「ジグムント様……まさか、サミュエル様に、わたくしとの床入りをお見せに……?」
フィオレンティーナはジグムントの考えていることがにわかには理解できなかった。まさかそんな、本気で? この方は、どこまで残酷なお人なの? 王太子の身分も、結婚直前だった婚約者も奪った上に、あまつさえ床入りの場に同席させるなど……。いかにこの異国の宮廷で自分を押し殺して生きて来たフィオレンティーナとは言え、それだけはどうしても受け入れることはできなかった。
「嫌、嫌、嫌です。
だがジグムントはフィオレンティーナの必死の懇願には一切耳を貸そうとせず、ニヤリと笑うと身につけていたブリーチズのボタンを外して脱ぎ捨て、下履きも取り去った。その中心にそそり立つものを目にすると、フィオレンティーナの顔は更に青くなり、全身がガタガタと震えるのを止めることができなかった。
(こんな、こんな恐ろしいものを受け入れるなんて無理……)
「いや、いやっ、やめて、助けて、お願い誰か助けて!」
「フィオレンティーナ!」
助けを求める悲痛な叫びに、思わずサミュエルがその名を呼んだが、彼にはどうすることもできなかった。ジグムントは寝台の柱にまるで犬のように繋がれた甥に一瞥をくれると、ゆっくりとフィオレンティーナのほうへ向き直り、逃げようともがくその両手を掴んで大の字に組み敷いた。そして低い声でゆっくりと問いかけた。
「俺が恐ろしいか?」
「……」
「なぜ黙っている。答えろ、俺が恐ろしいか? 俺に
「……いいえ」
「何?」
フィオレンティーナはまっすぐにジグムントを見上げると、震える声で答えた。
「恐ろしくはありません。わたくしはあなたを恐れません。そして、尊敬もいたしません。このようなこと、神がお許しになるはずがありません」
ほんのわずか、ジグムントが気圧されたような表情になった。だが彼はすぐにまた口元に冷たい笑いを浮かべると、フィオレンティーナを見下ろして言った。
「神……か。面白い。
そしてフィオレンティーナの細い腰を両手で掴むと、一気に奥まで貫いた。
一瞬の静寂の後、フィオレンティーナの絶叫が閉じられた部屋に響き渡った。
「いやあああ! やめて、痛い! 痛い! お願いやめて、いやあああ!」
体の中心を引き裂かれるような痛みが走って、フィオレンティーナの目尻から涙が流れた。その涙は絶望と屈辱の現れでもあった。
膝立ちになっていたジグムントが上体を倒してフィオレンティーナに覆いかぶさると、鍛え抜かれた逞しい腰をゆっくりと動かし始めた。そのたびにフィオレンティーナの華奢な白い身体が揺れた。
……やがてフィオレンティーナの悲鳴に、少しづつ違う響きが混ざり始めた。
「ひ……っ……あふ……ぅ……あっ……はぁ、あぁ……あ……いや……ぁあ……」
フィオレンティーナ自身も、自分の感覚の変化に驚き戸惑っていた。さっきまであんなに痛いとしか感じられなかったのに、今は明らかに身体の最も深いところが熱く甘く痺れてきている。ジグムントに純潔を散らされる前、指で愛撫されて感じた歓びとは違う、まるで内臓をわしづかみにされるような疼き……。いけない、感じてはいけない。この粗野で横暴で暴力的な王の手によって隠された淫らな扉を開けられるなんてこと、あってはならない……ああ、でも、そうやって自分に
フィオレンティーナの表情が変わり、悲鳴に喘ぎ声が混ざってきたことを敏感にジグムントは感じ取って、いっそう激しく腰を動かした。気がつくと彼女は自分の両足をしっかりとジグムントの腰に絡めていた。それに呼応するかのようにジグムントの背中が痙攣し、眉を寄せて苦しそうな表情になったかと思うとビクンと跳ねて果てた。
(終わった……の……?)
フィオレンティーナは起き上がろうとしたが、ほとんど腰が抜けてしまっているのと、ジグムントの汗ばんだ大きな身体が覆いかぶさっているので、どうすることもできない。仕方なくそのまま呼吸を整えていると、ジグムントが気だるそうに右手だけ動かして、フィオレンティーナの腰の下に敷かれていたクッションほどの大きさの白い絹の布を引っ張り出した。そこには点々と、赤い鮮血が落ちていた。それは当時の王族の結婚の際に、必ず教会に提出しなければならないもの……紛れもなく花嫁が純潔であったことの証だった。フィオレンティーナは急に恥ずかしさがこみ上げてきて横を向いた。
「……これで婚姻は成立した、総司教、異議はないな?」
「ございません、国王陛下」
腹ばいになったままのジグムントから布を受け取ると、総司教と宮廷府長官は静かに立ち上がって、部屋を出て行った。ようやくこの恥辱から解放される……フィオレンティーナは一瞬ほっとしたが、そうではなかった。部屋にはもう一人の観客……サミュエル廃太子が残されていた。お願い、ジグムント様、早くサミュエル様をここから出て行かせて……もう十分でしょう、わたくしは名実共にあなたの妻になったのだから……。
だがフィオレンティーナの儚い望みは打ち砕かれた。ジグムントはまだフィオレンティーナの
「ジ、ジグムント……さま……っ、もう、もう許してくださいまし……」
「悪いがそれは聞いてやることはできん。サミュエル、趣向を変えてもう一幕見せてやろう。それもこれも全て、お前と兄上が招いたことだ。お前達の罪を今ここでこのフィオレンティーナが一身に引き受けている、その
その声は憎き政敵を弾劾する激しさに満ちていながら、どこか自分自身を鞭打つために投げかけているような、深い悲しみを帯びていた。言い終わるとジグムントはサミュエルには一瞥もくれず、再びゆっくりと腰を動かし始めた。
ジグムントの動きに合わせてフィオレンティーナの顔にはっきりと愉悦の表情が生まれ、高く持ち上げられた腰がなまめかしくうねった。つい昨日まであんなにも気高く清らかだったフィオレンティーナが、他の男を受け入れて歓びに酔いしれている……王子としての誇りも、男としての矜持も完膚なきまでに破壊されたサミュエルの慟哭が室内に響き渡った。
「フィオレンティーナ! フィオレンティーナ! ああなんということだ、僕のフィオレンティーナ……」
「サミュ……エル……さま……」
その悲痛な叫びに一瞬我に返って、ついフィオレンティーナは昨日まで婚約者だった青年のほうに視線を向けて手を伸ばそうとした。だがその手はジグムントの大きな手に捕らえられて虚しく宙を掻いた。そのままジグムントはうつ伏せになったフィオレンティーナの背中に身体を預け、耳元に顔を寄せて言った。
「お前の夫は誰だ? フィオレンティーナ」
「あ……は……っ……ううっ……」
「答えろ、フィオレンティーナ。お前の夫は誰だ?」
「ジ……ジグムント……様……です……ああっ!」
「そうだ、お前の夫は俺だ。サミュエルではない。二度とその名を口にするな」
フィオレンティーナが荒い息を弾ませながらようよう答えると、ジグムントは満足そうに頷き、部屋の隅にうずくまるサミュエルに視線を向けて声をかけた。
「ちゃんと見ておるか、サミュエル? この通り、フィオレンティーナの純潔は俺がもらった。……どうだ、悔しいか? ほらどうした、目を
「あああ! いやあ! やめて、もうやめて。いや、見ないで、見ないで……!」
少しでも視線から逃れようと横向きにシーツに押し付けて隠していた顔にジグムントの手が後ろから伸びてきて、無理やり前を向かされた。すぐ目の前にサミュエルの苦痛に歪んだ顔があることに気づくと、ついにフィオレンティーナは耐え切れず声を上げて号泣した。だがそれと同時に我を忘れるほどの快感の波が襲ってきて、フィオレンティーナは獣のような声で叫ぶと、ほとんど意識を失った。
「あああ、ああっ! あー、あーっ、あああーーーーー!」
ジグムントは後ろから腰を突き上げながら、フィオレンティーナの耳元に顔を寄せ、満足そうに低い声で囁いた。そして再び果てた。だがその屹立は変わらず硬さを保ったまま、フィオレンティーナの体内で再びむくむくと力を取り戻して行った。ジグムントは額に流れる汗を拭おうともせず、ぐったりと動かないフィオレンティーナの顔を自分のほうに向けさせて、激しく唇を重ねた。
「これはほんの始まりだ。もっと堕ちるがいい。お前はこれから一生を賭けて償うのだ。お前の祖国が犯した罪をな」
だがその言葉は今のフィオレンティーナには切れ切れにしか届かず、ましてやその意味を理解することなど、到底できはしなかった。