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第二話「公爵令嬢、初めてのスキル発動」

──ふかふかの布団の感触。


温かく包み込むような寝具に、身体が自然と沈み込む心地よさ。

ゆっくりと瞼を開くと、目の前に広がるのは豪華な天蓋付きのベッドだった。


天井には繊細な彫刻が施された装飾、壁には精巧な刺繍の入ったカーテン。

窓の外から差し込む朝日が、白を基調とした部屋全体を優雅に照らしている。


「……すごい。これが……貴族の暮らし?」


前世で住んでいた狭いワンルームのアパートとは比べものにならない。

豪華で美しく、まるでおとぎ話の中の世界。


「お嬢様! お目覚めになりましたか?」


ふと、扉が開き、メイド服を着た女性が部屋に入ってきた。

薄茶色の髪をすっきりとまとめ、優しげな笑顔を浮かべている。

彼女は私のベッドに駆け寄ると、心配そうに覗き込んだ。


「ご気分はいかがですか?」


「あ……えっと……」


思わず戸惑う。

前世の記憶ははっきりしているが、この世界の常識や立ち回りはまだ分からない。

とりあえず、貴族らしく振る舞うべきだろう。


「大丈夫……ですわ」


──うん、語尾に「ですわ」を付けておけば、それっぽく聞こえるはず。


メイドはホッとしたように微笑み、優しく布団を整える。


「良かったです……お嬢様が倒れられたと聞いたときは、本当に心配しました」


「え? 私、倒れた……?」


思わず聞き返すと、メイドは小さく頷いた。


「昨日の夜、急に熱を出されて……それで、お医者様が診てくださいましたの。でも、今はすっかり元気そうで安心しました」


どうやら、私は転生と同時に発熱して倒れていたらしい。

そのせいで、この屋敷の人たちは本当に心配していたのだろう。


「申し遅れましたが、私はミレーヌ。今日からお嬢様付きの専属メイドとして配属されたミレーヌでございます」


「ミレーヌ……」


おそらく、私に仕えるメイドなのだろう。

この世界のことを教えてもらうには、ちょうどいい相手かもしれない。


(それも今日からなんだ……)


「ミレーヌ、この屋敷って……」


「お嬢様のご実家、エルフェルト公爵家でございます」


やはり、貴族の家だったか。

それも、公爵家ということはかなりの名家のはず。

……となると、私の振る舞いにも気をつけなければならない。


「それでは、お嬢様。お着替えをお手伝いいたします」


──それから、私は貴族の朝を体験することになった。


まず、豪華なドレスに着替え、メイドたちが髪を整える。

その後、ミレーヌに連れられ、広々としたダイニングルームへと案内された。


すると、そこには厳格そうな雰囲気を持つ壮年の男性が座っていた。

深い金色の髪に鋭い青の瞳。

貴族らしい風格を漂わせたその男性こそ──私の父、レオン・フォン・エルフェルト公爵だった。


「リリアナ、おはよう」


「お、おはようございます……お、お父様」


ぎこちなく挨拶すると、父は私をじっと見つめる。

何か言いたげな視線に、思わず身が引き締まった。


「……体調はどうだ?」


「ええ、すっかり良くなりましたわ」


父は少し驚いたような表情を浮かべる。

おそらく、私が貴族らしく振る舞えていることに驚いたのだろう。

前世の知識を活かし、なるべく令嬢らしく振る舞うことを意識する。


「そうか。それならばいい……」


父は一言そう言うと、黙々と食事を取り始めた。

どうやら、あまり口数の多いタイプではないらしい。


私は緊張しながらも、貴族らしい食事マナーを思い出しながら朝食を終えた。


食事が終わると、ミレーヌが私を庭へと案内してくれた。

そこには広大な庭園が広がり、花々が咲き誇っている。


「お嬢様、よろしければ少し散歩でもいかがですか?」


「ええ、そうですわね」


のんびりと庭園を歩いていると、ふと耳に剣戟の音が聞こえた。

何事かと思い、音のする方へ向かうと、そこには訓練場が広がっていた。


「……!」


騎士たちが剣を交え、真剣な表情で鍛錬している。

その光景を見た瞬間、私の体がざわついた。


──剣が気になる。


なぜだか分からないが、心が騒ぐ。

無性に剣を握りたくなった。


「お嬢様? どうなさいました?」


「ミレーヌ……あの剣、持ってみてもよろしいかしら?」


「えっ!? お嬢様が、剣を!?」


驚愕するミレーヌ。

だが、そんなことは気にせず、私はそばにあった一本の剣を手に取った。


その瞬間──


「スキル発動──《剣聖》」


頭の中に、膨大な知識が流れ込んできた。

握り方、足さばき、攻撃の型……すべてが理解できる。


「……!」


自然と体が動く。

無駄なく、流れるような剣捌き。

ただ剣を握っただけなのに、私はすでに熟練の騎士すら凌駕する技術を得ていた。


「お、お嬢様……今の動き……!」


息を飲むミレーヌ。


──その瞬間、私は悟った。


「……あ、これ、もう普通の令嬢には戻れないやつですわね?」

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