白骨精は迷っていた。
不死の体で生きることを終わらせたかったが、自分の作り主である魃姫と出会った事でこの方のそばにいたいと、ほんの少しだけ思ってしまったのだ。
一時間にも満たない、ほんの数分、ほんの少しの言葉を交わしただけなのに、同じ言葉で会話できるということは白骨精にとってとても楽しく心地よいものだった。
「おれ……」
「そんなにすぐ決めなくてもいいんじゃないのかな」
迷う白骨精に須菩提祖師が声をかけた。
「おチビから聞いたところ、君はかなり優秀な術者でもあるというじゃないか。もしよければ、彼女の力になって欲しい」
「え……でも……」
「おら、戦いで力を使いすぎたせいでおめさんを忘れるくらい物忘れが激しくなってしまってな。白骨精さえ良ければおらのこと助けてくれるとありがたいんだけどなあ」
迷う白骨精の手をとって魃姫が言う。
「でも、おれ以外にも僵屍はいるんらろ?おれがいかなくても……」
「そうらな。でも……おら、おめさんのこと、もっと知りたいんだて。話していてとても楽しかったすけな」
(おれも……同じだ。楽しかった。おれは……)
白骨精はおずおずと孫悟空と須菩提祖師を振り返った。
僵屍から解放してもらうために連れてきてもらったのに、今更変えて良いのだろうか、と。
「お前の好きにしたら良いじゃん」
孫悟空の言葉に須菩提祖師も頷く。
「悟空ちゃん……先生……」
そして白骨精は魃姫を見た。
「おれも……あんたと一緒に行きてえ」
白骨精がそういうと、魃姫は嬉しそうに頷いた。
「ありがとね、白骨精。せばさ、ゆっくりしてる時間はねぇすけ行こか」
魃姫は手を引いて清浄の間の滝に向かった。
「どご行くの?他の僵屍たちは?」
「もうみんなあっちに送ってんだ。あとはおらたちが行くだけだっけ、行こで。すぼでぇ様、斉天大聖、どうもありがとね。ごめんください」
「あっ、待ってアネサ」
白骨精は魃姫を止め、孫悟空の前に来ると頭を下げた。
「悟空ちゃん、あのね、おれのせいでお師匠さんとあんなことになって本当に……ごめんなさい」
「別に気にしてねえし、大丈夫だって」
「こんなことになって……でも悟空ちゃんにはあの
「あ?」
孫悟空が不機嫌に聞き返したが、白骨精は怯まず言葉を続ける。
「おれがあの
「牛魔王……手紙?」
その名前を聞いて孫悟空の眉が片方上がった。
「そーいんだわ。この大陸中の妖怪たちに向けて、牛魔王が玄奘というお坊さまを捕まえてこいって、号令を出す手紙だ」
「なんで、そんな……あいつが本当に?」
牛魔王は、かつて孫悟空が斉天大聖として大暴れしていた時、義兄弟の契りを交わした妖怪だ。
弟分だからと、二つ名を孫悟空の斉天大聖と似通った
「なんでもあのお坊さまは特別で、食らうと大きな力を得られるとかで……」
「はぁー……」
孫悟空の口からため息が漏れた。
孫悟空が五百年封じられている間にどう過ごしていたかはわからないが、白骨精の話を聞く限り相変わらずのようだ。
「あの牛魔王が……」
孫悟空は眉間に皺を寄せた。