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第250話 すれ違う師弟の心

 玄奘たちのところへ孫悟空たちが戻ると、すでに沙悟浄が料理を作っていた。


 と言っても猪八戒のように凝ったものは作れないから、採取したものを鍋で煮込むだけの簡単なものだ。


 敷物を広げ、沙悟浄が作った汁物を配膳する手伝いをしていた玉龍が孫悟空たちに気づいて怒肩いかりがたで駆け寄ってきた。


「もー二人とも、どこに行ってたのさ!あれ、ゴクウ、カゴは?」


「持ち主に返してきた」


「ええーっ!?中身は?中身ごと返しちゃったの??」


 玉龍の問いに孫悟空と猪八戒は顔を見合わせた。


 中身が毒虫と毒蛙と毒キノコだっただなんて言えない。


「この山だと食べ物を取るのは大変だろうから返したんだよ。あんなに沢山はなんだか申し訳ないからな」


 孫悟空から思いがけない言葉が出て、玄奘と沙悟浄は驚いて目を見開いた。


「えー、あの真っ赤なキノコ美味しそうだったのに……」


 残念そうにいう玉龍の気を引くように、猪八戒は明るい声を出した。


「ままあ、オレも頑固だったなと思ったんだ。少しくらい、今日はご馳走にしてみようか」


 頬を膨らませる玉龍に、猪八戒はそういうと荷物から食材を出し始めた。


「やった!ゴチソウ、ゴチソウ!」


 途端に上機嫌になった玉龍はいそいそと食器の支度を始めた。


「おめさんがた、なじらね?」


 と、そこへ既視感のある言葉で一向に声をかけてきた老女がいた。


 猪八戒は思わず孫悟空を振り返る。


 白い肌と、やけに赤い口紅。


 皺の刻まれた肌にたるんだ頬。


 先程の白骨精を老けさせたような姿をした老婆だ。


「お、おい、あの人……」


 明らかに白骨精が化けた老婆だとわかるその姿に、猪八戒は思わず隣に立つ孫悟空を見る。


 孫悟空は半眼になり無言で如意金箍棒を構えている。


「あれー!おばあちゃん、さっき来た女の子も同じ言葉を喋ってたよ!ねぇねえ、なじらねってどういう意味なの?」


 だが孫悟空が如意金箍棒を振り下ろそうとする前に玉龍がぴょんぴょん飛び跳ねて老女の近くへ寄っていってしまった。


 これでは玄奘に気づかれる前に討てない。


「なじらねの意味だって?かんがえたこともねーなあ。なじらねは、なじらねだこて」


「そうなの?なじらねなじらね!」


 玉龍は大して気にしてもいないようで、「なじらね」と老女の真似をしている。


「あ、そうだ!さっき来たお姉さんとおばあちゃんって家族?」


 玉龍の質問に老女は一瞬、狼狽えたように口元を引き攣らせた。


 だがすぐに笑顔を浮かべてそれを隠す。


「そーいんが。きたかね。あれはうちのあねちゃらこて」


「えっ、アネチャ?」


「お姉さんのことだろうか……?」


 沙悟浄が顎に手を当てて考えこむようにしてつぶやいた。


「えっ、お姉さん?!」


 しかしどう考えても姉妹とは思えないから、玉龍はとても驚いた。


 そんな玉龍に老女は笑ってちがうと手を振った。


「違う違う、一番上の娘。長女らこて」


 老女がそう言った途端、孫悟空の如意金箍棒が思い切り叩きつけられた。


「八十近くのばーさんが十八くらいの娘の母親なんてありえねえだろ!」


 もしそれが本当なら還暦過ぎてからの出産になってしまう。


「悟空!」


 玄奘が叫ぶが、如意金箍棒に打たれた老女は白骨になって姿を消していた。


「また逃げられたか……」


「何をするのです!いきなりご老人を叩くなど!」


 玄奘は驚き、孫悟空に詰め寄った。


「お師匠様、これ見てわかるでしょ。あの婆さんは妖怪だったんですよ。人間だとしても叩いた途端すぐ骨になるなんてやっぱりおかしいじゃないですか」


「……悟空……違う、そうでは……そうではありません……!」


「じゃあなんなんですか?俺様はあのまま呑気に話を聞いて、あなたが襲われるのを黙って見てたらよかったんですか?!」


「……っそれは……っ」


「おい、落ち着け悟空」


「お師匠さま、落ち着いてください」


 言い合いになる二人をそれぞれ猪八戒と沙悟浄が引き離す。


「お腹空いてるから喧嘩になるんだよ〜!ほら食べよ!ね?」


 玉龍が勧めると、二人は離れた場所に座った。


「ゴジョーのお料理も美味しいのに、なんか味がしない……」


 なんとも雰囲気の悪い食卓に、玉龍がポツンと呟いた。


 沙悟浄は苦笑して、大丈夫だよと安心させるように玉龍の頭を撫でた。

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