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氷上のプロポーズ

「マリー、君は僕との結婚を前向きに捉えてくれているの?」


「はい。公爵家全員、そう考えておりますわ」


「じゃあ、話してもいいね。僕とユリーシャの秘密」



 飲み会から三日間の自宅謹慎を命じられ、今日はユリーシャ様がご帰国される日となりました。


 “マリーの結婚に対する意向を聞けるなら聞きたい”とフェルディア様がおっしゃられ、私はそう申し上げます。




「実は、ユリーシャは……」


「なにー!? 私のこと!?」


 フェルディア様の肩に飛びつき、肩を組まれます。男同士なら問題ないのでしょうが、男女でやるには憚られます。一応、王国でも帝国と同じ考え方のはずなのですが、この二人の関係性では、問題ないと考えられる関係性なのでしょうか?


 フェルディア様の側室としてユリーシャ様が来られることは内定していて、ユリーシャ様は、真に愛された側室……。私はお飾りの王妃なのでしょうか。また、他のお方を愛される婚約者を見なければいけないのでしょうか……。いいえ、それはさすがに皇后陛下がお怒りになるからありえないでしょう。そもそも、私という候補がいながら、フェルディア様とユリーシャ様の関係を咎められない皇后陛下に違和感を感じました。


 首を傾げながら、ユリーシャ様をまじまじと見つめます。穏やかな造形の顔立ちにお転婆王女らしい鍛え抜かれた肉体。スラリとした手足に、この面立ちだしたら、、きっと整った顔立ちなのでしょう。

 想像の中でユリーシャ様を男装させると、とてもお似合いになります。私の面立ちでは難しいですが、ユリーシャ様の美しい面立ちなら可能でしょう。


「私、男なんだ!」


「へぁ!?」

 淑女らしからぬ奇声をあげてしまいました。


「ここにいる人の中で知らなかったのは、マリーと公爵くらいじゃないの?」


「え? どういうことですの?」


「うーん……趣味? 幼少期から女らしいって言われるものが好きで、好んで着てたら王子って公表されてたはずが王女の間違いだったって国民にも認識されて? まぁ、この可愛らしさなら仕方ないよね?」

 くるりとターンを決められたユリーシャ様はどこから見ても女性にしか見えません。


「あ! だから、フェルとの婚約は、帝国と王国のメリットが合致しただけの話で、私たちの感情はないってわけ! ちなみに、私の恋愛対象は女性だよ?」


 そうおっしゃって、私の手を取り口づけを落とされました。あたふたとしていると、フェルディア様が、思いっきり、ユリーシャ様を突き飛ばしました。


「触るな」



 このようにして、ユリーシャ様は無事ご帰国なさいました。



「え、王女が王子? え?」

 ユリーシャ様のお言葉に混乱されるお父様にお母様がおっしゃいます。


「だから、“ユリーシャと第二皇子の婚約はありえないと思う”と申し上げたでしょう? ということで、ウィナーベル公爵家としても、ぜひマリーと第二皇子の結婚を進めていただきたいですわ」


 お母様のお言葉に、フェルディア様は飛び跳ねて喜んでいらっしゃいました。





ーーーー

「マリー、良ければ一緒にデートに行かないかい?」


「デートですか?」


「マリーに見せたいものがあるんだよ」


 私たちがひとまず婚約者になると公表されるまで数日となったある日、フェルディア様がそうおっしゃいました。


「どちらに……と今申し上げてもよろしいですか?」


「あー……馬に乗りたいから、遠乗りできる服装で頼みたいかな?」


「わかりましたわ」





 雲ひとつないよく晴れた日、フェルディア様と共にデートに行くことになりました。第一皇子とももちろん他のお方ともデートなんてしたことがないので、緊張してしまいます。


 我が家に迎えにきてくださったフェルディア様が、そっと手を差し出し、私を馬に乗せて下さいました。その後ろにひらりと飛び乗られます。思ったよりも距離が近くてーーまるで抱きしめられているかのようでーードキドキいたします。


「では、マリー嬢をしばらくお借りいたします」

 爽やかに笑われて、お父様とお母様に挨拶をされたフェルディア様と共に馬に乗って駆け出しました。



「意外と気持ちいいのですね」


「気をつけて、ここからは道が荒れるから舌を噛まないようにね」


 ドキドキも穏やかになった時、馬の上の風を切る感じが気持ちよくて、そうフェルディア様にお伝えすると注意されたので、そっと口を閉じます。




「着いたよ。ここからは、少しだけ歩くよ」


 着いた場所は、雪の降る森でした。雪がちらつく森の入り口から奥へ奥へと道が続いています。不思議と寒くありません。


「まぁ! こんな時期に雪が降っていますわ!」


「少し特殊な場所なんだ」


 フェルディア様に手をとってエスコートしていただき、森の中へ入っていきます。まるで魔法でもかかっているかのように一歩ずつ進むごとに雪が深まっていきます。


「まるで、魔法のようですね」


「よくわかったね、魔力が織りなした空間なんだ」


「そうなんですね! だからこんなにも不思議な感じがするんですね……」


 一歩ずつ歩いていくと、思ったよりすぐ目的地に着いたようです。


「まぁ! 凍った……湖ですか?」


「ここが魔力が一番濃いから、凍ってしまっているんだよ。見て、そこにピンクの羽を広げてハート型に見える鳥たちがいるだろう? 繁殖期の今だけここに集まって、羽をハート型にするんだ」


 そう、フェルディア様の指差す方向には、ピンクのハートがたくさん並んでいます。とても可愛らしく微笑んでしまいました。

 すると、フェルディア様が突然頭を下げ、指を鳴らされます。


「まぁ! これは皇后陛下の!」


 皇后陛下が独自で編み出された魔法を使われました。この魔法の習得は皇后陛下以外不可能と言われるほど大変はずです。魔力量が多くとも、フェルディア様が習得されるのも数年はかかるものだと思われていましたが……。

 空が夜空に変わり、そこに、星をたくさん打ち上げられてオーロラのように美しく輝きます。そして、星たちから綺麗な音楽を流しました。……その星たちが輝きながら、私の元に落ちてきました。


「これは……?」


「僕が母上に教えてもらった後、独自に組み替えたんだよ。マリーのためだけの魔法だ」


 星を手の上で受け止めると、小さくキラキラと煌めき、指輪に変わりました。


「マリー。あなたのことを一目見た時からずっと想ってきました。兄の婚約者だからと気持ちに蓋を閉めてきて、やっと僕の手の届くところに降りてきてくれた。遅くなってしまったけど……僕と、結婚して下さいませんか?」


「こんな私でよければ、喜んでお願いいたします。私もフェルディア様をお慕い申し上げております」


 煌めく星々とハートの鳥たちに隠されて、氷上で、私たちは口づけを交わしました。

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