自分を拘束しようと飛んできた混天綾をよけ、貞永娘娘は得意げに胸を逸らした。
「同じ手は通用しませんわよ!」
「それはどうかな」
哪吒太子は矢継ぎ早に乾坤圏を放つ。
普段は乾坤圏は哪吒太子の腕輪になっているので、彼が持っているものは両の腕にそれぞれ三本ずつ、総数六本だ。
「うわっ、ちょ、まっ!」
すばしこい乾坤圏は大振りな大槌ではその速さに追いつけない。
「今日は大サービスだぞ、そら!」
哪吒太子はさらに残り二本の乾坤圏を放った。
「ひぇっ!」
六本の乾坤圏は貞永娘娘の周りを飛び回る。
「あわわわわっ!」
目まぐるしく飛び交う乾坤圏に、貞永娘娘はなすすべなく翻弄されている。
そして数分後。
「もう、
「俺はそれを倒す方なんだけどな」
混天綾に拘束された貞永娘娘は、哪吒太子に俵のように肩に担がれながら喚いている。
「ふふふ、みんな仲が良くて、良き
そんな家族たちの乱闘を、ボロボロになった蓮花宮をなるべく視界に入れないようにして、吉祥仙女はニコニコと見つめていたのだった。
その晩。
「托塔李天王」
哪吒太子は托塔李天王の居城、
私室で
「
托塔李天王の言葉に普段ならブチ切れている哪吒太子だが、ギロリと睨むだけで怒鳴り散らすことはなかった。
気持ちを切り替えるように息を吐き、哪吒太子はまっすぐ托塔李天王を見た。
「李天王から見て青鸞はどうでしたか?」
哪吒太子は部下として、上司でもある托塔李天王に尋ねる。
哪吒太子の気持ちを察した托塔李天王は書簡を卓に置き、「ふむ」と口髭を撫でながら考え込むように目を閉じた。
「筋は良い。さすが捲簾大将の子と言ったところだ。だがお前も考えている通り、彼は実践経験がないから型通りの動きしかできていないな」
「そうですか……」
「あれでは蓮花宮を出てもすぐ
「……俺もそう思います」
「だから、これからは青鸞殿も今後の討伐にも同行させようと考えている。経験を積めばあれはかなりの戦力になるだろう」
「本当ですか!」
嬉しそうな哪吒太子の様子に托塔李天王は少し驚き、笑みを浮かべた。
しかし哪吒太子はすぐにハッとして居心地悪そうに俯いた。
「しかし、
茶化すように言う托塔李天王に哪吒太子は心底不快そうに顔を
「青鸞は俺のただ一人の大切な友人で、一番信頼できる存在です。あの子のためなら俺は……俺はアンタに頭を何度でも下げるし命令だって何でも従いますよ」
哪吒太子はそう言って托塔李天王に頭を下げてから退室した。
「はは……それはとても重いことだな」
閉めた扉の向こうから聞こえてきた托塔李天王の言葉に、哪吒太子はうつむいた。
「重いだなんてそんなの、俺だってわかってるての、クソ親父が……」
だが青鸞をこのまま蓮花宮に留めておくこともできない。
きっと彼は捲簾大将を助けたい、力になりたいと思っているから。
いつか青鸞童子が独り立ちする時のために、できることはしてやりたいと言う兄心のようなものだと、哪吒太子は考えている。
「たが果たしてお前のそれは本当に兄心なのか、それとも……」
托塔李天王はそう独りごちて、再び酒を