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隣の王国の姫のご訪問

 マリーの誘拐騒動は、父母もかなり心配させた。



「お父様、ですから、私、フェルディア様を支える次期皇后になりたいのです」


「皇后という身分は、今まで以上に危険に遭う可能性もあるんだ……お父様は心配だ」


「それは元々わかっていたことではありませんか、お父様! それでも、私は、フェルディア様をお慕いしているので、フェルディア様と結婚したいのです!」


「うーん……」


「あなた、マリーはここまで覚悟できているのだから……」


「わかった。来週、王国のユリーシャ様がいらっしゃる。ユリーシャ様との婚約は、絶対にあり得ないと第二皇子が明らかにしたら、私から両陛下にマリーの気持ちをお伝えしよう」


「……わかりましたわ」


「まぁ、ユリーシャと第二皇子の婚約はありえないと思うわ」


 ぼそりとお母様がつぶやかれました。




 お父様のおっしゃるように、もしもフェルディア様がユリーシャ様へのお気持ちを取り戻してしまったら、私も心が折れてしまいます。また、帝国としても公爵令嬢を二度婚約破棄するという汚名はもうそそげません。ユリーシャ様との婚約を完全否定してからにするというお父様のお言葉も理解いたしました。


 ユリーシャ様は隣の王国のお姫様で、国を継がないフェルディア様の元婚約者候補でいらっしゃいました。ユリーシャ様をお支えするという形で、フェルディア様が隣国に婿入りする予定でしたが、私と第一皇子の件があって、流れてしまったのです。


 フェルディア様は“ずっとマリー一筋だった”とおっしゃいますが、一時期ユリーシャ様と恋仲という噂も流れていました。その頃のお気持ちが戻ってしまったら……。



 王国は、元王族の母の故郷です。母が父と恋に落ちるきっかけの地なので、何度も行ったことがあります。王国の穏やかな造形のお顔立ちは、帝国男子の心をよく撃ち落とすため、王国女性を妻にと望む帝国男子は多いと聞きます。


 私は、王国の特徴である青みがかった銀色の緩やかなウェーブがかった髪や青緑色の瞳はございますが、穏やかな造形の顔立ちではなく、父に似た目力の強い顔です。

 心優しく見える穏やかな造形に憧れます。ないものねだりではありますが……。






ーーーー

 ついに、ユリーシャ様のいらっしゃる日になりました。5日間王城に滞在されて、ご帰国される予定です。


「お久しぶりでございます。皇帝陛下に皇后陛下」

 さすが王族という堂々としたご様子でユリーシャ様がいらっしゃいました。


「お久しぶりでございます。おばさま」

 ユリーシャ様がそう言って、お母様に声をかけられます。

 血族ということで、この場には両陛下やフェルディア様だけでなく、ウィナーベル公爵家も招待されています。



「久しぶりだけど、元気そうね? 国王陛下たちはお元気?」

 お母様とユリーシャ様がお話しされます。ユリーシャ様のお父上であられる国王陛下は、お母様のいとこにあたられます。






「マリー? なんか表情がすぐれないけど、大丈夫?」

 フェルディア様に声をかけられ、私は表情を取り繕えてないかしら、と不安になりました。


「あぁ、僕以外わかってないと思うから安心して? マリーはいつも美しい微笑みを浮かべているけど、なんとなくわかるんだよね」

 フェルディア様は心を読むことができるのかしら、そのような力がある人もいる物語を読んだことがございます。


「心なんて読んでないけど、マリー……何か心配事でもある? もしかしてだけど、ありえないけど、ユリーシャと僕のこと気にしてくれたりしている?」


 可愛く小首を傾げながらおっしゃった、フェルディア様のそのお言葉に、私の顔は朱に染まります。この表情は、“完璧令嬢”と言われる私でも、周囲にバレていると自覚できるほどでしょう。恥ずかしさのあまり涙目になってしまいます。


「マリー……僕のこと、気にしてくれているんだね? 嬉しいよ」


 フェルディア様がそう言って私の手を握って口付けを落とされているので、ますます顔を赤くしてしまいました。



「そこ! 私の挨拶中にいちゃつかない! もう挨拶済んでるけど、フェルはもっと自重なさい!」

 ユリーシャ様が、フェルディア様の後頭部を思いっきり叩かれます。私は驚いて目を丸くしてしまいました。


「いったいな……本当に並みの男より強いよ、ユリーシャは」


 ユリーシャ様の回し蹴りがフェルディア様に飛びました。


「フェルディア様!?」


 駆け寄って心配すると、大丈夫とおっしゃいます。

 その蹴りにも、お2人の間に絆のようなものを感じた気がして、胸がちくりといたしました。





ーーーー

 ユリーシャ様をお部屋に案内する役割は、次期皇后候補の私が任されることとなりました。まだ、候補ですのに、決定事項のような扱いになってきた気がいたします。


「マリー様は、フェルと結婚するつもりなの?」


「え、えぇ、一応公爵家としても、そう考えております」


「ふーん、マリー様はそれでいいの?」


 王国の姫として今までお見かけしていたユリーシャ様との様子に違いすぎて、絶句してしまいました。


「えぇ……」


「そうなんだ」


 ぶっきらぼうにおっしゃり、案内した部屋に入って行かれました。


「あ! ねぇ、フェルに今夜飲むから部屋来てって言っといて!」


「はい、わかりました」


 お二人の関係は……しっかりと築かれていらっしゃるんですね……私が婚約者として名乗り出るのは、不都合かもしれないと不安になりながら、執務室に向かいました。

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