あたしは昨日の出来事を、みっちゃんに話して聞かせた。
「……というわけで、
そう口にするも、みっちゃんは桜色のフラッペを手に持ったまま、固まっていた。
「……あれ、みっちゃん?」
「もしかして……今まで連絡先交換してなかったの? 幼馴染なのに?」
「え、そうだけど……?」
「はぁぁ……」
あたしがそう伝えると、みっちゃんは肩を落とした。
「
手に持ったポテトを指示棒のように振り回しながら、みっちゃんが言う。
「そ、そうなの?」
「そうだよー。
次にみっちゃんはわなわなと震え、叫ぶ。近くにいたのお客さんの視線が、一瞬だけこちらに向けられた。
「こ、声が大きいって……そう言われても、送れないものはしょうがないじゃない」
「まぁ、わたしも緊張して送れないかもしれないけど……はむっ」
指示棒にしていたポテトを口に放り込み、みっちゃんは考え込む。
「もしかして、みっちゃんも優斗の連絡先、欲しかったりする……?」
「うんにゃ。わたしは秋乃ちゃんの気持ち、知ってるから。全力で応援するだけ」
「あたしの気持ちって……優斗とはただの幼馴染だから」
「うんうん。お互いの気持ちに気づく前、幼馴染たちは決まってそう言うのだよ。それで、メッセージについてだっけ?」
続けてそう言って、みっちゃんは身を寄せてくる。
「あ、うん……」
「朝の挨拶もいいけど、狙うのは21時以降のプライベートタイム。夜遅すぎるのは論外だけど、その日学校であった出来事とか話すとよし」
「ほうほう。今日だと、小テストあったけど、どうだったー……みたいな?」
「そうそう。秋乃ちゃんは赤点確実だから、月城くんから勉強教えてもらえるような流れにできれば、好感度アップのチャンス」
「誰が赤点確実よ。それに、別に好感度アップなんて狙ってないから」
「ありゃ、それは残念」
「でもまぁ、学校であったことは話題にしやすいかもね……他には?」
「他にはねぇ。休日の過ごし方や、趣味について話すのが無難かな……」
……そんな感じに、あたしはその後もみっちゃんから色々なアドバイスを受けたのだった。
◇
やがて17時近くになり、あたしたちはハンバーガーショップをあとにする。
みっちゃんと二人、色々と話しながら歩き……学校まで戻ってきた。
「……あれ?」
すると、校門から見知った顔が出てきた。
「……あそこにいるのって、月城くん?」
そこにいたのは、紛れもない優斗だった。どうして彼がこの時間に学校にいるんだろう。
「
「ちょっと新作スイーツを試しに。月城くんは?」
……こうやって三人で話すことは珍しくないけど、あたしはほとんど場合、聞き専になってしまう。
なんというか、会話に入るタイミングがわからないのだ。
まぁ、みっちゃんが上手に会話を進めてくれるし、嫌な気分ではないのだけど。
「野暮用だよ」
「……はっ、もしかして告白されてたとか?」
「ちげーし。もしそうだったら、告白長すぎだろ」
「それもそっか」
気だるそうに頭を掻く優斗と、からからと笑うみっちゃん。よく見る光景だ。
「まー、月城くんと
「言ってろ」
みっちゃんの軽口を受け流して、優斗が歩き出す。
てゆーか、そのなんとかイケメン、聖君も含まれてるんだ……彼、転校してきたばっかりのはずだけど。
まぁ、高身長で顔も性格も良し、スポーツも運動もできる……ってなると、人気になるのも頷ける。
「はっ、ひょっとしてわたし、お邪魔かな? お邪魔だよね?」
その時、みっちゃんがあたしと優斗を交互に見ながら言う。
「それじゃ、また明日ね~」
その言葉の真意を聞く前に、みっちゃんは手を振って走り去ってしまった。
あたしと優斗は、呆然とその背を見送る。
『いやちょっと待てよ。今ここで俺と秋乃を二人っきりにすんな』
その直後、優斗からそんな心の声が聞こえた。それはあたしのセリフよ。
「あー……帰るか」
一瞬視線を泳がせたあと、優斗はそう言って歩き出す。
あたしは黙って、そのあとに続いた。
……あたしと優斗は昔からの付き合いで、家も近い。
それこそ最初の出会いは、近所の公園だった気がする。
なので、高校生となった今でも、帰る方角は同じ。
まぁ、これまでは一緒に登下校することなんてなかったんだけど……今日は成り行き上、仕方がない。
「……」
先日の聖君との出来事を教訓に、あたしは優斗の隣を歩く。
気を抜いたら後ろに回ってしまいそうだけど、頑張って耐えていた。
「……」
それでも、あたしたちの間に会話はない。この沈黙は辛い。
……そうだ。それこそ、みっちゃんにアドバイスもらった。あれは日常の会話にも応用できるはずだ。
「えっと……優斗、今日の英語の小テスト、どうだった?」
「……それなり、かな」
「そ、そう。あたし、全然だった」
「そっか。まぁ、気にすんなよ」
「うん」
……再び訪れる沈黙。
会話終わっちゃったじゃないのーー! みっちゃんのウソつき!
あたしは心の中で叫ぶ。
ごっめーん、なんて笑ってるみっちゃんの顔が浮かぶようだった。
そーいえば、優斗も積極的に話すタイプじゃなかったわ……。
それこそ、さっきみたいに、みっちゃんが間を取り持つ形で会話することがほとんどだ。
人見知りの陰キャメガネ女子と、クール系男子が一対一。どうやったら会話が盛り上がるというのだろう。
「そ、それで……なんでこんな時間まで学校に残ってたの? まさか、本当に告白されてた?」
必死に頭を働かせて、口から出たのはそんな言葉だった。
「そんなわけねーだろ。天文部の機材運び、手伝ってたんだよ」
『告白なんかされても、ぜってー断るっての』
かったるそうに言ったあと、そんな心の声が飛んできた。
……うん。全力で聞こえなかったことにしよう。
「機材運び?」
「ああ、今日は女子しかいねーって言うから、屋上まで機材運ぶの手伝ったんだよ。赤道儀に望遠鏡とか、女子だけじゃ重たいもんもあるからな」
「へ、へぇ。そうなんだ」
ぶっきらぼうに見えて、頼まれたら断らないのが優斗のいいところだ。
部員が女子ばっかり……っていうのは、ちょっと気になるけど。
優斗もクラスの二大イケメンとか呼ばれるあたり、その子たち、絶対下心があるわよね。
「あれっ、秋乃ちゃんと月城じゃん」
そんなことを考えながら歩いていると、背後から聞き覚えのある声がした。
思わず振り返ると、聖君があたしたちに手を振っていた。