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第228話 玄奘一行、准胝観音の一存により崑崙山へ向かうことになる

 准胝観音は鎮元大仙の手をゆっくりと外し、玄奘を見て口を開いた。


「玄奘はかつて妾が仙女として守っていた国、烏斯蔵国に巣食う魔物討伐にも力を貸してくれました。彼の実力は妾が一番知っております」


「いや、玄奘殿に実績と実力があったとしても、敵は分身とはいえ仏敵最強の魔羅マーラだぞ!吾輩ですら相対したことのない魔物だ。人の子に倒せるわけが……!」


「落ち着いてください鎮元大仙。釈迦如来様の二番弟子であった金蟬子こんぜんしとしての魂の持ち主でもある玄奘は、魔羅マーラに対してもきっと強力な切り札になりましょう。それに……」


 言葉を止め、准胝観音は玄奘を振り返った。


「玄奘も一緒に来る気だったと思いますよ。玄奘は誰かが困っているのを知って、放っておくことが出来ない人間ですから」


 なぁ、と准胝観音は玄奘に向けて首を傾げて尋ねる。


「金蟬子の時から、彼は自分の目で見て自分の頭で考え行動したがる子でした。こうして転生しているのも、自分の目で人の世界をみて、自分の肌で感じ学びたがったからです」


「……」


 玄奘は准胝観音にどう返したらいいのか分からず、言葉が出なかった。


 ただ、自分に何かできることがあるならば、共に崑崙山へ行き手伝いをしたいと思っていたのは事実だ。


「おシショーサマはずっと昔からおシショーサマなんだね」


「え、ええ……」


 玉龍の言葉に玄奘は複雑な気持ちになった。


「彼は弟が作った袈裟も身に纏っておりますし、捲簾大将や天蓬元帥もいます」


 困惑している玄奘をよそに、准胝観音は鎮元大仙を説得する言葉を並べていく。


「ボクもいるよ!」


 玉龍が挙手していうと、准胝観音は「そうだな」と微笑んだ。


 だが猪八戒と沙悟浄の表情はすぐれない。


「あのさ、ごめん准胝ちゃん、オレと悟浄ちゃんはさ、西王母から崑崙出禁くらってるんだよね」


 おずおずと猪八戒が頬をかきながら、申し訳なさそうに言った。


 西王母の機嫌を損ねて崑崙から人間の世界に堕とされる時に、それぞれ二人は「二度と姿をあらわすな」と言われていたのだ。


 だが准胝観音は不敵に笑った。


「問題ない。お前たち二人が西王母の前に出なければ良いだけだろう?大丈夫だよ」


 准胝観音の、その屁理屈とも取れる言葉に猪八戒と沙悟浄は顔を見合わせた。


「さあ、こうしているあいだにも崑崙山はどんどん危機に瀕している。とにかく行こう」


 准胝観音は鎮元大仙がまた何か反論する前に、さっさと決定してしまった。



 さて、その崑崙山の清浄の間では魔羅マーラとの戦いが激しさを増していた。


「行け!の可愛い蛇たちよ!」


 魔羅の放出した瘴気は小さな蛇となり、観音菩薩たちに襲いかかる。


「疾!長虹索ちょうこうさくよ、いましめよ!」


遁竜椿とんりゅうとう、行け!」


「疾!呉鉤剣ごこうけんよ、切り裂け!」


 観音菩薩と文殊菩薩が蛇たちを拘束し、普賢菩薩が斬る。


 蛇たちは瘴気となって霧散し消える。


だが。


「まだまだ、この程度で終わると思うてか!」


 魔羅は次から次へと瘴気の蛇を生み出す。


「これ瘴気が消えるまで切らないとダメなやつですかねー」


「キリがないな……」


 流石に、普賢菩薩と文殊菩薩にも疲れが出てきている。


「姉上が来てくだされば……とにかく本体は私が。あなた方は今出ている子蛇を始末したら加勢してください」


 観音菩薩はそう言って魔羅マーラに取り憑かれた元始天尊へと向かって行った。


「命知らずな!破!」


 不敵に笑い、元始天尊にまとわりついた黒い蛇が大きな口を開けて観音菩薩を飲み込もうと向かってくる。


「この程度……!」


 観音菩薩は長虹索ちょうこうさくを放ち、黒大蛇の口を縛りつけようとした。


 しかし。


「甘いわ!」


 黒大蛇は魔羅マーラの瘴気を受け、さらに巨大化した。


(嘘でしょ?!)


 あまりの大きさに観音菩薩は声にならない悲鳴をあげた。


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