「お兄ちゃん、今日は何の独り言を言ってるの?」
「カオスフィールドだよ」
「ああ……」
陽菜から声をかけてきたのに、返事を聞くと露骨にテンションが下がったのが伝わってくる。
カードゲームっぽい感じだからきっとM:tGの話だと思ったんだろうな。
「それよりマジックしようよ」
「今はカオスフィールドの気分なんだ」
「せっかく新パック出たのにー」
「こっちもようやく新パックが出るんだよ」
「むー」
やっぱりM:tGと思ってたか。
陽菜はM:tGならやるけどカオスフィールドにまったく興味がない。
なんでも「どうして敵を倒して勝ちじゃないの!?」とか。
M:tGもクリーチャーをいくら倒しても勝ちじゃないんだけどそれはそれらしい。
実際はカオスフィールドを最初に教えた時のことを根に持ってるっぽいんだよなぁ。
やり方を教えながらプレイしていた時に全軍突撃してきた陽菜のモンスターをさばきながら本陣奇襲して勝ったのがよほど嫌だったらしい。
一応本陣取られたら負けだと言っておいたのにガラ空きしたから攻めただけなんだが。
「む、お兄ちゃんが私の悪口言ってる気がする」
「言ってないよ!?」
相変わらず勘がいい。
まるで心の中が読めるかのような返事だ。
……いやもしかしたら独り言で言ってただけだったりして?
「まあひとり寂しくソリティアでもしてなよ」
「付き合ってくれてもいいだろ!?」
「いやですー」
「舌を出すのはやめなさい」
この前鏡の前でやっていた舌を出してあかんべーしているポーズが目に浮かぶ。
個人的には非常に可愛かったけどあざとすぎるのでやめたほうがいいだろうな。
「なぜそれを!? はっ、まさか私の部屋を盗撮!?」
「なぜそこまで飛躍するのか意味わからん」
「部屋見たいなら見たいって言ってくれないと困る!!」
「そんなこと微塵も考えたことねぇよ!?」
「ちゃんと準備させてくれないと女の子は嫌だよ?」
「何の準備だよ!?」
「かわいい下着に決まってるでしょ」
「普段から下着姿でうろついてるだろ!?」
「なるほど、一理ある、だから全裸が見たかったんだね」
「だから、より先の言葉を一言も言ってねぇ!?」
「そっかー、お兄ちゃんもそんな年頃かぁ」
「勝手に納得しないでくれます!?」
「どの辺に設置してるの?」
「やめよう、この話!!」
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
俺は 陽菜とカードゲームの話をしていたと思ったらいつのまにか盗撮犯になっていた。
な……何を言っているのか……わからねーと思うが……俺も……何をされたのか……わからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
「ネタが長い、5点」
「そういう方向でのダメ出し!?」
「まあ今度お兄ちゃんの部屋にカメラ仕込むからお相子ということにするよ」
「男の部屋盗撮して何するんだよ!?」
「そりゃあお兄ちゃんが隠している本とか動画とかを見つけるためだよ?」
「鬼じゃ、鬼がいるぞ」
もし見つかったら大変なことになるのは想像に難くない。
伝説に聞く『家に帰ってきたらエロ漫画が机に置かれてPCでAVが流れていた』の状態にされるかも。
「ロリとかあったら許さないからね」
「ないよ!?」
「中二まではOK」
「それはロリだよ!? しかもなんでピンポイントで中二まで!?」
「来年になったら中三までになります」
「ロリの年齢の定義が変動するとか聞いたことないわ!?」
「年齢差を考慮しました」
「その理屈なら父さんはロリコンだろ、年齢差けっこうあるんだぞ」
「なるほど、たしかにそうなるね」
結婚した時、父さんが28歳で母さんは20歳だったらしい。
父さんが18歳の時に母さんは10歳と言うことになるのでまぎれもなくロリコンだ。
ちなみに付き合い初めの写真を見せてもらったけど陽菜が順当に成長した感じだった。
父さんは老け顔なので完全に父娘にしか見えない。
「お兄ちゃんもロリコンの血を引くもの、つまりロリコン」
「どうしてもそこに着地させるんだな!?」
「だってこの前灯里を見る目がイヤらしかった」
「かわいいなって思っただけだよ!?」
「やっぱりロリコンだ」
「違うよ!?」
少し不機嫌そうな響きの混じった声。
何でそこまでロリコンにしたがるんだ。
もしかしてそんなに変態っぽく見えるのか?
「ロリコンなのにどうしてあたしには興奮しないのか、それが問題だ」
「うん、陽菜は妹だから興奮する訳ないよな?」
「だが女だ」
「使い方がおかしい!?」
「そういう世界線もあるはずだー」
バタバタと壁の向こうで暴れている音がする。
なぜ俺は妹をエロい目で見ないことで怒られてるんだ?
「お前は兄が家族に性欲を抱く変質者でいいのか?」
「性欲をぶつけてきそうになったら『仕方ないなぁ、お兄ちゃんは』と言ってあしらいたい」
「それ絶対そのまま襲われるだろ」
エロ漫画とかでよくある"分からせられる"パターンだろうな。
調子乗ってると本当に危ないぞ。
「しかしまさか小学生以下にしか興奮しないとは」
「一言も言ってない!?」
「この陽菜の目を持ってしても真琴という男を読めなかった……あの男の哀しき性欲を……」
「読めてない、普通の性癖だぞ!?」
「苦痛に耐えられぬ時は妹を頼るがいい」
「ロリコンが苦痛だと言うなら妹でもどうしようもないぞ!?」
「むう、小さい子のどこが良いのか」
「一言も良いと言ってないわ!? ごほっ」
途切れることのないボケでさすがに息が切れてきた。
普段から運動している陽菜と違って俺は体力がない。
「ほら、運動しないから息が切れるんだよ」
「少しはしてる、ごほっ」
「腕を前後に動かしても腕が太くなるだけで肺活量は変わらないからね」
「下ネタ多すぎだr、ごほっごほっ」
「カードゲームの話だったのに何を連想したのかな? かな?」
「カードで腕を前後に動かさねえよ!?」
ひたすらシャカパチでもしてるのかよ。
隣の部屋で満面の笑みをしながら煽っているのが目に浮かんだので残ってる力を振り絞って突っ込む。
「それにしてもまったく見つからないのが逆に怪しいんだよね、どこに隠しているのか」
「簡単に見つかるような場所に隠す訳ないだろ」
突然話が変わった、というより話が戻ったのか。
陽菜と話していていきなり話題が変わるのはよくある。
ただ慣れない人はついていけないだろうな。
陽菜が友達を増やしたいなら少しずつでも直していったほうがいいだろう。
「つまり見せられないような趣味があると」
「……ロリはないぞ」
さすがに家族に性癖を公開する気はない。
むしろ性癖をオープンにしている父さんや母さんは頭がおかしいと思う。
なんだよ、二人していちゃらぶ見せつけが趣味って。
子どもに見せつけずに他人に見せろよ。
ちなみに俺は見つからないようにちゃんと隠している。
木を隠すなら森の中と言うけど、今回のケースだと大量の木の葉で地面を隠した。
具体的にはカオスフィールドのカードを適当に入れてる段ボールの中にタブレットを入れている。
陽菜はまず触らないので発見するのは難しいはずだ。
「じゃあ見せて♪」
「だが断る」
「むう、使い方間違ってる」
「大体みんなこの使い方だからよしっ!!」
「赤信号理論はおかしいー」
バタバタ暴れているのが聞こえてくる。
よし、陽菜の気がそれた。
「とりあえず俺はデッキ調整してるからこれぐらいにしてくれ」
「むう、仕方ない」
なんとか諦めてくれたようだ。
それにしても最近やけに構ってもらいたがるな。
寂しいだけならいいけどまたいじめられてるとかじゃないよな?
機会があれば祥子ちゃんに聞いてみるか。