「あれ、
ひらひらと手を振りながら、
制服姿のあたしたちに対し、彼は私服だった。
「聖、どっか行ってたのか」
「夕飯の買い出し。日本のコンビニは何でも揃っててありがたいね」
この二人、知り合いなんだ……と一瞬思うも、同じクラスだし、あたしを挟んで席も近い。
聖君は交友関係が広く、すでにクラスのほぼ全員と良好な関係を築きつつある。
優斗と知り合いでも、何の不思議もなかった。
「二人って、一緒に帰るくらい仲が良かったんだ」
「幼馴染だからな」
「あー、そういえばそんな話、誰かから聞いたような」
優斗があっけらかんと言うと、聖君が思い出したように言う。
誰から聞いたんだろう。少し気になる。
「秋乃ちゃん、あのあと大丈夫だった?」
「へっ?」
唐突に話を振られ、あたしは素っ頓狂な声を出してしまう。
そしてすぐに、聖君に先日荷物を運んでもらったことを思い出した。
「あ……うん。この間はありがとうございました」
「この間?」
あたしがお礼を言うと、優斗はいぶかしげな顔をする。
「その、ちょっとお米運びを手伝ってもらって」
「ああ……」
『くそ、そんなことがあったのかよ……それまでに連絡先を交換してりゃ、すぐ助けに行ったのに』
『ありゃ、ちょっと困らせちゃったかなぁ』
……その時、二人の心の声がほぼ同時に聞こえた。
いまさらだけど、二人の心の声には、それぞれ特徴がある。
優斗の場合、本音が漏れ聞こえる感じだけど、聖君の場合は口から出た言葉から、更に一歩踏み込んだ感じ。裏表がないのだ。
「聖も家、こっちなの?」
「そ。向こうに見えるアパートに一人暮らし」
優斗が尋ねると、聖君は遠くに見える背の高い建物を指し示した。
「じゃあ、帰り道同じか」
「うん。同行させてもらっていい? 俺も月城と話したいしさ」
「勝手にしろ」
優斗はいつものそっけない態度のまま、歩き出す。
一方の聖君は、人懐っこい笑みを見せながらあとに続いた。
一人取り残されそうになったので、あたしも慌てて二人に付き従ったのだった。
……三人で歩き出して、少しの時間が経った。
当初こそ、聖君は優斗と楽しげに会話していたのだけど……気がつけば、あたしは二人に両サイドから挟まれる形になっていた。
右を見れば優斗。左を見れば聖君。
……これって、普段の教室とまったく同じ状況じゃないの!
それに気づいたあたしは、こっそりと速度を落とし、二人の背後に回ろうとする。
ところが、二人はあたしに合わせるように速度を落とす。
結局、あたしはイケメン二人に挟まれるという、羞恥プレイが続いていた。
「……ねぇ見て。すごいイケメン」
「わ。ホントだ」
そうこうしていると、通りすがりの学生たちから、そんな声が飛んでくる。
「せっかくいい絵なのに……二人の間にいる地味子は誰? どっちかの彼女?」
「まさかー。妹とか?」
あちらこちらから、そんな会話が聞こえる。
地味子で悪かったわね……なんて心の中で叫ぶも、道行く人たちからの視線はやまない。
うう、人見知りのあたしにこれはきつすぎる。二人はいつも、こんな視線に耐えて生活してるのかしら。
「そういえば秋乃ちゃん、読書が趣味って言ってたけど」
そうこうしていると、聖君が話しかけてきた。
「え? そう、です……」
あたしはしどろもどろになりながら言葉を返す。
そういえば、聖君にそんなことを教えた気がする。
「俺も本読むよ。ダニエル・キイスとかいいよね」
「あ、アルジャーノンとかいいですよね」
知った作家の名前に、あたしはわずかに声を上ずらせながら言葉を返す。
「いいよね。俺もアメリカ文学は結構読んでるよ。後は有名どころだと、トニ・モリスンとかさ」
「あっ、わかります」
その後も読んだことのある作品名が続き、あたしはたとたどしくも会話を続ける。
『くそっ、会話についていけねぇ……聖のやつ、俺と話したいとか言って、秋乃に気があるんじゃないか?』
その矢先、優斗のそんな心の声が飛んできた。
たまたま共通の話題が出ただけよ。優斗も考えすぎだってば。
◇
それから歩くことしばし。自宅前に到着したところで二人と別れる。
「はぁぁ、色々な意味で疲れたぁ」
そのまま帰宅すると、すぐに部屋着に着替え、リビングのソファに倒れ込む。
「なぁ、ねーちゃん! ねーちゃん!」
するとその時、弟の
この時間になっても、本当に元気よねー。
「え、どうしたのー?」
「また今週末、優斗にーちゃん呼んでくれよ!」
「え、また!?」
春樹の予想外の言葉に、あたしは反射的にソファから身を起こす。
「今日の練習で、コーチにインサイドパスを褒められたんだ! 他の技も教えてほしくてさ!」
ニコニコ顔で春樹は言う。
「えー、途中で遊びに行ったくせに、よく言うわよ」
「あの時は悪かったって思ってるよ! 次は最後までやるからさ! 頼むよ!」
そう言って、あたしを拝んでくる。
「まったく勝手よねー。あんたのおかげで、あたしがどんだけ……」
大変だったか……と言いかけて、あながち大変でもなかったことに気づく。結果的に連絡先を交換できたんだし。
「……わかったわよ。まぁ、聞くだけ聞いてみるわ。優斗だって忙しいんだから、過度な期待はしないでよね」
あたしはそう言ってスマホを手にすると、メッセージアプリを起動した。
『(あきの) 今日は色々と、ありがとうございました』
『(優斗) えらく他人行儀だな』
すぐに既読がつき、そんなメッセージが返ってきた。
『(あきの) 今週の日曜日、空いてますか』
『(優斗) どうした?』
『(あきの) また弟が、サッカー教えてほしいそうです』
『(優斗) 確認してみる』
そこまで会話したところで、メッセージが途切れる。
一息ついた時、自然とメッセージを送れている自分に気づく。
……みっちゃんに相談する必要、なかったかも。
送信済みのメッセージを見ながら、あたしは一人でそう思ったのだった。