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第62話 青鸞童子、猛禽の本能にて玉龍を追い詰める

 その大群を見た玉龍は、ものすごく嫌そうな、面倒くさそうな顔をした。


「えーなに何、なんなの!こういうの、タゼイニブゼイって言うんだよ!!ずるくない?」


「ずるくない。お前は下界で暴れすぎたんだよ」


 哪吒太子が風火輪で宙に浮いたまま腕組みをして、玉龍を睨みつけて言った。


 その両手にはいつでも放てるように乾坤圏が握られている。


 さらに孫悟空が如意金箍棒を構えて言う。


「お前、お師匠様の馬を食っただろ!落とし前つけてもらわないとな」


「だってお腹が空いてたんだもん!そこに馬がいたら食べるでしょ!」


 玉龍に呆れた河伯は肩にトントンと降妖宝杖を肩叩きのように乗せ腰に手を当て、ブチブチと文句を言う玉龍を見上げた。


「玉龍、人の馬を食ったらだめだろ。それに、お前俺のことも食おうとしたしなあ」


義父ととさまを食べようとした?!」


 青鸞童子はサッと表情を変え、玉龍へ冷たい視線を投げた。


「そうだよ!このムチムチおじさんを丸焼きにしてたべるはずだったのに!」


 玉龍はそう言ってまるで青鸞童子を挑発するように口から火を吐いた。


「青鸞殿、縛妖索ばくようさくを!」


「はい!」


 青鸞童子は托塔李天王の指示にハッとして、持っていたおもり付きの縄を放った。


 その縄は妖を捉えるという縄で、初陣に当たって哪吒太子から借りたものだった。


「ふぐっ!」


 錘はくるくると縄を先導して玉龍の口を縛り、さらに縄はその長さを伸ばして玉龍の体全体を

がんじがらめにした。


「むぐー!んむむん!」


 玉龍は地に落ち、ジタバタと身をよじる。


 だがよじればよじるほど縄がその体に食い込んでいく。


「んんんんっ!」


「貴様、義父さまを悪く言ったな!義父さまを、ムチムチだって!義父さまはムチムチじゃない、ムキムキだ!!」


「せ、青鸞……!」


 義息はこんなに怒りを露わにする性格だったかと、河伯は驚いた。


 青鸞童子は河伯の動揺には気づかず、流れるような動作で素早く弓に矢をつがえ、弦を引き絞る。


 狙うのは玉龍の眼玉。


 猛禽としての本能が青鸞童子を駆り立てているのだろう。


 青鸞童子は一切の慈悲も無く、玉龍に向けてその矢を放った。



 だが青鸞童子が矢を放ったその時、玉龍の姿が消え、縛妖索だけが草原に取り残されていた。


「消えた?!」


「いや上だ、みろ!」


 托塔李天王の眷属の誰かが叫び、全員が上を見ると玉龍がいつの間にか飛んでいる。


 所々の鱗からは血が流れ痛々しい姿ではあるが、まだ悠々と飛んでいるその姿からは余裕が感じられる。


「哪吒、俺様たちも行こうぜ!」


 孫悟空が言うや否や觔斗雲を飛ばす。


「あっ、待てよ悟空!抜けがけするなよ!!」


 哪吒太子も風火輪を駆ってその後を追う。


 そして玉龍に追いつくと、孫悟空は如意金箍棒をふるい、哪吒太子は乾坤圏を放つ。


「痛っ!あーヤダヤダ、地上の生き物ってほんと野蛮!!」


「馬を勝手に食ったお前に言われたくねーよ!」


 如意金箍棒と乾坤圏の攻撃を受けたものの、硬い鱗のおかげで致命傷は喰らわずに済んだ玉龍はさらに上昇する。


「如意宝珠よ、癒せ!」


 玉龍が両手に持っていた宝珠に命じると柔らかな緑の光が出て玉龍の傷を癒した。


「あっこいつ!」


 如意宝珠の力で、今までの攻撃を全て無かったことにされてしまった。


「誰だよあいつから如意宝珠取り上げなかったの!」


「龍にとっては命と同じだから取り上げられないんだよ……」


 激昂する孫悟空に、哪吒太子が宥めるように言う。


「バーカバーカ!いいもん他の美味しそうなご飯さがすから!じゃーね!」


 舌を出して玉龍は離脱しようとその速度を上げる。


「逃さないから!」


 青鸞童子は人化の術を解き、空をうねる白龍の半分くらいの大きさの青い巨鳥になった。


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