観音菩薩も、准胝観音も、孫悟空たちも、皆が自分の姿に恐怖をしていたからだ。
彼らの恐怖心がさらに
(……む?なんだ?)
しかし、恐怖で満ちた中に、恐怖心のない場があった。
(何がある?──いや、居る、か)
それは玄奘だった。
玄奘は目を閉じて、ひたすら呪文を唱えている。
目を閉じているため、
分身だが記憶を共有している
「お前かあああぁぁぁあ!」
「お……ししょう、さま……っ!」
「あ、あぁ……っ!」
金縛り状態で動けない孫悟空と猪八戒が掠れ声で叫ぶ。
沙悟浄は自分の脇を通り過ぎる
「……っ、ばかな……っ!」
動け、動けと沙悟浄は力を込めるが、体と心が
「やめて、こないで!」
玉龍は涙目になりながらも両手を広げて玄奘の前に立った。
釈迦如来にも匹敵する如意宝珠の力で、
「
「ぐっ……っ、いやだ、
玉龍は涙を拭い、龍の姿に戻った。
虹色の光を放つ白銀の龍だ。
大きさだけ見れば
「如意宝珠よ、ボクから怖い気持ちを取って!うぉおおおおおおお!」
龍に化した玉龍の首元に飾られた如意宝珠が輝き、玉龍を覆った。
「おシショーサマはボクが守るんだ!」
聞いたこともない雄叫びをあげ、玉龍は
「邪魔だ」
「アッ!!!」
索はあっという間に玉龍の身を縛り床に落とした。
「んーっ!」
玉龍は身動き取れずにもがくばかりだ。
「んぎんん!」
そして邪魔者を無くした
「お前は何者だ」
「……」
「人よ、なぜ目を閉じている。目を開き余を見よ。恐怖を感じよ!」
「……」
ただひたすらに、准胝観音から目を閉じ呪文を唱えよと言われたことを守っているからだ。
「
准胝観音が必死で叫び、玄奘をとめる。
彼を過去世のあだ名で呼ぶのは、
「ほう、貴様の名はコンチャンと言うのか。コンチャンよ、目を開くがいい。余はお前の望むものを与え、見せてやろう」
そして当の玄奘は、好奇心に抗っていた。
(これが
目を閉じて集中してはいたものの、完全に外の声が聞こえないわけではない。
(なんと、甘美な声。これは抗うのが難しい……)
「コンチャン……」
だが
だが、興味は大いにそそられた。
(見たい)
あの釈迦如来を誘惑した仏敵の
(見たい、見たい……!)
この甘美な声で誘う悪魔がどのような姿をしているのかを。
「目を開け、そして恐怖せよ!人の子よ、恐れ慄け!」
「だめ、です、お師匠さま……っ!」
沙悟浄は声を振り絞った。
(なぜ俺は動けぬ!我が身可愛さに大切なあの人を……今度こそ守るんだ!動け!動け!!)
「うぉおおおおおおっ!」
沙悟浄は絶叫した。
「ああああああっ!!!」
無理やり恐怖を押し込め、降妖宝杖を握って
「無理に動くか。愚かな」
沙悟浄は絶叫して、恐怖を押さえつけ、ただがむしゃらに武器を振るう。
「ぐるああぁあああっ!!!」
とにかく玄奘から
「ははは、遊んで欲しいのか?」
体格差で言えば、
玄奘の弟子の中で一番背丈も体格もいい沙悟浄だが、
猫で言えば獅子と猫ほどの差がある。