結局、
例によってみっちゃんと一緒に購買に向かい、パンを買って教室に戻ってくる。
「……
みっちゃんと別れて、自分の席に腰を下ろしたその時。頭上から凛とした声が降ってきた。
顔を上げると、ツリ目の女子生徒があたしを見下ろしていた。
「あ、
あたしは思わず立ち上がる。
長めのウェーブヘアをハーフアップにし、お嬢様然とした雰囲気の少女は……
その委員長様が、腰に手を当ててあたしを睨みつけてきている。
「グループワークの課題、星宮さんだけ提出されてないのだけれど? 今日が提出期限なの、わかってる?」
「あっ、もちろん、わかってます。このあと、職員室に持っていこうと思ってました」
その眼力に気圧され、あたしはしどろもどろになりながら机に手を突っ込む。それから一枚のプリントを取り出すと、彼女に手渡した。
「まったく、先生やグループの皆に迷惑かけないでよね」
「は、はい、すみません」
陰キャの
そんなあたしを一瞥すると、桜小路さんはプリント受け取り、自分の席へと戻っていった。
「……委員長さんも、あそこまで
去っていく桜小路さんの背を見ながら、あたしにしか聞こえないような声でみっちゃんが言った。
「まぁ、気にしないようにしなよ」
努めて明るく言って、みっちゃんは自分の席へと戻っていった。
……そう言われてもねぇ。
理由はわからないけど、あたしは桜小路さんからきつく当たられることが多い。
今回のように、彼女のほうが正しいことも多いのだけど……なんかモヤモヤする。
はぁぁ、こんちくしょー。
なんともいえない苛立ちが湧き上がってきて、あたしは購買で買ってきたチョコチップメロンパンにかじりついた。
『……相変わらず、目ぇ付けられてるよな』
その時、隣の席から優斗の心の声が聞こえた。
思わず顔を向けそうになって、慌てて思い留まる。
『言いたい放題言われてよ。秋乃も少しは言い返せって』
……悪かったわね。陰キャだからとっさに言葉が出ないのよ。
もふもふとメロンパンを頬張りながら、心の中で謝る。
『あれか? 俺がガツンと言ってやったほうがいいのか?』
いやいや、余計なことしなくていいからっ。
『俺のキャラじゃねぇよな……下手すりゃ、俺が秋乃に気があるってバレるし……』
「……へっ?」
つい、声が出てしまった。今、なんて?
「……なんだよ?」
直後、優斗はいぶかしげな視線を向けてくる。
「う、ううん。なんでもない……」
あたしはしばらく視線を泳がせたあと、メロンパンにかじりつく。
「むぐっ……!?」
口の中が妙に乾いていて、うまく飲み込めなかった。
パンと一緒に買ったパック牛乳に慌ててストローを刺し、喉を潤す。
……その間も、優斗の心の声は続いていた。
『まさか今の、口に出てたのか?』
口には出てないわよ。聞こえちゃったけどさ。
大きく息を吐きながら、そんなことを考える。
それから横目で優斗を見る。珍しく顔が赤くなっていた。
もしかして、優斗がずっと話しかけてこなかったのって……恥ずかしかったから?
高校生になって、自分の恋心を自覚しちゃった的な……?
……いやいや、さすがにそれは自意識過剰よ。
そんなことを考えながら、チラチラと優斗の顔を見ていると……彼と目が合った。
「さ、さっきからなんだよ」
その吐き出された声が、明らかに動揺していた。
……ああもう、話しかけるなら今しかない。勇気を出せ、あたし!
「あ、あのさ。優斗に、お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「そ、そう。今度の……日……」
「……なんだよ。聞こえねぇぞ」
次の瞬間、ずいっ、と優斗が体を寄せてくる。それと同時に、なぜかあたしは顔が熱くなった。
「こ、今度の日曜日、空いてる……? その、春樹がさ、サッカー教えてほしいって」
「日曜日……? ああ、別に暇してるからいいぞ」
特に変わった反応も見せずに言い、優斗は体勢を戻す。
『まさか秋乃のほうから話しかけてきてくれるなんて……!』
……いや、澄まし顔をしていたけど、内心めっちゃ喜んでいた。
小さいガッツポーズ、見えてるからっ! なんなのよもう!
「ねぇ、
そんな優斗を横目に、あたしが食事を再開した時……数人の女子が優斗に声をかけていた。
その女子たちの中には、桜小路さんの姿もある。
「……んあ、何?」
「今度の日曜日、皆で映画行こうって話になったんだけど、月城くんも一緒にどう?」
「あー、悪い。先約ある」
「そっかぁ。残念。また今度一緒に行こうねぇ」
気だるげな態度で優斗が言うと、女子たちは残念そうな顔をしながら去っていった。
『セーフっ……』
その時、あたしは優斗とまったく同じ気持ちでいた。
それにしても……さっき、委員長からめちゃくちゃ睨まれてたような。
さすがに気のせいよね……?