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66.無意識の告白

 次の日。

 ようやく授業が終わってHRをしている。

 終わりの挨拶が終わったらすぐにでも声を……。


「ではこれで解散です」


 ピンポンパンポン


「平川久美さん、至急職員室まで来てください、繰り返します……」

「なんだろう、お姉ちゃんは先帰っててね」

「ん」


 呼び出し……、これはチャンスだ。

 今なら二人で話がd「能見、これ職員室まで持っていってくれ」


「なんでこのタイミングなんですか!?」

「お前が日直だからだな」

「おのれ」

「ちょっと持ってくだけだろ、頼むわ」

「はい……」


 仕方ない、さっさと持っていくか。

 大した量じゃないし魔法を使えば一回でいけるだろう。


「おっとこれもな」

「追加オーダーはずるくないですか!?」


 追加分入れたらちょっと持ってくだけの量じゃないだろ!?

 鞄を諦めれば魔法を使って一回でいけるけど、それだと結局教室に帰ってくる必要がある。

 持ちづらい小物が痛いなぁ、とにかく急いで持っていって藤田さんを追いかけよう。

 そう思っていた時のことだった。


「行くわよ」

「は?」

「どうせ職員室行くし」


 いつのまにか平川さんが隣に来ていた。

 小物類の大半を持ってそのまま歩き出したのであわてて後を追いかける。


「何よ」

「ありがとうございます」

「敬語気持ち悪いわね」

「あ・り・が・と・う・ご・ざ・いー・ます!!」

「ネタが古い、あとあたしは厳しくない」

「まさか通じるとは」

「古いアニメの有名なネタが魔法で使われるから勉強してるの」

「ああ、たしかにそういうのは説明文見ても分からないもんね」


 漫画やアニメの技を魔法で再現したものは説明文も元ネタを知ってる前提で書かれることが多い。

 そういうのを個々に調べるより有名な元ネタを全部見てしまう方が手っ取り早く理解できる。

 俺もちょこちょこ古いアニメとか漫画を見ている。


「真琴は面白い魔法見つけた?」

「けっこうあるけど……」

「アタシも結構見つけてるけど試せてなくて」


 悩ましい顔をしている所を見るとやはりMPに悩んでいるようだ。

 普通にやっていたら頑張っても7レベルぐらいだしそれじゃせいぜい数種類しか使えないだろう。


「経験値稼ぎの裏技あるけど教えようか?」

「その話、詳しく」


 荷物を持ったまま、ぐいっと顔を近づけてきた。

 表情と声の感じからしてかなりやる気のようだ。

 俺も魔法好きの同志を助けるのはやぶさかではないのでどこかで機会を作って……。


「明日の放課後聞くわ」

「俺の選択肢は!?」

「なによ、教えるとか言っといて断るの?」


 どういうことよと言わんばかりの顔で迫ってくる。

 さすがに行動力がありすぎるだろ。

 あと顔が近い。


「いや俺にも都合とか」

「ヒロインに奉仕するのが主人公よ」

「ヒロインになるのを断っておいてヒロインとはこれいかに」

「ヒロインポイント不足って言ったでしょ」

「つまり稼げばヒロインになってくれる?」

「十分稼げばね」


 その言葉を聞いて、まじまじと平川さんの顔を見てしまう。

 綺麗な顔で可愛さの入り混じった表情をする彼女ははっきり言ってドストライク。

 こんな子が彼女になってくれるってこと?


「ただヒロインになっても彼女になるとは言ってないけど」

「そこまで稼がせておいて!?」

「ツンデレって感じでしょ」

「ツンしか見えないんですが」

「デレを見たいなら別料金ね」

「ぼったくりすぎる!?」


 そんな事を話していたらあっという間に職員室についた。

 先生に荷物を渡して平川さんと別れる。


 さて急いで藤田さんに追いつこう。

 藤田さんは早歩きぐらいの速度で帰っているので走れば追いつくはず。


 校門を出てしばらくした辺りで藤田さんの背中が見えた。

 藤田さんの正面には坂本がいて立ち止まってなにか話している。


 もしかして告白か?

 そう考えて近づくのをやめようと思ったけど何か様子がおかしい。


「どういうことだよ!!」

「何も」

「馬鹿にしてんのか!!」


 何があったのか分からないけど喧嘩してるのか?

 藤田さんは全然意に介していないみたいだけど坂本は顔を真っ赤にしている。

 とりあえず事情を聴いた方が……、あっ!?


「ふざけんな!!」


 坂本が手を振りかぶったのを見てとっさに走り寄って藤田さんをかばう。


「は?」

「え?」

「何してんだよ!?」

「いや……、お前が何してんだよ」


 坂本は手を振り上げたまま止まっているけどその表情は変態を見るような顔だ。

 一体何が……?


「……痛い」


 耳元で藤田さんの声が聞こえる。

 ……。

 よし、現状をちゃんと理解しよう。

 まず俺は藤田さんをかばおうとした。

 つまり後ろから抱き着いた形になる。

 しかも勢いをつけていたから藤田さんが態勢を崩して手をついた。

 結果として藤田さんに覆いかぶさっている。

 ……うん。


「ごめんなさい!!」


 どうみても変態です、ありがとうございました。


「違うんだ、叩かれそうになってたからつい」

「……わかったからどいて」

「ご、ごめん!?」


 慌てて離れる。

 かばったつもりがとんだ誤解を招いてしまった。


「あー、えっと」


 坂本は振り上げた手の行き場に困っているようだ。


「……あなたと付き合う気はない」

「っ!! はっ、そんな変態がいいのかよ」

「好きに考えればいい」

「くそっ、覚えてろよ!!」


 振り上げた手を下ろすことはなく悪態をついて去っていくだけだった。

 とりあえずよかった……のか?


「何があったの?」

「あの人がしつこく絡んできた」

「なんか怒ってたのは……?」

「無視してたら怒り出した」

「え、じゃあ付き合うのどうのって言うのは……」

「俺の女とか言ってくるから否定した」


 状況は理解したけどなぜ坂本がそんなことを言ってるんだ?

 平川さんとの会話を見てもしつこく迫るように見えないけど、何か理由があるのか?


「出会ったときからあんな感じ?」

「委員会で一緒に仕事してから」


 つまりそれまでは平川さんたちと同じ対応だったと。

 ……そうか、もしかしたら既に落とした気でいたのかもしれない。

 落とした女が逆らったように見えたから怒ったのか。


「何の用?」

「あ、別に用事があった訳じゃ……」

「そう」


 しまった、そういう答え方すると一人で帰ってしまう。

 そう思っていたのに藤田さんは動かずじっとこちらを見ていた。

 改めて近くで見ると本当にかわいい。

 坂本が絡んでくるのもよく分かる。

 平川さんは綺麗でかわいいと思うけどそれでも藤田さんには勝てない。

 ただどう見ても男性に興味なさげなんだよな。

 それでも思う、是非付き合ってほしい。


「分かった」

「え?」

「付き合う」

「え? え?」


 藤田さんの突然の言葉に驚く。

 何のこと?

 もしかして坂本と付き合う気に!?


「一緒に帰る?」

「帰る」


 はっ!?

 無意識に即答していた。

 でも坂本と付き合うのにどうして一緒に帰る必要が……?

 それを聞く前に藤田さんが歩き始めたので急いで横に並ぶ。


「どうして俺と一緒に?」

「付き合うんじゃないの?」

「え、それって……」

「さっき言ってた」

「口に出てた!?」


 最近よくモノローグの内容をツッコまれるけどこんな肝心な場面でやらかしていたとは!?


「彼氏は初めて」

「お、俺も初めてだよ」

「一緒」


 ど、どういうことだ?

 これは夢か? 夢じゃないのか?

 思わずほっぺたをつねってみたけど痛い。

 藤田さんの方を見ると、鞄についているストラップを握っている。

 そういえばなんか変わったストラップを……。


「ラブコメの波動を感じるアタッーク!!」

「ぐほっ!?」


 またこのパターンか!?

 振り返ると陽菜が満面の笑みでこちらを見ていた。


「Congratulation!!」

「何がだよ!?」

「お兄ちゃんの初彼女を祝ってるんだよ」

「もう少し穏やかに祝ってくれないか?」

「ワッショイ!!」

「何も聞いてねぇ!?」


 今にも踊りだしそうなぐらいテンションが高い。

 そんなに嬉しかったのか。

 というか会話が聞こえる距離からわざわざ勢いをつけて攻撃してきたのかよ。


「……陽菜ちゃん」

「はい、なんですか、透子さん!!」

「全力で尻尾を振ってるのが見えるレベルだな」

「お兄ちゃんは前しpp 「言わせねえよ!?」


 とっさに陽菜の口を塞いで黙らせる。

 こういう時に限ってなぜ下ネタを言おうとするのかそれが分からない。


「……よろしく」

「はい、お願いされます!!」

「何をだよ!?」

「彼氏なのにこんなことも分からないなんて駄目だよ、お兄ちゃん」

「お前は分かるのかよ」

「完全に理解した」

「そのネタ前にやったろ」

「利用する。何度でも!!」

「超ひらパー兄さんー」

「……楽しそうな兄妹」

「透子さんも仲間入りですよ」

「迷惑じゃない?」

「全然、全然、全然ですよ」

「何がだよ!?」

「お兄ちゃん、もっとウィットにとんだツッコミは出来ないの?」

「無茶ぶりはやめろ!?」

「ふふっ」


 おお、初めて笑ったとこを見た気がする。

 その笑顔は見る人を虜に出来そうだ。


「久美に似てる」

「久美ちゃんとは友達ですからねー」

「ほんとになんで友達になってるんだか」

「お兄ちゃんとは、違うんです」

「客観的に見れているか?」

「友達の数」

「やべぇ、ぐうの音も出ない」

「……口数多い」

「お兄ちゃんは内弁慶ですからねー」

「違うよ!? 嫌われるのが怖いだけだよ!?」

「……嫌ったりしない」

「おおっと、ここで渾身のストレート、お兄ちゃんは死んでしまったー」

「まだ死んでないよ!?」

「おお、お兄ちゃん、しんでしまうとは なんと いなかものじゃ」

「お前はエジンベア王だったのかよ!?」

「……よく分からない」

「ほらみろ、内輪のノリでやると藤田さんが困るだろ!?」

「んん? 藤田さん? お兄ちゃん、なんで苗字呼びなの?」

「え、いや、その……」

「恋人なんだから名前呼びね、はい、ほら呼んで」

「呼んで良い訳ないだろ!?」

「別にいい」

「ほらいいって言ってるよ」

「無理やり言わせてるだけだよ!?」

「その代わり私も名前で呼ぶ」

「は?」


 藤田さんが俺を名前で呼んでくれるって?

 え、ほんとに?


「むー、お兄ちゃんの鼻の下が伸びきってる」

「だって好きな子に名前呼びされるとか最高すぎる」

「……真琴くん」

「ごふっ」

「ほらお兄ちゃん、死んでないで透子さんにも言ってあげないと」

「と、透子さん」

「さんはなしで」

「陽菜はさん付けで呼んでるのになんでだよ!?」

「彼氏は呼び捨てが基本だよ?」

「……透子」

「……うん」


 ちょっと顔を赤くして俯いてるのがかわいすぎる。

 この子が俺の彼女なんて信じられるか? 俺は信じられない。


「【信じる心】」

「わざわざ魔法を使わなくても信じるよ!?」

「どうかなぁ、お兄ちゃんは他人より魔法を信じそうだしなぁ」

「恋人の話は信じて当たり前」

「恋人……うん」


 いちいちリアクションがかわいいんだが。

 これがツンデレヒロインか。


「どこにもツンの要素がないよ、お兄ちゃん」

「俺がツンデレと思えばツンデレなんだよ、ツンデレ妹よ」

「あー、こんなにデレデレの妹に対して酷い」

「……陽菜ちゃんに失礼」

「ご、ごめんなさい、陽菜もごめんな」

「弱い、弱すぎるよ!!」

「謝ったし、もうそろそろテンション落とそうよ!?」


 そんなこんなで騒いでいたらいつの間にか透子の家の前についていた。

 名残惜しいけど仕方ない。


「……じゃあ、また明日」

「また明日ですね、透子さん!!」

「お前じゃねぇぇぇ!?」

「判断が遅い!!」

「俺が遅い!? 俺がslowly!!?」

「……私も話についていけるようになりたい」

「あ、いいですね、いろいろ紹介しますよ」

「お願いする」

「わかりました、任せてください!!」

「俺より妹の方が恋人と仲良くなろうとする件について」

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言うよ」

「馬から射られに来るのは斬新だな」

「ふふっ」


 透子が家に入るのを見届けて家路につく。

 陽菜は髪を揺らしてスキップしている。

 回りながらなので危ないな。


「少しは落ち着け」

「落ち着ける訳ないよ、お兄ちゃんに恋人が出来たんだよ」

「お前の恋人じゃないだろ」

「私のだったら珍しくないもん」

「そこの所、詳しく」

「ほら、お兄ちゃんもおんなじだし」

「俺はお兄ちゃんだからな」

「私も妹だよ?」


 胸を張ってドヤ顔してるけど、どこにドヤ顔する要素があったのか。

 とりあえず片手でほっぺたを優しくつまむ。


「いひゃい」

「陽菜のおかげで名前呼び出来るようになったよ、ありがとう」

「あばばば」


 もう片方の手をあごに当てて全力でタプって感謝の気持ちを伝える。


「お礼を言いながらすることじゃないよ」

「顔がにやけてるぞ」

「気のせいだよ」

「かわいいなぁ、かわいいなぁ」


 俺のことなのに全力で喜んでくれる。

 この子が俺の妹で本当によかった。


 家に帰るとすぐ部屋に戻っていった。

 どうやら友だちと約束があるらしくすぐにでも出かけないといけないらしい。

 そんな状況なのに俺の手伝いをしてくれたんだな。

 お礼に陽菜の好物のどら焼きとたい焼きを買ってくるか。


 そして夕食の時間。


「お母さん聞いて」

「どうしたの? ご飯おいしくなかった?」

「どら焼きとたい焼き食べたからちょっとお腹いっぱい」

「あらあら、何かいいことでもあったの?」

「お兄ちゃんに彼女出来たー」

「陽菜!?」

「あらまあ、どんな人かしら」

「すごく美人で優しい人だったよー」

「陽菜!?」


 この口の軽さだけはどうにかならないだろうか。

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