなってないと思う」

「お兄ちゃん、今日は何の独り言を言ってるの?」


 そんな独り言を言っていると隣から声が聞こえた。

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