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第四話「令嬢の教育、筋肉と剣を学ぶことに!?」

「……お前、本当に俺の娘なのか?」


父──レオン・フォン・エルフェルト公爵のその言葉に、私は一瞬固まった。


まさか、転生者であることを見抜かれたわけではないだろう。

だが、あまりにも唐突な質問に、どう答えるべきか一瞬迷う。


「……お父様、どういう意味ですの?」


私はなるべく冷静を装い、微笑みを浮かべた。

しかし、父の視線は鋭く、私をまっすぐに見据えている。


「今のお前の剣捌き……あれは、ただの素人ができるものではない。

 鍛錬を積んだ歴戦の戦士の、それも極みに達した者だけが到達する領域だ」


「……それが、何か?」


「お前は今まで剣など握ったことがなかったはずだ」


それは、当然のことだろう。

私は公爵令嬢として育てられたはずであり、剣術の訓練を受けた記憶はない。

少なくとも、この身体の“リリアナ”は。


「それなのに、俺の剣を一撃で弾き飛ばした。……これは、普通のことではない」


父は腕を組み、しばらく考え込んだ。

そして、重々しく口を開く。


「リリアナ、お前は……今後、剣術を学ぶべきだ」


「……え?」


一瞬、耳を疑った。

今、なんと?


「貴族令嬢には社交界での立ち振る舞いやマナーが求められるものだが……お前にはそれ以上の才能がある」


「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!」


私は思わず叫んだ。


「私、貴族の令嬢ですのよ!? 剣術を学ぶなんて、そんな……!」


「いや、お前は貴族の令嬢というより、戦士の才を持った者だ」


父はそう断言すると、私の肩に手を置く。


「リリアナ、お前の力を無駄にするのはあまりにも惜しい。……だから、お前は剣を学べ」


「……いやですわ!」


私は思わず後ずさった。

貴族令嬢らしい生活を夢見ていたのに、なぜ筋肉と剣の道を進まなければならないのか!?


しかし、父は冷静に続ける。


「分かっている。貴族令嬢としての教育も受けさせる。だが、それと並行して剣術も学べ」


「……両方!?」


「当然だ」


「……」


この人、本当に容赦がない。


「……つまり、お茶会のマナーと剣術の型を、同時に学ばなければならないということですの?」


「そういうことだ」


完全に詰んだ。


私が呆然としている間に、父はすでに話を進めていた。


「よし、早速今日から訓練を始めるぞ」


「は!? 今日から!?」


「何事も初動が大事だ。強くなるためには、時間を無駄にはできない」


「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!!」


だが、父の意志は揺るがない。

私がどう抗おうと、決定事項らしい。


こうして、貴族令嬢なのに戦士としての教育を受けることになった。


──翌日。


私は朝から庭の訓練場に立たされていた。

手には一本の木剣。

目の前には、父が手配したという騎士が三人並んでいる。


「リリアナ。お前は今日からこの三人と手合わせをする」


「……え、いきなり実戦ですの?」


「当然だ。実戦こそが最も効率の良い鍛錬だからな」


「いえ、普通はもっと基礎訓練から……」


「お前に基礎訓練は不要だろう」


確かに、スキル《剣聖》の効果で、私はすでに騎士たちに匹敵する剣の知識を持っている。

だが、だからといって、いきなり三対一の戦闘はどう考えても無茶では?


「お嬢様、本当に戦われるのですか?」


心配そうに尋ねる騎士の一人。

彼は短く刈り揃えた黒髪に、いかにも実直そうな雰囲気を持っていた。


「もちろんですわ」


私は気丈に答えるが、内心では不安が募る。

だが、ここで怖気づくわけにはいかない。


「では、お嬢様。準備が整いましたら、お申し付けください」


「……分かりましたわ」


私はゆっくりと木剣を構えた。


その瞬間──


スキル発動剣聖


私の身体が、また勝手に動き始めた。


「……なっ!?」


最初に動いたのは、騎士の一人だった。


彼は素早く距離を詰め、私に向かって木剣を振り下ろした。

しかし──


ひゅん。


私はそれを、最小限の動きでかわした。


「はっ……!」


驚愕する騎士。


だが、それだけでは終わらない。

私の身体は、まるで勝手に動くかのように、一瞬で懐に入り込んでいた。


バコォン!!


「ぐっ……!」


私の木剣が騎士の胴にクリーンヒットし、彼はその場に倒れ込んだ。


「お、お嬢様!?」


周囲がざわめく。


しかし、私はもう一人の騎士の動きを捉えていた。


「やるな!」


そう叫びながら、別の騎士が横から斬りかかってくる。

だが、それも遅い。


私は身をひねりながら、最小限の動きでかわし──


ドゴォッ!!


「ぐはっ!」


一撃で相手を地面に叩き伏せた。


……え、ちょっと待って?


私、今二人を瞬殺してしまったのでは?


そして、残る一人の騎士は完全に戦意を喪失していた。


「ひっ……」


彼は震えながら木剣を手放す。


……どうしよう?


「──リリアナ」


ふと、父の声が聞こえた。


「……お前、本当に訓練を受けたことがないのか?」


「……ええ、一度も」


父はしばらく私を見つめたあと、ため息をついた。


「……お前、やはり貴族令嬢というより、戦士の器だな」


こうして私は、貴族令嬢としての道から、確実に外れていくことになった。

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