青鸞童子が托塔李天王の三叉矛を踏みつけて数秒。

　押さえつけている方の青鸞童子には、それがなぜかとても長い時間に感じられた。

　托塔李天王は三叉矛を抜こうともせず、青鸞童子が次はどう出てくるか興味深そうに見ている。

「……く……っ」

　三叉矛の上を駆け正面からぶつかるか？

　そうは思うものの、そんな戯曲ぎきょくのようなことが托塔李天王に通用すると思えない。

「青鸞殿……いやはや全く、貴殿は羽のように軽いですなあ！」

「わっ！」

　時間切れだとばかりに、托塔李天王は青鸞童子の乗った三叉矛を振り上げ、青鸞童子を吹き飛ばした。

「もっと食べなくては力がつきませぬぞ！」

　身軽な青鸞童子は宙返りをし、軽々と着地。

　そしてすぐに地を蹴り、托塔李天王との距離を詰める。

　托塔李天王が三叉矛を構える前に、間合いの中へ入る為だ。

「ほほぉ、速さはなかなか……でもこの李爸爸、妻と娘の前で負けるわけにはいきませんからな！」

　しかし托塔李天王は、軽々と青鸞童子が振るう青龍刀の剣撃を防いでいく。

　繰り出す攻撃を先手先手に全て防がれ、青鸞童子は驚いた。

（どうして、僕の動きが全部わかるんだ……？！）

　剣撃越しに托塔李天王と目が合い、不敵な笑みを返される。

「足捌き、体の向きを見れば造作もないこと！」

「な……っ？！」

　托塔李天王に考えを読まれたことに驚いた青鸞童子の隙を托塔李天王は見逃さない。

「せいっ！」

「っぐ！」

　肩に強烈な打撃を受け、青鸞は膝をついた。

「……っく、……」

　息を整えている間に冷たい三叉矛の感触が首から伝わってきた。

　首筋に三叉矛の刃が触れているのだ。

「参り……ました！」

　青鸞童子の言葉に托塔李天王は矛を下げる。

　力の差が歴然だというのは元からわかっていた。

　だが。

（悔しい……）

　青鸞童子は、何もかもが足りないのを自覚させられ唇を噛んだ。

「まずはたくさん食べて力をつけなさい。とにかく体だ。捲簾大将の事が心配なのは分かるが、彼もきっと青鸞殿のことを案じているだろうから」

「……はい」

　実のところ、捲簾大将が堕ちたあの事から青鸞童子は食事も睡眠もまともに取れずにいた。

「今度から青鸞殿も共に討伐に来るといい。実践で学ぶのも良い経験になる」

「はい……！」

　托塔李天王の言葉に、青鸞童子は深く息を吐いてうなずいた。

「青鸞！」

「よそ見はいけないですわよ三哥おにいさま！」

　青鸞童子の敗北に気を取られた哪吒太子に、大槌を振り上げて貞永娘娘が飛びかかる。

「貞永、たった七つのお前にこの俺が遅れをとると思うか？」

　それをひょいと避けた哪吒太子は腰に手を当て、貞永娘娘の額を指で小突いた。

「思いませんわ！でも私も李天王の娘。いつか討伐に同行する時のために力を磨きたいだけですわ」

　それは托塔李天王が許さないだろうと哪吒太子は思ったが、妹のやる気を削そぐのはやめた。

「それに私の勇姿を未来の夫である青鸞様に見ていただきたいのです」

　貞永娘娘は頬に両手を当てて恥ずかしがりながら言う。

「ほー、それじゃあ十分に……学べよ！」

　そう言って、哪吒太子は混天綾を投げた。