魃姫が人里に降りてくると、やはり彼女の熱で旱魃が引き起こされてしまう。
そこで人間たちは寂しさから人里へ降りてきた魃姫に生贄をさしだし、住処である係昆山へ帰るよう祈ったのだ。
生贄は命を奪ってから捧げられる。
そうして捧げられた戻るところのない生贄を、魃姫は不憫に思い
ちなみに今、彼女がこの場にいても暑さを感じないのは、太上老君が彼女の熱気を抑える宝貝を作ったからだ。
魃姫の首元を飾る白い宝珠がその宝貝だ。
魃姫は深刻な表情で言葉を続ける。
「それで、おらはいつも通り生贄を受け取ったんだども、その途中で用事を思い出しましてね、緊急だったもんで、それ済ませるために係昆山に戻ってからまた来ようと思ったんだけどもね……」
「その山がどこだったのかを忘れた、と」
「やいや、しょーしらこってな……」
苦笑する須菩提祖師に、魃姫は情けない表情でこくりと頷いた。
「しかし、忘れたと言っても少しは心当たりとかはないのかな?人々が君のために生贄を捧げてきた山だろう?」
「て言ってもなあ……そんな山はたくさんあるすけな……」
魃姫はうーん、と唸りながら記憶を辿る。
「
「あ?そら、おれのいた山でねっか」
聞こえてきた地名に思わず白骨精が声を上げた。
魃姫は顔を輝かせて手を叩いた。
「おめさん、白虎嶺にいたの。へえ、偶然だこてね。そってはその山に
魃姫は急用で戻ることになったが、所有の証に捧げられた生贄に名前をつけたらしい。
(どんな由来の名付けだよ……)
孫悟空は独特の名の由来に白骨精が不憫になった。
しかし白骨精は気にしなかったようで、興奮して手を叩いた。
「あっきゃー!偶然かね、おれの名前も白骨精っていうんだわ」
「あっきゃー、そっては珍しい!偶然だこってね」
「そってはアネサの探してる方の白骨精さんも探さねばねえこってね!なあ聞いたかね悟空ちゃん、やいや、大変らこてな」
白骨精は魃姫と手を握り合いながら孫悟空を振り返って言う。
「いやいやいやいや、ちょっと待てよ!なあ、じいちゃん!魃姫の探してる生贄ってこいつだろ!」
「そうみたいだね」
「ええ?おれのことだか?」
「そう!あそこの山に僵屍はお前しかいなかったし、名前も同じ!お前が魃姫の僵屍なの!」
「あっきゃー……えぇ、おれが……?」
「なした?」
それまで一緒にはしゃいでいた白骨精の元気がなくなったので、魃姫は心配そうに魃姫の顔を覗き込んだ。
「アネサ、アネサの探してたった僵屍はどうやらおれのことみてえだって」
「あっきゃー!そーいんがか!おめさんがあの白骨精かね!嬉しいわぁ、そーせばさ、これから一緒に行くこて」
「行くって、どこに?」
「仙人たちは崑崙を離れて別の世界に移るんだと。ととさには、やでもか行かねばっていいって言われたども、そこではおらもこの宝貝がねばっていいところだすけ、行きてえと思ってな」
「う、うん……」
「あいや白骨精、なした?元気ねぇね」
「アネサ、おれ……」
白骨精は孫悟空を振り返った。
自分の口からは言いづらいのだろう。
「そいつ、自分を作った術者に僵屍から解放してもらいたがってたんだよ」
「あっきゃー……おれが忘れてたから寂しい思いさせたんだね……すまねことしたな、ごめんねぇ、わーりかったなぁ」
白骨精の代わりに孫悟空が伝えると、魃姫は白骨精を抱きしめて謝罪した。
「おめを解放するのは、おらはしてもいいけど、本当にいいのか?あっちにはおめの他にも僵屍になった子たちがいっぺこといるっけ、寂しくねぇと思うんだけど」
「おれ……」
身をかがめて顔を覗き込んで言う魃姫に、白骨精は俯いた。