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67.彼女が出来たとばれた日

 次の日の放課後。


「さあ教えてもらいましょうか」


 授業が終わるとすぐに平川さんが俺の前に来た。

 さすがに経験値稼ぎの裏技と聞いては待てないか。


「内容次第ではヒロインになってあげる可能性もあるわ」

「……ヒロインってなってあげるものだっけ?」

「あんたじゃヒロインのなり手がいないでしょ」


 まあそうだけど平川さんに言われるとなんか言い返したくなるな。

 陽菜に言われてるのとおんなじ気分だ。

 かといってどう言い返すか……。


「久美」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「ヒロインは私」

「はい?」


 いつの間にか平川さんの後ろから透子が来ていた。

 そして自分から話しかけたのも驚きだけど、それ以上に発言内容が驚きだった。


「お姉ちゃん、真琴のヒロインってことだよ!?」

「知ってる」

「真琴を彼氏にするかもしれないんだよ!?」

「もうなってる」

「はい!? 彼氏に!?」

「なってるだと!?」


 平川さんが叫んだのに合わせるかのように、聞き耳を立てていた翔も叫んだ。

 二人がそんなことをすれば当然注目の的なわけで周りの視線が一切に集中する。


「お姉ちゃん、無理やり彼女にされたの!?」

「違う」

「じゃあ弱みでも!?」

「同じ意味」

「ならどうして!?」

「告白された」

「なんで告白を受けるのよ!? 義務はどうしたの!?」


 義務……?

 平川さんのよく分からない言葉に対して、透子の返事は少し間が空く。


「もう義務は必要ない」

「本気……?」

「覚悟はできた」


 あ、平川さんが行動不能になった。

 よほどショックが大きかったらしい。

 義務やら覚悟やらと言ってたけど、そんなに俺が彼氏なのが駄目なんだろうか……。


「なんでお前に彼女が出来てんだよ」

「上手くやったな、おい!!」

「二人きりだと喋るの?」

「待て待て待て、代表してオレが聞く」


 平川さんと透子の会話が終わったのを悟って周りが動き出す。

 男子が口々に話しかけてきたけど翔がまとめてくれた。

 さすが持つべきは親友だ。


「オレたちが聞きたいのは一つ、やったか?」

「高校生でやってる訳ないしそもそも昨日の今日だろ!?」


 駄目だ、こいつは親友である前に男子だった。

 しかも俺の返事を聞いてみんな落胆している。


「へたれが」

「いやぁ、普通初日にやるだろ」

「能見はしょせん童貞ということよ」

「あーあ、期待して損した」


 男子は散り散りになって解散していった。

 お前ら覚えとけよ、クラスの男子全員に運が悪くなる魔法とか使ってやる。


 ちなみに透子は女子から質問攻めにあってた。

 まあほとんど答えていないけど。


「……うん、状況は理解した」


 平川さんが何かつぶやきながらゆっくり立ち上がる。

 けっこう立ち直るのに時間かかっていたから今日はもう無理かと思ってたのに。


「で、元々の本題の件よ」


 キリっとした表情で、まるで何事もなかったように話をし始めたな。


「なんでそんな生温かい目で見てるのよ」


 この面の皮の厚さは陽菜を思い出す。

 都合の悪いことをなかったことにするのは妹キャラの特権なのかもしれない。


「いいよ、どこか場所あるかな」

「ならうちに来て」

「は?」

「なによ、他に場所ないでしょ」


 平川さんは平然としてるけど女の子の家に誘われるのなんて初めてだ。

 しかもクラスで一二を争う美人の家となれば緊張する。


「何の話?」


 透子が話しかけてきた。

 よく見ると透子の周りにさっきまでたくさん人がいたのにいつの間にかいなくなってる。


「あ、魔法の経験値稼ぎの話で」


 詳しい話を伝えると露骨に不機嫌な顔になった。


「ワタシは聞いてない」


 それはある意味で非常に珍しい反応だった。

 普段から表情で反応することはあっても、露骨に不機嫌だと分かる言葉遣いを口にすることはないからだ。


「き、昨日透子と話をする前のことだから」

「ほうれんそう」

「はい、すみません……」


 慌てて弁解をすると報告・連絡・相談の不足を指摘された。

 たしかにあの時点で言っておけばよかった。

 ただ怒ってる顔もかわいいと思ってしまうのは駄目なんだろうか?


「なんか尻に敷かれてるぞ」

「お姉ちゃん、黙ってるだけで意志は強いから」


 くそう、ガヤだから好き放題いいやがって。

 そもそも平川さんがこういう話しかけ方するから悪いんだ。


「うわっ、人に責任押し付けるとか最低」

「真琴、謙虚さを忘れるとあっという間に嫌われるぞ」

「なんで心の声にツッコんでんだよ!?」

「「全部口にしてたし(ぞ)」」


 そろそろこの癖なんとかしないと駄目なんじゃないか?


・・・


 結局、平川さんだけでなく透子と翔も一緒に行くことになった。


「しっかし経験値稼ぎの裏技あるならオレにも教えてくれたらよかったのに」

「翔はそこまでMPに困ってないって言ってたろ」


 俺がどれだけ魔法の紹介をしてもろくに使わないし、MP余らせてるぐらいじゃないのか?


「鍛えられるものは鍛えたい、それが男ってもんだ」

「それは脳筋の考え方よ」

「なんだと」


 これは平川さんに同意するしかない。

 男だから何でも鍛えると思ったら大間違いだ。


「魔法より頭を鍛えたらどう?」

「ほほう、そういう平川はさぞお勉強が出来るんでしょうな」

「そ、それとこれは別でしょ」

「翔は学年三位だよ」

「え?」

「ああ見えて頭もいいんだよ」

「嘘でしょ、どう見ても頭悪そうなのに……」

「お前らがオレをどう見てるかよく分かったぞ」


 そりゃあ筋肉ムキムキで普段から馬鹿話してるんだから頭良いと思う方がおかしい。


「ある程度のレベルまでは努力でなんとかなるからな」

「もしかして真琴も?」

「いや、俺は中の下くらい……」

「よかった、これで真琴も賢かったら立ち直れないわ」


 翔は見た目や言動で馬鹿っぽく見えるだけで基本文武両道だ。

 逆に俺は見た目賢そうに見えるらしいけど、成績はお察し。

 努力したいと思わなかったんだよな。


「ここよ」

「え、ここ?」


 平川さんが足を止めた先はかなり広い一軒家だった。

 平屋建てで歴史を感じる作り。

 どう見ても賃貸には見えない。


「引っ越してきたんじゃ……?」

「お祖父ちゃんの家が余ってたから住まわせてもらってる」

「家って余るものなの!?」

「意外とお嬢なのか?」

「さあ、よく知らない」


「よく知らない」と言うあたりが、いかにも世間慣れしていないお嬢っぽい。


「まあ平川はお嬢といってもヤクザのお嬢か」

「一声かければ組員があんたたちを取り囲むかもね」

「なんで俺まで巻き添えなんだよ!?」

「親友はいつも一緒だろ?」

「自爆テロに付き合わされる親友は嫌だな!?」

「目標に到達できる可能性が上がるぞ」

「一人で死んでこい!!」

「うわ、ひど、友達がいのない奴」

「……かわいそう」

「いや、違うんだ、そういう意味じゃなくて」

「お、浮気の告白か?」

「お姉ちゃんを捨てて他の女とか最低」

「話をややこしくするのやめてもらえないですか!?」


 こいつら隙あらばネタを入れてくるな。

 翔はともかく平川さんもそんな感じだとは思わなかった。


「とりあえず家行こう」

「そうだよ、こんな所で話してるのが間違いだよ」

「まあそうだな」

「あんたたちが余計なこと言うからでしょ」


 ようやく家の中に入ると応接室らしき所に通された。

 ふかふかのソファは、手で押すと沈み込むような柔らかさだ。

 これ本当に座っていいの? 後でお金取られない?


「なんかいろいろすげえな」

「ドラマとかでしか見たことない」


 よく分からない絵とか壺とかが置いてあるの初めて見た。

 キョロキョロと周りを眺めていると平川さんが飲み物を持ってきてくれる。


「とりあえずみんな座って」


 家主にそう言われては座らざるをえない。

 恐る恐るソファに腰かけると全身が包み込まれるような感覚がある。

 これ、すごくいい……。


「で、経験値稼ぎの裏技って何よ」


 ソファを堪能することは許されず、すぐ本題を切り出してきた。

 ソワソワした様子で我慢しきれていないのがよく分かる。


「[質より量が正義]と[量より質が正義]って魔法なんだけど」

「聞いたことないわね」

「単純に言うと[対抗呪文]で打ち消した魔法の消費MPを吸収する」

「はい?」


 眉をひそめて疑わしい目で見ている平川さんと特に反応のない翔と透子の対比が印象的だ。

 魔法に詳しい人ほど驚くだろう。


「MP吸収って期待値かなり低いはずよね?」


 さすがに魔法に詳しいだけあってその辺もおさえているか。

 それなら説明は早い。


「さっきの魔法を二つ使えば確実に消費MP-1回復できる」

「ありえない」

「まあバグっぽい挙動だから……」


 詳しい内容を説明すると半信半疑ながらちゃんと聞いてくれた。

 透子もこちらを見てしっかり話を聞いてくれている。

 二人とも聞く姿勢が出来ていていいな。

 それに比べて翔の奴は完全に聞く気がない。

 結果がそうなるなら過程はどうでもいいんだろう。


「一応理解したけど結局MPは1ずつ減るのよね?」

「うん」

「よく見つけたね」

「あ、うん、そうなんだよ、実はゲームの」

「その話はいいから」


 透子が褒めてくれたので発見の経緯を説明しようとしたら、平川さんからストップがかかった。

 こういう話を聞いてくれるかで好感度変わるんだぞ。


「つまり稼げる量は最大MPに依存するのよね?」

「そうだね」

「なら一気に高レベルは無理かぁ」

「で、もしここにMP1000以上ある人間がいるとしたら?」

「はい?」


 これがもっとも重要なポイントだ。

 どちらも最大MPが低いなら大した恩恵はない。

 けど片方の最大MPが極端に高い場合、低い方はかなりの恩恵がある。


「あんた一体どうやってそんなレベルに」

「名前で調べたら分かるけど有名な魔法を持ってるから」

「ちょっと待って」


 世界書を出して調べ始めた。

 作成者で検索して魔法を確認したようで驚いている。


「うそ……、[誰にも届かないかすかな光]と[届いたよその光]がそうなの?」

「うん」

「真琴、いいのか?」

「身近にいる魔法好きの人に隠してもいずれバレるよ」


 魔法の作成者名が分かる以上、魔法の話をしていればどこかで気づかれる。

 それなら先にばらしておいて口止めしたほうがよっぽどましだろう。


「本人ならレベルも高いはずだけど?」

「一応レベル76でMP5006」

「はい!? ちょっと見せなさいよ!?」


 俺に近寄ってきて後ろに回った。

 俺より身長が高いので簡単に覗き込まれてしまう。

 距離が近いせいかふわりと良い香りが漂ってくる。


「ほんと……、いやまだ嘘かも、【真実の目】」

「そこまでするの!?」

「表記が変わらない……、本物の高レベルだ……」


 一般人の高レベルはかなり高くてもレベル50程度で、それ以上となると本当に少数だ。

 その辺りから必要経験値が飛躍的に伸びるので一部で有名なぐらいでは到達できない。


「わかってもらえた?」

「うん……」


 呆然としている平川さん。

 魔法好きであるほどすごさがわかるから当然か。


「真琴くんは 「「真琴くん!?」」


 翔と平川さんが同時に驚く。

 こいつら仲良すぎじゃないか?


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