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第63話 河伯、青鸞童子の成長を喜ぶ

 青鸞童子が変化したその姿を見た玉龍は悲鳴をあげた。


「その子猛禽じゃん!おじさん龍神族の知り合いなんでしょ、何考えてるの?!こいつ龍神族の天敵だよ!!」


「青鸞、深追いは……!」


「大丈夫です、義父さま……いえ、義父上ちちうえ!僕が必ずやあの龍を討ち取ってご覧に入れましょう!」


 元の霊鳥れいちょう青鸞の姿に戻った青鸞童子は、放たれた矢のようにまっすぐに玉龍へと向かって飛んでいく。


 あわてる玉龍にあっという間に追いついた青鸞童子は、その鋭い鉤爪で玉龍の背を掴んだ。


「観念しろ、玉龍!」


 青鸞童子は鋭く鳴き玉龍を威嚇する。


 鉤爪に深く掴まれ、せっかく如意宝珠で回復したはずの鱗の所々から再び出血する。


「しんじらんない、信じらんない!!!もうぅ〜っ!!」


 恨みがましく叫ぶや否や、突然玉龍の姿が消えた。


「えっ、どうして?!」


 青鸞童子はその場で羽ばたきながらあたりを見回している。


 河伯は青鸞童子の鉤爪から逃れた玉龍が蛇に化けたのを見ていた。


「今度はどこへ行った!」


「どうやら蛇に変化したみたいだ。ほら」


 孫悟空に伝え、指差した方では蛇行するように草が揺れている。


「しまった!」


 討伐隊の誰もが悔しそうにさけんだ。


 蛇に化けた玉龍が逃げたその先にあるのは大きな川、流沙河だ。


(ふふん、このまま水に入って海まで逃げてやる!あいつらも猛禽も水の底までは追いかけてこれないだろ!)


 やがて、とぷんと小さな水音がしたと同時に、玉龍の気配は追えなくなったのだった。


「逃げられたな」


「クソ、あの生意気な龍め!引きり出してやる」


 水面に残る波紋を見つめ、哪吒太子は残念そうに言い、孫悟空は悔しげに如意金箍棒を川に突っ込みぐるぐると掻き回した。


「おいやめてくれ、魚たちがかわいそうだ」


 河伯は慌てて孫悟空を止める。


「ああ、そうか、すまん」


 すでに水に入った玉龍は下流に進んだのだろう。


 静かになった川面からはなんの気配も感じられなかった。


「捲簾大将どの」


 そこへ、眷属けんぞくに玉龍捜索の命令を出した托塔李天王が降りてきた。


 人の姿に戻った青鸞童子も一緒だ。


 河伯は居住まいを正して托塔李天王に頭を下げた。


「托塔李天王、ご無沙汰しております。愚息ぐそくがたいへんお世話になって……」


「いやいや、愚息だなどととんでもない。ご子息はとても優秀な武人にござる。捲簾大将殿の教えがよかったためか、武器の扱いも一通りできますし、あの縛妖索を初陣でここまで使いこなせる者はなかなかおりませんよ」


 托塔李天王の言葉に青鸞童子は照れくさそうに頰をかいた。


「うむ、立派であったぞ青鸞。地に落ちながらも、お前の成長を見られたのはこの上ない幸せだ」


「でも玉龍を逃してしまいました……申し訳ありません」


 項垂れる青鸞童子の肩に河伯は手を置いた。


 そして青鸞童子と目線を合わせるために膝をつく。


「悔しいか、青鸞」


「……はい」


 青鸞童子は唇を噛んでうつむいたまま、しぼりだすように返事をした。


「そうか。その悔しさを忘れなければ良いのだ」


「はい、次こそは必ず……!」


 拳を握って決意を語る青鸞童子を、河伯は微笑ましく見ていた。


「お前の凛々しく戦う姿を見られて、義父は幸せ者だ」


 河伯の言葉にようやく気がほぐれたのか、青鸞童子は照れ臭そうに笑っていた。


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