10キロものお米を買った、スーパーからの帰り道。
予想以上の重さに歩けなくなっていると、そこに
「
「あ、聖君……」
思わず顔を上げるも、彼と目が合った瞬間に人見知りが発動してしまい、声が出なくなる。
どうして彼がこんな場所にいるんだろう。
「もしかしてそのお米、重くて運べなくなったとか?」
「……は、恥ずかしながら」
視線を泳がせながらそう口にする。我ながら情けない。
「そういうことなら、家まで運んであげるよ。歩いてたってことは、家近いんでしょ」
言うが早いか、聖君は米袋を軽々と持ち上げる。
「あー、いえ、悪い、です……」
「大丈夫だよ。困った時はお互い様。家、こっち?」
あたしが渋るのも気にせず、聖君は歩き出す。
そうなると、あたしもついていくしかなかった。
『……不謹慎だけど、困り顔の秋乃ちゃんもかわいいなぁ』
……はいっ!?
彼の後ろについて数歩歩いたところで、そんな心の声が聞こえた。
……忘れてた。あたし、この人の心の声も聞こえるんだった。
「秋乃ちゃん、休みの日に買い物引き受けるなんて偉いね。俺なら絶対引き受けない」
「その、色々ありまして」
前を歩く聖君が、明るい口調で言うも……あたしの口からは濁すような言葉しか出てこない。
「……休みの日、普段何してるの?」
「え? えっと、読書、とか……?」
「読書っていうと、小説とかそういうの?」
聖君はあたしの歩く速さに合わせてくれつつ、無難な話題を振ってくれる。
一方のあたしは、それに答えるのが精一杯。話題を広げることすらできなかった。
『……できたら、隣を歩いてくれると嬉しいんだけどなぁ』
すると、そんな心の声が聞こえてきた。
確かに、話し相手が後ろにいると、話しづらいかもしれない。
せっかく運んでくれている彼に対し失礼だと思ったあたしは、勇気を出して彼の隣に並ぶ。
……それでも、気を抜いたらじわじわと後ろに下がってしまっていたけど。
「あと、担任の石田先生だけど、あの人の授業さ……」
……聖君はその後も、色々な話題を振ってくれる。
時折、心の声は聞こえていたけど……彼には下心というものが一切感じられなかった。
心の声も、すごく真っ直ぐで。口から出た言葉と勘違いして、思わず答えそうになってしまったほどだった。
やがて住宅地に差し掛かり、あたしの家が見えてきた。
「あっ、ここ、です」
『星宮』と書かれた表札を指差したあと、あたしは聖君から米袋を受け取る。
相変わらずずっしりと重いけど、腰の痛みもずいぶんと回復したし、もう大丈夫だと思う。
「えっと、ありがとう、ございました」
「いいよいいよ。俺んち、ここから近いしさ」
米袋を抱きながらお礼を言うと、聖君は爽やかな笑顔を返してくれる。
これだけ重いものを持たせてしまったというのに、疲れた顔ひとつしていなかった。
「それじゃ、また学校で」
「あっ、はい……」
もう一度お礼を言って頭を下げる。聖君はひらひらと手を振りながら、笑顔で去っていった。
「……はぁ」
その背が見えなくなるまで見送ったあと、あたしは大きく息を吐く。
人見知りあるあるなのだけど、慣れない人と一緒にいるだけで疲れてしまった。
妙に気を使ってしまうというか、考えすぎるというか……本当に困ったものだ。
「秋乃ー、さっきのイケメン君はだーれ?」
「うひゃあ!?」
なんとなく自己嫌悪に陥っていると、すぐ耳元でお母さんの声がした。
「まさかとは思うけど、
笑顔をたたえたまま、お母さんが何か言っていた。
「の、乗り換えたってなに? 最近転校してきた子で、たまたま荷物を運ぶのを手伝ってくれたの」
「ふんふん。なんて子?」
「聖……えーっと」
そこで、あたしは言葉に詰まる。下の名前なんだっけ。
「あー、下の名前忘れちゃった」
「えー、もー、覚えててよー」
何が楽しいのか、お母さんは体をくねくねと動かす。ご近所の人に見られていないか心配で仕方がなかった。
「そ、そんなことはどうでもいいでしょ。はい。言われたお米。あとでお金、返してよね」
さっきまでの人見知りモードはどこへやら。あたしはいつもの調子で言い、お母さんに米袋を押し付ける。
そのまま庭へ足を踏み入れると、お父さんが爆音を響かせながら芝刈り機をかけていた。
あの様子だと、門でのやり取りは聞かれていないっぽい。
……まぁ、おしゃべりなお母さんのことだし、夕飯時にでも「秋乃ったら、優斗くんから転校生の子に乗り換えたのよ」なんて話しかねないけど。
弟の