人の姿の変化を解いた白骨精は山の中をかけていた。
興奮して彼女の目はギラギラと輝いている。
「あじかけないこって!まさかあの方が玄奘というお坊様だなんて!!」
牛魔王の手紙を思い出して白骨精はさらに興奮した。
牛魔王の何番目かの妻になる気は全くないが、玄奘が妖怪たちにとってとても価値のある存在だということは一目で分かった。
牛魔王からの知らせに興味はなかった白骨精だったが、玄奘のあの匂いに食欲か刺激され興奮が抑えられずにいた。
口の端からはだらだらと
食事を必要としない自分がこんなになるなんて、牛魔王が狙うのも頷けるというものだと、白骨精はうっとりとため息をついた。
「ああ、あのお坊様を喰らえば、もしかしたらおれの記憶も……」
そう呟いた時、何かの気配を感じて白骨精は大きく右に飛び退った。
その瞬間、先程までいた場所は破壊されていた。
「なぁに、そんげがっとにしなさんなて!!」
白骨精は身構えて瓦礫の上に立つ孫悟空を見上げた。
「うるせえ!この
孫悟空は間髪入れず如意金箍棒を振り下ろした。
固い音が響き、その音に驚いた鳥たちが一斉に飛び立った。
「悟空!おまえ、何してるんだよ!」
振り向くと、孫悟空に追いついた猪八戒が呆然として立っていた。
「何って、妖怪退治だよ」
「妖怪って……あの女の子はこの山の子だろ?」
「これを見てもそう言えるか?」
孫悟空は顎で如意金箍棒の先を示して猪八戒にたずねた。
その先には白い骨と赤い服が残されていた。
「お前、まさかやっちまったのか?」
「やってねえよ。逃げられた」
孫悟空はそう言って地面に突き刺さった如意金箍棒を引き抜いた。
「あの女は
猪八戒はしゃがむと、赤い服と骨をじっとみて、それから孫悟空を疑わしそうに見上げた。
「本当にやってねえって。妖怪でもこんな一瞬で骨になんかならねえよ。お前もわかるだろ?」
納得いかないような表情の猪八戒だったが、孫悟空の言葉に「わかったよ」と一言言って立ち上がった。
「ほんとだって!みろよこのカゴの中!」
孫悟空がカゴの中を猪八戒にみせた。
「うぇっ、嘘だろ……?!」
カゴの中を見た瞬間、猪八戒は口元を抑え、顔を青くした。
その中にあったのはキノコだけではなく、毒を持つと言われているガマガエルや、ウジが蠢いていた。
「このキノコも毒があるって、八戒ならわかるだろ」
孫悟空の言葉に猪八戒は無言でこくこくと頷いた。
誤解が解けたとホッとした孫悟空は、毒を持つものが詰まったカゴを土に埋めた。
「疑って悪かったな。じゃあもどろうか。いい加減に飯にしないと玉龍ちゃんがうるさい」
「へいへい」
「もっと早く教えてくれたらよかったのに。お師匠さんが心配なら、お前も勝手な行動はするなよ」
「わかってるよ。でも今回はそんな暇なかったから……」
ガサガサと茂みをかきわけ、孫悟空と猪八戒は玄奘たちの元へと戻っていった。
その様子を、白骨精は草の影に身を潜めて伺っていた。
猪八戒が来た瞬間、孫悟空の気が逸れたので術を使ってにげたのだ。
白骨精が使ったのは
自分の体から魂だけ抜け出させ、身を守る術だ。
白骨精が孫悟空にバラバラにされた骨の山にもどると、あっという間に美しい少女の姿に戻った。
「あっきゃー、こみともねぇ猿らこて。ごしぇやけっども、出直すこって。まず」
悔しそうにいうと、次はどうしようかと呟きながら山の奥へと消えていった。