「えっ、
その日の夕食時。優斗との約束を取り付けたことを弟の
「そーよー。せっかく来てくれるんだから、今度の日曜日、予定空けときなさいよ?」
「もちろん!」
春樹は心底嬉しそうに言って、夕飯の唐揚げを頬張った。
「最近、優斗くんと疎遠になってる感じだったけど、お母さんの杞憂だったのねぇ」
そんなあたしたちを見ながら、お母さんがニコニコ顔で言う。
高校に入ってから、あたしは優斗と意図的に距離を置いていたし……お母さんの予想は間違っていない。
昨日みたいに話しかけたのだって、ずいぶん久しぶりだ。
「春樹、教えてもらうのはいいが、優斗君にきちんとお礼を言うんだぞ」
「わ、わかってるよ!」
春樹の対面に座るお父さんがそう言い、味噌汁をすする。
「でも、次の日曜日ねぇ……せっかく優斗くんが来るってのに、町内会の集まりがあるのよね~」
心底残念そうにお母さんは言い、はぁ……とため息をついた。
なんでお母さんが残念がってるのよ。
「僕も仕事の打ち合わせが入ってるなぁ。久しぶりに会いたかったんだけど」
お父さんもスマホを確認したあと、そう口にする。
じゃあ、当日はあたしと春樹しか家にいないのね。
せっかくだし、昼ごはんくらい用意したいところだけど……どうしようかしら。
◇
優斗との約束の前日。あたしは朝から準備に追われていた。
「ほらほら春樹、自分の部屋の掃除が終わったら、リビングの掃除も手伝いなさい!」
「ねーちゃん、優斗にーちゃんが来るだけなのに、なんでここまで掃除するんだ?」
「特に意味なんてないわよ! 人様に見せられない惨状だったから、掃除してるだけ!」
不平不満を言いまくる弟にぴしゃりと言い放ち、あたしは掃除機を手に走り出す。
「はっはっは。久しぶりに優斗君が来るから、秋乃も張り切ってるなぁ」
「そんなんじゃないから! お父さん、無駄口叩く暇があったら庭の芝を整えて! こんな状況じゃ、サッカーなんてできないでしょ!」
「はいはい。わかってるよ。まったく父親使いの荒い娘だ」
お父さんはやれやれといった様子で頭を掻き、芝刈り機を手に庭へ向かっていった。
「ふふふ。秋乃も気合入ってるわねー。ところで明日のお昼、何を作るの?」
「一応、チャーハンを作るつもりだけど……?」
「あら、それだと食材が足りないわよ。豚肉も卵もないし」
冷蔵庫を開けながら、お母さんが言う。
「え、うそ!?」
あたしも一緒になって冷蔵庫の中を確認するも、明らかに食材が足りていなかった。
「いつもは月曜日のタイムセールを狙うから。タイミングが悪かったわね~」
右頬に手を当てながら、お母さんは困り顔をする。お肉はともかく、卵がないのはチャーハンを作る上で致命的だ。
「掃除はお母さんが代わってあげるから、秋乃は買い出しに行ってきたら?」
「そうする……すぐに戻るから!」
そう言われるが早いか、あたしは持っていた掃除機をお母さんに託し、財布とスマホを手に家を飛び出した。
……あたしたち家族が買い物に使っているスーパーは、家から徒歩20分くらいのところにある。
普段は車か、一人で行く時はバスを使うのだけど、今日は土曜日ということで本数も少なく、いい時間のバスがなかった。
歩いてスーパーにたどり着いた時、スマホから着信音がした。見ると、お母さんからだった。
「お母さん、どうしたの?」
『秋乃、ごめーん。大事なものがなかったわ』
「大事なもの?」
『お米よ、お米。もしやと思って調べてみたら、全然足りそうにないの』
「えぇ……」
まるで危機感がない声で、お母さんは言う。お米がなければチャーハンは作れない。
『というわけで、お米も一緒に買ってきて~。10キロね~』
そこまで言うと、お母さんは一方的に電話を切ってしまった。
「はぁぁ……」
あたしは大きく息を吐いたあと、財布の中身を確認しながら店内へと向かったのだった。
「ありがとうございました~」
それから買い物を終えて、あたしは帰路につく。
その手には購入予定だった食材のほか、10キロの米袋がある。
「お、重い……」
もとからお米を買う予定なら、リュックとか持ってくるのだけど……今回は用意していない。
タイミングよくバスが通らないかしら……なんて考えつつ、スーパー近くのバス停で時刻表を見てみる。
……次のバスまでは、30分以上あった。
これを待つくらいなら、歩いて帰るほうがいい。
「はぁぁ」
あたしは再び大きなため息をついたあと、米袋を持ち上げて歩き出した。
……それから数分後、あたしは道の脇に設置されたベンチに座り込んでいた。
「ぜぇ、はぁ。うー、このお米、本当に重いんだけど」
普段運動しないし、腕の力なんてないに等しい。そのぶん負担がかかるのか、めちゃくちゃ腰が痛い。
それこそ、お父さんに電話して迎えに来てもらおうかな……なんて考えるも、あたしから庭の芝刈りを頼んだ手前、呼びつけるのも悪い。
家まであと、10分少々。いつもならすぐにたどり着ける距離が、すごく遠く感じる。
「……あれ、秋乃ちゃん?」
もう少し休んだら、出発しよう……なんて考えていた時、聞き覚えのある声がした。
思わず顔を上げると、そこに