兄弟の弟の方は目を輝かせて言葉を続ける。
「おじさん、おもちマンでしょ?おもちマンそっくりだもん!」
「お、おじさん……」
悪意のない子どもの純粋な物言いは、強烈に河伯の心をえぐっていく。
「こら、確かにこの人はおもちマンにそっくりだけど普通の人だ。おもちマンが本当にいるわけないだろ」
「おもちマンじゃ、ないの……?」
「え、と、その……」
兄の言葉に弟は涙目で河伯を見上げた。
「だってこの人、元気もちもち、おもちマン!お腹もほっぺもモッチモチ!って言わないじゃん。ほら、うなぎも取れたし行こうぜ」
「でも、兄ちゃん……こんなにそっくりなのに……」
弟が差し出してきたのは、何かを模した布で作られた人形のようなものだ。
それは白い肌の恰幅のよい、まさにお餅の精のようなものだった。
顔は丸々として、脂肪のせいなのか目鼻は小さい。そして迫力のあるお腹は5段くらいの層にたるんでいる。
(この子たちには俺がこのように見えているのか……?)
河伯はかなりショックだった。
いや、久しぶりの変化の術だったので失敗したのかもしれない。
河伯は心の中で否定をするが、普段の不摂生を思うと、あながち……。
河伯の体中から嫌な汗が噴き出てくる。
「おもちマンは
「えー……」
しょんぼりとしながら兄に手を引かれる弟の様子に河伯は決意をした。
「ま、まつモチ!」
今はそのおもちマンを演じよう、と、裏声を使って甲高い声で兄弟を呼び止めた。
「げ、元気もちもち、おもちマン!お腹もほっぺもモッチモチ!二人とも無事でよかったモチ!危ないからもうここへ子どもだけで来てはダメだモチよ!」
おもちマンを知らない河伯だが、語尾を変えたりポーズを決めながら二人に向けて言う。
「うん!おもちマンありがとう!」
「ありがとう!」
すると兄弟は信じたのか途端に目を輝かせて河伯に手を振って去っていった。
あの兄弟の喜びよう、兄も本当は河伯のことをおもちマンだと思っていたのだろう。
「喜んでもらえてよかった……のか……?」
達成感はあるものの、河伯はなにかたいせつなものをなくしたような、複雑な気持ちになった。
それはそうと、おもちマンのポーズを決め自分の頬とお腹にふれた時、今まで触れたことのないような感触に河伯は震えた。
二人の姿が見えなくなったのを確認した河伯は変化を解き、河原に走り行って水面を覗いた。
緩やかな流れは透き通っていて、鏡のように景色を映している。
「こ、これは……」
そして水面は景色だけではなく、残酷な事実も映していた。
「おもちマンだ……」
そこに映っていたのは、弟が見せてくれたもちもちマンにそっくりな姿をした河伯だった。
ということがあり、これはいかん、と刀剣罰だけではなく普段の生活でも捲簾大将時代の鍛錬を取り入れ、現在に至る。
そして普陀山でその宝剣を操っているのは恵岸行者である。