目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第11話『いきなり修羅場?』


「あれ、秋乃あきのちゃんと月城つきしろじゃん。二人とも、今帰りなの?」


 ひらひらと手を振りながら、ひじり君があたしたちのほうへとやってくる。


 制服姿のあたしたちに対し、彼は私服だった。


「聖、どっか行ってたのか」


「夕飯の買い出し。日本のコンビニは何でも揃っててありがたいね」


 優斗ゆうとの言葉に、聖君は笑顔で答え、ビニール袋を掲げてみせる。


 この二人、知り合いなんだ……と一瞬思うも、同じクラスだし、あたしを挟んで席も近い。


 聖君は交友関係が広く、すでにクラスのほぼ全員と良好な関係を築きつつある。


 優斗と知り合いでも、何の不思議もなかった。


「二人って、一緒に帰るくらい仲が良かったんだ」


「幼馴染だからな」


「あー、そういえばそんな話、誰かから聞いたような」


 優斗があっけらかんと言うと、聖君が思い出したように言う。


 誰から聞いたんだろう。少し気になる。


「秋乃ちゃん、あのあと大丈夫だった?」


「へっ?」


 唐突に話を振られ、あたしは素っ頓狂な声を出してしまう。


 そしてすぐに、聖君に先日荷物を運んでもらったことを思い出した。


「あ……うん。この間はありがとうございました」


「この間?」


 あたしがお礼を言うと、優斗はいぶかしげな顔をする。


「その、ちょっとお米運びを手伝ってもらって」


「ああ……」


『くそ、そんなことがあったのかよ……それまでに連絡先を交換してりゃ、すぐ助けに行ったのに』


『ありゃ、ちょっと困らせちゃったかなぁ』


 ……その時、二人の心の声がほぼ同時に聞こえた。


 いまさらだけど、二人の心の声には、それぞれ特徴がある。


 優斗の場合、本音が漏れ聞こえる感じだけど、聖君の場合は口から出た言葉から、更に一歩踏み込んだ感じ。裏表がないのだ。


「聖も家、こっちなの?」


「そ。向こうに見えるアパートに一人暮らし」


 優斗が尋ねると、聖君は遠くに見える背の高い建物を指し示した。


「じゃあ、帰り道同じか」


「うん。同行させてもらっていい? 俺も月城と話したいしさ」


「勝手にしろ」


 優斗はいつものそっけない態度のまま、歩き出す。


 一方の聖君は、人懐っこい笑みを見せながらあとに続いた。


 一人取り残されそうになったので、あたしも慌てて二人に付き従ったのだった。



 ……三人で歩き出して、少しの時間が経った。


 当初こそ、聖君は優斗と楽しげに会話していたのだけど……気がつけば、あたしは二人に両サイドから挟まれる形になっていた。


 右を見れば優斗。左を見れば聖君。


 ……これって、普段の教室とまったく同じ状況じゃないの!


 それに気づいたあたしは、こっそりと速度を落とし、二人の背後に回ろうとする。


 ところが、二人はあたしに合わせるように速度を落とす。


 結局、あたしはイケメン二人に挟まれるという、羞恥プレイが続いていた。


「……ねぇ見て。すごいイケメン」


「わ。ホントだ」


 そうこうしていると、通りすがりの学生たちから、そんな声が飛んでくる。


「せっかくいい絵なのに……二人の間にいる地味子は誰? どっちかの彼女?」


「まさかー。妹とか?」


 あちらこちらから、そんな会話が聞こえる。


 地味子で悪かったわね……なんて心の中で叫ぶも、道行く人たちからの視線はやまない。


 うう、人見知りのあたしにこれはきつすぎる。二人はいつも、こんな視線に耐えて生活してるのかしら。


「そういえば秋乃ちゃん、読書が趣味って言ってたけど」


 そうこうしていると、聖君が話しかけてきた。


「え? そう、です……」


 あたしはしどろもどろになりながら言葉を返す。


 そういえば、聖君にそんなことを教えた気がする。


「俺も本読むよ。ダニエル・キイスとかいいよね」


「あ、アルジャーノンとかいいですよね」


 知った作家の名前に、あたしはわずかに声を上ずらせながら言葉を返す。


「いいよね。俺もアメリカ文学は結構読んでるよ。後は有名どころだと、トニ・モリスンとかさ」


「あっ、わかります」


 その後も読んだことのある作品名が続き、あたしはたとたどしくも会話を続ける。


『くそっ、会話についていけねぇ……聖のやつ、俺と話したいとか言って、秋乃に気があるんじゃないか?』


 その矢先、優斗のそんな心の声が飛んできた。


 たまたま共通の話題が出ただけよ。優斗も考えすぎだってば。


 ◇


 それから歩くことしばし。自宅前に到着したところで二人と別れる。


「はぁぁ、色々な意味で疲れたぁ」


 そのまま帰宅すると、すぐに部屋着に着替え、リビングのソファに倒れ込む。


「なぁ、ねーちゃん! ねーちゃん!」


 するとその時、弟の春樹はるきが飛び跳ねるようにやってきた。


 この時間になっても、本当に元気よねー。


「え、どうしたのー?」


「また今週末、優斗にーちゃん呼んでくれよ!」


「え、また!?」


 春樹の予想外の言葉に、あたしは反射的にソファから身を起こす。


「今日の練習で、コーチにインサイドパスを褒められたんだ! 他の技も教えてほしくてさ!」


 ニコニコ顔で春樹は言う。


「えー、途中で遊びに行ったくせに、よく言うわよ」


「あの時は悪かったって思ってるよ! 次は最後までやるからさ! 頼むよ!」


 そう言って、あたしを拝んでくる。


「まったく勝手よねー。あんたのおかげで、あたしがどんだけ……」


 大変だったか……と言いかけて、あながち大変でもなかったことに気づく。結果的に連絡先を交換できたんだし。


「……わかったわよ。まぁ、聞くだけ聞いてみるわ。優斗だって忙しいんだから、過度な期待はしないでよね」


 あたしはそう言ってスマホを手にすると、メッセージアプリを起動した。


『(あきの) 今日は色々と、ありがとうございました』


『(優斗) えらく他人行儀だな』


 すぐに既読がつき、そんなメッセージが返ってきた。


『(あきの)  今週の日曜日、空いてますか』


『(優斗) どうした?』


『(あきの) また弟が、サッカー教えてほしいそうです』


『(優斗) 確認してみる』


 そこまで会話したところで、メッセージが途切れる。


 一息ついた時、自然とメッセージを送れている自分に気づく。


 ……みっちゃんに相談する必要、なかったかも。


 送信済みのメッセージを見ながら、あたしは一人でそう思ったのだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?