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第273話 玉龍、奮闘する

 巨大な龍同士の戦いは激しさを増し、子どもたちを連れ庵に隠れた百花は子どもたちを抱きしめた。


「おかあさま、お父さまは悪いことをしているの?」


「月華……」


 姉の月華はもう物事の善悪がわかる年だ。


「お坊様を虎に変えて、そのお供の人たちとたたかっているのでしょう?」


「え、ええ……」


 百花はどう答えれば良いか分からず、口ごもった。


「お父さまはね、家族のために戦っているの。私たちが、離れ離れにならないように」


「おとさまがまけたら、みんなバラバラ?」


 星星が目を潤ませて尋ねる。


「そんなことにはならないわ、大丈夫……」


 百花はそう言って二人の背中をトントンと優しく叩く。


「離れ離れになんか……なるものですか……」


 そう呟いた百花は切なくなり、二人を抱きしめる腕に力を込めた。




嵐風招来らんぷうしょうらい!」


 玉龍は竜巻を呼び、奎木狼に向けて放った。


「ここが自然界でないことをわすれたのですか?」


 奎木狼が勝ち誇ったように言う。


「ここは僕の作り出した世界。つまり、全て僕の意のまま!」


 玉龍のはなった竜巻を避け、高らかに笑う。


「そんなこと言ったって、ホンモノの龍のボクには如意宝珠があるもんね!雷槍招来らいそうしょうらい!」


 玉龍は如意宝珠を掲げて雷を呼ぶ。


 バリバリと空間が裂けるような音がして、光の槍が降り注ぐ。


 だが奎木狼は余裕の姿勢。


 地上にいる沙悟浄が叫ぶ。


「玉龍、気をつけろ!やりすぎるとこの空間が壊れて出られなくなる」


「大丈夫!ボクには如意宝珠があるんだから!壊れたって直せるもんね!」


 そこへ、奎木狼の尻尾の一撃が玉龍の頭に当たった。


「わあああっ!」


 玉龍は勢いよく川に叩き落とされてしまった。


 巨大な水柱が上がり、水滴があたりにまるで雨のように降り注ぐ。


「大丈夫か、玉龍!」


 追い打ちをかけようと近づいてきた奎木狼を、沙悟浄が降妖宝杖を振るって防ぐ。


「もうヤダ!ボクは戦いなんて向いてないのに!!ハッカイオジさん、早く帰ってきてよ〜!!!」


「すまん、待たせたな!」


 玉龍が絶叫したちょうどその時、猪八戒たちが戻ってきた。


 孫悟空のところにつなげた道を通ってきたのだ。


「でりゃぁああっ!」


 觔斗雲から飛び降りた孫悟空は、そのまま奎木狼に向けて飛びかかった。


 思い切り如意金箍棒を振るい、その脳天に重い一撃をぶつける。


「ひぇっ!」


 玉龍は自分がかつてはその一撃を喰らったことを思い出し、人型に戻ってちぢこまり、頭を抑えた。


「グォオオオオッ!」


 奎木狼は雄叫びを上げて墜落し、人型に戻る。


 打撃を受けた額を抑えてよろよろと立ち上がった奎木狼は、帽子が取れて狼の耳があらわになっている。


「まさか貴様とまみえることになるとは、孫悟空……っ」


 痛みのためか、絶え絶えにつぶやく奎木狼に、孫悟空は如意金箍棒の先端を向けた。


「俺様は玄奘三蔵が一番弟子、斉天大聖孫悟空!五百年の封印から解かれた時、忠誠を誓ったお師匠様の危機に駆けつけずにはいられるかってんだよ!」


 孫悟空の啖呵に奎木狼は髪をかきあげて身構える。


 ジリジリとお互いにタイミングを伺う。


「八戒、ご苦労さま」


 ボロボロになった玉龍、沙悟浄もほっとして猪八戒を迎えた。


「雲飛ばしてもうヘトヘト……なんて言ってらんねえけど、悪いがちっとばっかし休ませてくれ……」


「休め休め!ここは俺様に任せておけ!」


 ヘトヘトの猪八戒に、奎木狼から視線を外さず孫悟空が言う。


 そして孫悟空はチラリと虎になった師の姿を確認すると、奎木狼へ怒りに燃える目を向け高らかに宣言した。


「俺はお前をぶっ倒す!そしてお師匠様を助ける!!うぉおおおおおっ!」


 孫悟空が奎木狼に飛び掛かろうとした時だった。


「ダメよ星星、戻ってきなさい!」


 女性の悲鳴が響いた。

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