……なんで返事が来ないの?
英語の再テストを終えて帰宅したあたしは、夕食を済ませ、リビングでスマホを眺めていた。
ちなみに、再テストは無事に乗り切った。
点数が低かったら再々テストもやると脅された時は背中に冷たいものが流れたけど、なんとか合格点をもらえ、あたしは胸をなでおろした。
それより、今のあたしの気がかりは……先日送った
『(あきの) また弟が、サッカー教えてほしいそうです』
『(優斗) 確認してみる』
このメッセージを最後に、優斗からの連絡はない。
昨日の今日だし、すぐに返事が来なくても仕方ないのだけど……なんかモヤッとする。
「ねーちゃん、一緒にモンバスやろーぜ!」
スマホ画面を見ながらしかめっ面をしていると、お風呂上がりの
「あんた、宿題終わったのー?」
「モンバスのあとにやる予定!」
「先に宿題終わらせなさい。後回しにすると絶対やらないから」
「ちぇー」
あたしが指摘すると、春樹は口を尖らせる。それからドタドタと階段を駆け登っていった。
「なぁに~? 優斗くんからの返事が来なくて悶々としてるの~?」
その時、あたしの背後からスマホ画面を覗き込みながら、お母さんが言う。
「そ、そんなんじゃないし。それに、あたしじゃなくて春樹の用事だから」
「それでも、
あたしは弁解するも、お母さんは笑顔を崩さない。
「早く返事よこしなさい~、ってメッセージ送ってみたら?」
「そんなことできるわけないでしょ!」
思わず声を荒らげる。変に関係がこじれちゃったらどうしてくれるのよ。
「まぁまぁ、僕と母さんだって、最初は文通だったじゃないか。そこから発展していくんだから、長い目で見てあげなきゃ」
そんなことを考えていると、食後のビールを飲んでいたお父さんが、少し赤い顔で言う。
気持ちは嬉しいけど、文通ねぇ……時代を感じるわ。
「あ」
その時、メッセージの受信音がした。
『(優斗) 悪い。今週末、無理っぽい。用事入ってた』
急いで目を通すも、あたしはがっくりうなだれる。
「春樹ー、優斗、今週末ダメだってー!」
「げー! マジかよー!」
それからすぐに、二階の春樹にメッセージの内容を伝える。悲痛な声が階段の上から降ってきた。
「ねーちゃん、色仕掛けでなんとかしてくれよー!」
「いろっ……できるわけないでしょ! 諦めなさーい!」
続く春樹の声に一瞬動揺したものの、あたしはそれを隠すように叫ぶ。
その後も春樹は二階で何か言っていたけど、無理なものはしょうがない。
あたしはスマホをしまうと、お風呂へと向かったのだった。
◇
そして翌日。朝の喧騒に紛れるように教室に入り、自分の席に腰を下ろす。
すでにあたしの席の左右には、優斗と
優斗はいつものように頬杖をついて気だるげにしていて、聖君は仲の良い男子二人と談笑していた。
壁の時計を見ると、朝のホームルームまであと10分ある。微妙な時間だ。どうしよう。
みっちゃんを探すも、彼女がいつも座っている席には誰の姿もなかった。
この時間になってもあの子が来ていないなんて珍しい。どうしたんだろう。
不思議に思っている間にも時間は過ぎ、やがて予鈴が鳴った。
「えー、日直。号令ー」
「起立」
そうこうしていると、担任の石田先生が教室に入ってきた。
「あー、
それから朝のホームルームが始まると、石田先生は開口一番にそう言った。
みっちゃん、体調不良なのかぁ。昼休みにお見舞いメッセージでも送っておこう。
ちなみにうちの学校、校則が比較的ゆるく、スマホの持ち込みは可能だ。
……まぁ、授業中に音を鳴らした瞬間、放課後まで没収確定なのだけど。
その日の授業も淡々と進み、三限目。石田先生の現国の時間となる。
あたしも国語は嫌いではないし、教科書の音読で当てられなければ、楽な授業だった。
その授業も滞りなく進み、そろそろ終わりを迎えようとした時……先生はおもむろに原稿用紙を配り始める。
「皆も、小中学校では読書感想文を書いたことがあるだろう」
不思議に思っていると、石田先生はそう切り出す。
「だが最近は、若者の読書離れが危惧されている。この中で最近、小説を読んだ者は?」
「はーい! はいはい!」
直後、隣の席の聖君が元気よく手を挙げる。
「ほう。聖、何を読んだんだ?」
「『老人と海』です!」
「ヘミングウェイの名著だな。なかなか渋いチョイスだ。他に読んだ者は?」
続いて先生が尋ねるも、手を挙げる生徒はいなかった。
『秋乃ちゃん、こういう時こそ手を上げればいいのに』
『秋乃、手を上げろって』
その矢先、聖君と優斗からそんな心の声が飛んでくる。
確かに読んでるけど……注目されまくるし、絶対無理だから!
あたしは心の中で叫び、俯いて、身を縮こませる。断固拒否の構えだ。
「先程言ったように、読書離れは深刻だ。そこで、本に関心を持ってもらうため、読書感想文を書いてきてもらいたい」
「絶対に無理でーす!」
「本読む時間なんてなーい!」
そんな先生の言葉に、クラス中から大ブーイングが起こる。
「あー、皆の気持ちはわかるが、静かに」
パンパンと胸の前で手を叩き、先生は続ける。
「近々、読書感想文のコンクールがあってな。今回はそのクラス予選も兼ねている。課題図書もないから、好きな本の感想を書いてもらって構わない。ただし現国の授業の一環だから、漫画以外で頼むぞ」
先生の言葉に、数名の男子が悲鳴を上げる。おそらく、漫画で感想文を書く気満々だったのだろう。
「コンクールの締め切りまで時間がなくてな。来週の火曜日までに、原稿用紙二枚分の読書感想文を書いてきてほしい。皆、頼んだぞ」
少し早いが、今日はこれまで……そう付け加えて、石田先生は授業の終わりを宣言。教室から去っていった。
いつもより早く授業が終わり、普段なら教室内は謎の開放感に包まれるのだけど……いまだに教室はざわついたままだった。
……毎回思うんだけど、どうして皆、読書感想文くらいでこんな悲観的になるのよ。
どの本の感想を書こうかしら……なんて考えつつ、あたしは教室を見渡す。
隣の聖君は余裕顔だった。彼も読書家らしいし、読書感想文なんて簡単なのかもしれない。
『読書感想文……マジかよ』
一方……優斗からは、そんな絶望的な心の声が飛んできた。
視線だけを隣に向けてみると、彼は平静を装ってはいたものの、わずかに頬を引きつらせていた。
優斗ってば、昔っから漫画しか読まないもんね……どうするのかしら。